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里山冒険 『霧に隠された沢の祠』

#1

後編

霧に隠された沢の祠・後日譚
――数を忘れた足跡――』**
あの沢の祠の話を動画にしたあと、一本のコメントがついた。

「その祠、まだ“一つ”だと思ってます?」
気になって、投稿者に連絡を取った。
返ってきたのは、短い一文だけ。
「沢を変えた人間は、三人いた」
次の週、俺は別の尾根から同じ沢を見下ろしていた。
地図には載っていない獣道を使う。
霧の日じゃない。
——あえて、晴れた日を選んだ。
沢は静かだった。
水音も、鳥の声も普通。
でも、足元に違和感がある。

足跡だ。
人のものだけど、行きと帰りが合わない。
登ってきた形跡はあるのに、下りた跡がない。

足跡を追うと、小さな平場に出た。
そこには祠があった。
前に見たものより、少し新しい。

石段は五段。
数えやすい。
——そう思った瞬間、背中が冷えた。

一段目に、小石。
二段目にも、小石。
三段目、四段目、五段目。

全部に置かれている。

祠の前に立った瞬間、耳元で囁く声がした。

「……どこから、数える?」

霧は出ていない。
でも、空間だけが歪んで見える。
段を登った記憶と、登っていない記憶が混ざりはじめる。

そのとき、沢の方から水音が三回、止まった。

古老の言葉を思い出した。

「三人おる。
 一人は数を忘れ、
 一人は数を増やし、
 一人は——最初から数えなかった」

俺は登らなかった。
石段に足をかけず、来た道を逆向きに、段を数えずに歩いた。

背後で、石が転がる音。
祠の気配が、増える。

山を下りきったあと、振り返ると——
尾根の斜面に、三つの平場が見えた。

全部、同じ高さ。
全部、沢を向いている。

翌日、そのコメント主のアカウントは消えていた。
動画のコメント欄には、最後にこんな書き込みが残っていた。

「数えない人間が一番、山に嫌われる」
今も、晴れた日に沢へ行くと、
足跡だけが増えていくらしい。
——下りた数を、誰も覚えていない。

2026/01/27 22:57

里山
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