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夜の桜は散る運命にある

#9

8.

「晴!」
「晴くん……?」

 突然の晴の登場に、私と琴葉は唖然とする。

「……なんでここがわかったの?」
「茉白さんのお陰だ。
 夜桜のスマホのGPSで居場所を特定できた」

 お母さんのおかげだ……!

「それより琴葉、どういうつもりだ」
「どうもこうも、あたしは消える。それだけ」
「それだけなわけあるか。何か理由があるはずだ」
「それは……」

 琴葉は言いづらそうに口ごもる。
 その表情を見て私は確信した。

 ——琴葉は晴が好きなんだ。
 あんな明るい顔してて、内心罪悪感に苛さいなまれている状態だったんだ。

「琴葉、一緒に帰ろ? ねえ?」

 私は必死の願いで言葉に言う。

「だから、もう遅いんだって。あたしは消えるしかないの」

 だめだ、振り出しに戻っちゃった。
 私は泣きそうになりながら俯く。

「……けんな」

 晴がボソっと低く呟く。

「ふざけんな‼︎」

 空気が一瞬で張り詰めた。

「“消えるしかない”って何だよ。勝手に結論出してんじゃねえ」
「勝手じゃない! これしか方法がないんだよ!」

 琴葉が言い返す。その声は強いのに、どこか揺れていた。

「だったら説明しろよ! 理由も言わずにいなくなろうとして、納得できるわけねえだろ!」

 晴は一歩踏み出す。
 琴葉は一歩、後ずさる。

「……言ったって意味ない。どうせ、誰にもどうにもできない」
「決めつけんな!」
「決めつけてるのはそっちでしょ! あたしがどんな気持ちで——」

 言葉が途中で途切れる。
 琴葉の拳が震えているのが見えた。

「……っ、もういい。やっぱりあたし——」

 その瞬間。
 胸の奥が、強く締め付けられた。

 このままじゃ、本当に行っちゃう。
 気づいたときには、体が動いていた。
 琴葉に向かって踏み出す。

「待って!!」

 手を伸ばす。
 触れる、直前——
 世界が、止まった。

 できるかどうか不安だったけど、さっきでコツを掴んだっぽい。
 容易に私と琴葉以外が止まった。

「なんで? もう止めらんないって言ったじゃん」
「そんなの関係ない」

 琴葉が目を見開く。
 私がいつもと雰囲気が違うからかもしれない。

「私たちが琴葉にいてほしいの! 戻ってきて、ここにいて!」
「嫌だ。あたしはもう耐えらんない」
「そんなの勝手だ! 琴葉が消えたくて消えていくようには私には見えない! そんな表情じゃない!」

 無我夢中で叫ぶ。

「……当たり前じゃん。けど、でも、どうしていいかわかんないよ……!」

 琴葉が消え入りそうな声で言う。

「自分で決めなよ。とにかく琴葉はここにいろ!」

 そこでまた時が動き出す。
 琴葉は呆然として動かない。
 それを見た晴が駆け出し、琴葉に札を押し当てる。  すると、琴葉の体がみるみる元に戻って行った。

「……え? 晴くん、何で? 何したの?」
「封印の札。貼った相手の状態を止める」
「そうじゃなくて! いやそうだけだど。なんで?」 「……俺だって、お前がいないのは、嫌だ」

 小さく、聞こえないくらい。
 でも琴葉と私の耳には届いた。

「……わかったよ。あたしの負け」

 琴葉がそう呟く。
 私と晴は思わず顔を見合わせる。
「こうなったら吹っ切れるよ。本物の陰陽師よろしく、天音ちゃんを守る!」
「琴葉……!」

 私は琴葉に飛びかかり、抱きつく。
 晴も微笑んでいる。
 晴が笑った⁉︎

 そう思うままなく、また彼は口を真一文字に引き結ぶ。
 まるで、重大な何かを思い出したように。

「夜桜、おまえ……」

2026/04/06 07:40

雨坂結侑
ID:≫ 0pdtWgWyzpc/U
コメント

この小説につけられたタグ

和風ファンタジー陰陽師生贄

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