突然ですが!ここでクイズでーす。
Q.今、うちは何に悩んでいるでしょうか?
解答者のみなさん、頭をひねられていますね。当然です。この難問、設問はあの天才小学生、宵宮[漢字]火闇[/漢字][ふりがな]かぐら[/ふりがな]!解ける人ははたして、現れるのでしょうか。
おやおや、どうやら設問にミスがあったようです。なんですって…作成者にも、答えが分からない?
とりとめのない妄想だけが、うちの唯一の拠り所だった。
学校に行っても、毎日が地獄。息苦しくて、臭くて、…まるで腐った生魚でできてる部屋に、つま先立ちで立ってるみたいだった。
自分がなんでこんなことをされるのかが分からなくて、でも物語のなかのキレイな被害者みたいにしおらしくはなれなくて、ムクムクと怒りが頭をもたげる。そのくせ、力はない。まず自分が分からなくて、毎日。
Q.うちは何でしょうか?
間違いばかりの解答、解答。オーディエンスは役立たず。
チャリン、と音がして、意識を引き戻される。目の前に、「合格」と書かれたお守りみたいなキーホルダーが落ちていた。
顔をあげて、キョロキョロと周りを見渡す。あっ、あの人だ。なんだかビクビクして歩いてる、あのお姉さん。
たぶん高校生であろう彼女に声をかけるのはちょっと気が引けたが、とりあえず気づいてもらえるよう、大声で叫んだ。
「おーい、そこのお姉さーん!キーホルダー落としたよー!」
彼女は怯えたようにこちらをちらりと見て、そのまま、…全力で、逃げ出した。
…えっ、何で?何で逃げる?
「ちょっ…待ってねえお姉さーん!落としたってば!これえ!」
うちも彼女を追いかける。体格差はあれど、たぶんお姉さんは日頃運動してないタイプの人だと見え、距離はそう離れなかった。
ただ、こちらとしてはそれが1番厄介なのだ。
追いつくことができるか、猛スピードで追いつけない程に引き離されるか、どっちかにしてほしい。中途半端に追いつけそうなこの距離を保たれると、いつまでも追いかけ続けることしかできないではないか。というかそれ以前に、マジで何で逃げる?
「お姉さーん!待ってー!」
うちは叫びながら無我夢中で彼女を追い続け、気づいたときには。
なんだか不思議な、知らない森に迷い込んでいた。
「…おじゃま…しまーす」
一応声をかけながら、恐る恐る、先ほど見つけたその廃墟のような洋館の扉に手をかける。玄関に張り紙があったから、ここに誰かが暮らしているのは間違いない。
[明朝体][太字]命中率99.8%!? 魔女たちの占いの館、営業中[/太字][/明朝体]
[明朝体]日常に疲れた、大切なあの人との関係がこじれた、罪の意識に苛まれている、悪夢が続く。大から小までお悩みを抱えた方は、ぜひこの先の本館へお越しくださいませ。占いのスペシャリストである魔女が、適切なアドバイスで貴方のお悩みを一気に解決!
報酬は高いのかって?とんでもない。報酬として私どもがいただくのは、貴方が忘れてしまいたい、イヤな思い出。営業はいつでもいたしております。どうぞお気軽に、ご相談ください。[/明朝体]
なんだよ。なんだよ…確かにいつでも「物語の世界に入りたいなあ…」なんて考えてたけど、ここまでガチガチな体験はいらないって。何かを追いかけて異世界に迷い込むって、不思議の国のアリスじゃん。だとしたらあのお姉さんはウサギか?なんか臆病そうだったし、案外似合うのでは。
「あら、お客様ですか?」
「ぎゃあああああっ!」
背後から急に、声をかけられた。振り向くとそこには、大きなとんがり帽子を被った優しそうなお姉さんが。やめてくれ、心臓が飛び出るかと思った。
「驚かせてしまい、申し訳ございません」
ミゼ、と名乗ったお姉さんは、本当に心の底から申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。これも正直やめてくれ、こういう“被害者が上手い人”の前にいると、自分がとてつもない悪人に思えてきてしまうから。
荒れ放題の庭を抜けた先で、館の扉を開け中を覗こうとした瞬間、彼女…ミゼさんは、声をかけてきたのだった。そりゃ声をかけるだろう。あわよくば不法侵入で訴えられかねないのに、こんなに優しく応対してもらえる方が奇跡というものだ。
「お名前を教えていただけますか?」
「宵宮…火闇。かぐらです。呼び捨てで呼んでください」
「え?…えーっと、お客様ですので呼び捨てはちょっと…火闇さん、ではいけませんか?」
「うちみたいなガキにさんづけする人なんて、先生くらいしかいないです。呼び捨てで」
困っている様子がちょっとおもしろくて食い下がってみたが、ミゼさんが尚も渋るので、流石に可哀想になって妥協した。
ここは、うちがさっきあれよあれよと言う間に連れてこられた、お悩み相談ルームである。
とにかく開放感の溢れまくる、一面ガラス張りの森林ビュー。燦々と降り注ぐ日光が暖かな木のテーブルに木漏れ日を落とし、艷やかな板張りの床には、ラグのかわりにみずみずしい緑の芝生が植えてある。
この部屋の明るさもオシャレさもなにもかもが、うちに不釣り合いっぽい。居心地が良いのに、居心地が悪い。
なんと言えば良いのだろうか。健全?…そう、健全すぎるのかもしれない。目の前で微笑むミゼさんも。優しくて穏やかで清楚で、一点の曇りもなさそうな、理想的な可愛いお姉さん。モテるだろうなあ。…たぶん。
彼女のキレイな声で語られた説明は、にわかには信じがたいものだった。
まず、ミゼさん含めこの館に住んでる人は、全員魔女だってこと。
魔法界の森に店を構えるここ、“トライアングル・ウィッチハウス”では、魔法薬・魔道具専門店を営んでいるらしい。少し前、人間を相手にした占い稼業を始めたんだそう。ただ、どうしてですか?と尋ねても、ミゼさんは「部外秘です」とニッコリ。
…あ、ちょっと心がズキッとした。うちにこんな優しくしてくれるのも、あくまで仕事だから…だもんね。
とにかくあの胡散臭い張り紙に書いてあったことは、全部ホントなんだってことだった。
「…で、ミゼさんはなんでうちを見ただけで“お客様”って言ったんですか?うち、人を追っかけてたらここに来てただけなんですけど」
「いつのまにか、ここに来られた。…ということは、何か悩みを抱えていらっしゃるということです。通常、人間の方はここに入ってはこられませんから。…ああ、そういえば火闇さんが追いかけてこられた方も、とりあえずはお客様としてうちの腕利きカウンセラーが応対しています。用件は、あとで彼女に伝えられたらよろしいでしょう」
…そういうことなら、ちょっと相談してみようかな。報酬もお金じゃないらしいし、やるだけやってみてもいいかも。
なんか、消極的なうちにしては珍しいな。こんな風にに人と喋りたくなる気持ち、久しぶりかもしれない。
その「占いの間」らしくない健全な明るい空間の中、変にするすると言葉が出てきた。
「…妄想癖…って言うんですかね。うち、趣味は何ですか?って聞かれたら、迷わず「現実逃避」って答えると思うんですよ。聞かれたことないけど」
Q.なぜ男子というものは、人間ではなくまるで猿のようなのでしょうか?
心の底から軽蔑しきることで、自分の中でだけ強くなれたような気がしてた。相手は格下、達観してるうちが上。間違いなくうちは自分を持ってて、あいつらが勝手に振り回されてるだけのかわいそうな猿ども。
…ただ、それを自分の外に出す勇気がなかっただけで。
もっと小さいころは知らなかったけど、人って思った以上に、自分視点でものを見ている。自分と他人では、思考回路も性格も何もかもが違うってことを頭では理解していても。自分の中で勝手に思っていることを、無意識に相手も思っている、という前提を作ってしまう。だから会話をしててお互いに違う連想ゲームを脳内で繰り広げていた場合、「なんで今の話からその話題に?」って謎に思うことが、結構ある。
つまり、を言えば。
うちの中では猿って設定だったあいつらと、周りの大多数の中では、うちは格下だった、ということだ。
ホントに。
Q.うちは、何なのでしょう?
…正解は、まだ分からない。
Q.今、うちは何に悩んでいるでしょうか?
解答者のみなさん、頭をひねられていますね。当然です。この難問、設問はあの天才小学生、宵宮[漢字]火闇[/漢字][ふりがな]かぐら[/ふりがな]!解ける人ははたして、現れるのでしょうか。
おやおや、どうやら設問にミスがあったようです。なんですって…作成者にも、答えが分からない?
とりとめのない妄想だけが、うちの唯一の拠り所だった。
学校に行っても、毎日が地獄。息苦しくて、臭くて、…まるで腐った生魚でできてる部屋に、つま先立ちで立ってるみたいだった。
自分がなんでこんなことをされるのかが分からなくて、でも物語のなかのキレイな被害者みたいにしおらしくはなれなくて、ムクムクと怒りが頭をもたげる。そのくせ、力はない。まず自分が分からなくて、毎日。
Q.うちは何でしょうか?
間違いばかりの解答、解答。オーディエンスは役立たず。
チャリン、と音がして、意識を引き戻される。目の前に、「合格」と書かれたお守りみたいなキーホルダーが落ちていた。
顔をあげて、キョロキョロと周りを見渡す。あっ、あの人だ。なんだかビクビクして歩いてる、あのお姉さん。
たぶん高校生であろう彼女に声をかけるのはちょっと気が引けたが、とりあえず気づいてもらえるよう、大声で叫んだ。
「おーい、そこのお姉さーん!キーホルダー落としたよー!」
彼女は怯えたようにこちらをちらりと見て、そのまま、…全力で、逃げ出した。
…えっ、何で?何で逃げる?
「ちょっ…待ってねえお姉さーん!落としたってば!これえ!」
うちも彼女を追いかける。体格差はあれど、たぶんお姉さんは日頃運動してないタイプの人だと見え、距離はそう離れなかった。
ただ、こちらとしてはそれが1番厄介なのだ。
追いつくことができるか、猛スピードで追いつけない程に引き離されるか、どっちかにしてほしい。中途半端に追いつけそうなこの距離を保たれると、いつまでも追いかけ続けることしかできないではないか。というかそれ以前に、マジで何で逃げる?
「お姉さーん!待ってー!」
うちは叫びながら無我夢中で彼女を追い続け、気づいたときには。
なんだか不思議な、知らない森に迷い込んでいた。
「…おじゃま…しまーす」
一応声をかけながら、恐る恐る、先ほど見つけたその廃墟のような洋館の扉に手をかける。玄関に張り紙があったから、ここに誰かが暮らしているのは間違いない。
[明朝体][太字]命中率99.8%!? 魔女たちの占いの館、営業中[/太字][/明朝体]
[明朝体]日常に疲れた、大切なあの人との関係がこじれた、罪の意識に苛まれている、悪夢が続く。大から小までお悩みを抱えた方は、ぜひこの先の本館へお越しくださいませ。占いのスペシャリストである魔女が、適切なアドバイスで貴方のお悩みを一気に解決!
報酬は高いのかって?とんでもない。報酬として私どもがいただくのは、貴方が忘れてしまいたい、イヤな思い出。営業はいつでもいたしております。どうぞお気軽に、ご相談ください。[/明朝体]
なんだよ。なんだよ…確かにいつでも「物語の世界に入りたいなあ…」なんて考えてたけど、ここまでガチガチな体験はいらないって。何かを追いかけて異世界に迷い込むって、不思議の国のアリスじゃん。だとしたらあのお姉さんはウサギか?なんか臆病そうだったし、案外似合うのでは。
「あら、お客様ですか?」
「ぎゃあああああっ!」
背後から急に、声をかけられた。振り向くとそこには、大きなとんがり帽子を被った優しそうなお姉さんが。やめてくれ、心臓が飛び出るかと思った。
「驚かせてしまい、申し訳ございません」
ミゼ、と名乗ったお姉さんは、本当に心の底から申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。これも正直やめてくれ、こういう“被害者が上手い人”の前にいると、自分がとてつもない悪人に思えてきてしまうから。
荒れ放題の庭を抜けた先で、館の扉を開け中を覗こうとした瞬間、彼女…ミゼさんは、声をかけてきたのだった。そりゃ声をかけるだろう。あわよくば不法侵入で訴えられかねないのに、こんなに優しく応対してもらえる方が奇跡というものだ。
「お名前を教えていただけますか?」
「宵宮…火闇。かぐらです。呼び捨てで呼んでください」
「え?…えーっと、お客様ですので呼び捨てはちょっと…火闇さん、ではいけませんか?」
「うちみたいなガキにさんづけする人なんて、先生くらいしかいないです。呼び捨てで」
困っている様子がちょっとおもしろくて食い下がってみたが、ミゼさんが尚も渋るので、流石に可哀想になって妥協した。
ここは、うちがさっきあれよあれよと言う間に連れてこられた、お悩み相談ルームである。
とにかく開放感の溢れまくる、一面ガラス張りの森林ビュー。燦々と降り注ぐ日光が暖かな木のテーブルに木漏れ日を落とし、艷やかな板張りの床には、ラグのかわりにみずみずしい緑の芝生が植えてある。
この部屋の明るさもオシャレさもなにもかもが、うちに不釣り合いっぽい。居心地が良いのに、居心地が悪い。
なんと言えば良いのだろうか。健全?…そう、健全すぎるのかもしれない。目の前で微笑むミゼさんも。優しくて穏やかで清楚で、一点の曇りもなさそうな、理想的な可愛いお姉さん。モテるだろうなあ。…たぶん。
彼女のキレイな声で語られた説明は、にわかには信じがたいものだった。
まず、ミゼさん含めこの館に住んでる人は、全員魔女だってこと。
魔法界の森に店を構えるここ、“トライアングル・ウィッチハウス”では、魔法薬・魔道具専門店を営んでいるらしい。少し前、人間を相手にした占い稼業を始めたんだそう。ただ、どうしてですか?と尋ねても、ミゼさんは「部外秘です」とニッコリ。
…あ、ちょっと心がズキッとした。うちにこんな優しくしてくれるのも、あくまで仕事だから…だもんね。
とにかくあの胡散臭い張り紙に書いてあったことは、全部ホントなんだってことだった。
「…で、ミゼさんはなんでうちを見ただけで“お客様”って言ったんですか?うち、人を追っかけてたらここに来てただけなんですけど」
「いつのまにか、ここに来られた。…ということは、何か悩みを抱えていらっしゃるということです。通常、人間の方はここに入ってはこられませんから。…ああ、そういえば火闇さんが追いかけてこられた方も、とりあえずはお客様としてうちの腕利きカウンセラーが応対しています。用件は、あとで彼女に伝えられたらよろしいでしょう」
…そういうことなら、ちょっと相談してみようかな。報酬もお金じゃないらしいし、やるだけやってみてもいいかも。
なんか、消極的なうちにしては珍しいな。こんな風にに人と喋りたくなる気持ち、久しぶりかもしれない。
その「占いの間」らしくない健全な明るい空間の中、変にするすると言葉が出てきた。
「…妄想癖…って言うんですかね。うち、趣味は何ですか?って聞かれたら、迷わず「現実逃避」って答えると思うんですよ。聞かれたことないけど」
Q.なぜ男子というものは、人間ではなくまるで猿のようなのでしょうか?
心の底から軽蔑しきることで、自分の中でだけ強くなれたような気がしてた。相手は格下、達観してるうちが上。間違いなくうちは自分を持ってて、あいつらが勝手に振り回されてるだけのかわいそうな猿ども。
…ただ、それを自分の外に出す勇気がなかっただけで。
もっと小さいころは知らなかったけど、人って思った以上に、自分視点でものを見ている。自分と他人では、思考回路も性格も何もかもが違うってことを頭では理解していても。自分の中で勝手に思っていることを、無意識に相手も思っている、という前提を作ってしまう。だから会話をしててお互いに違う連想ゲームを脳内で繰り広げていた場合、「なんで今の話からその話題に?」って謎に思うことが、結構ある。
つまり、を言えば。
うちの中では猿って設定だったあいつらと、周りの大多数の中では、うちは格下だった、ということだ。
ホントに。
Q.うちは、何なのでしょう?
…正解は、まだ分からない。
- 1.序章 Witches in the evening
- 2.夢幻の恋・前編 担当占い師:リーエ
- 3.夢幻の恋・中編 担当占い師:リーエ
- 4.夢幻の恋・後編 担当占い師:リーエ
- 5.幕間 a noble which in the kitchen
- 6.無気力ワットエバー・前編 担当占い師:ミゼ
- 7.無気力ワットエバー・中編 担当占い師:ミゼ
- 8.無気力ワットエバー・後編 担当占い師:ミゼ
- 9.幕間 a genius witch in the ritual room
- 10.兎の耳に掛けた鍵・前編 担当占い師:シーラ
- 11.兎の耳に掛けた鍵・中編 担当占い師:シーラ
- 12.兎の耳に掛けた鍵・後編 担当占い師:シーラ
- 13.幕間 a curious witch in the garden
- 14.背信と棄義のワルツ・前編 担当占い師:リーエ
- 15.背信と棄義のワルツ・中編 担当占い師:リーエ
- 16.背信と棄義のワルツ・後編 担当占い師:リーエ
- 17.間章 Witches in the night
- 18.クレペリン式遁走譚・前編 担当占い師:リーエ
- 19.クレペリン式遁走譚・中編 担当占い師:リーエ
- 20.クレペリン式遁走譚・後編 担当占い師:リーエ
- 21.幕間 the inside story of pure witch 〜リーエのひみつ〜
- 22.限局性漫劇のすゝめ・前編 担当占い師:ミゼ
- 23.限局性漫劇のすゝめ・中編 担当占い師:ミゼ
- 24.限局性漫劇のすゝめ・後編 担当占い師:ミゼ
- 25.幕間 the inside story of cursed witch 〜ミゼのひみつ〜
- 26.ハルモニア・前編 担当占い師:シーラ
- 27.ハルモニア・中編 担当占い師:シーラ