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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#20

クレペリン式遁走譚・後編 担当占い師:リーエ

「まずは、零ちゃんとミキちゃんの今までのことについて教えてね。二人が出会ったのはいつのことかな?」
リーエさんの言葉を疑いつつも、とりあえずは答えることにした。
「…幼稚舎からです。幼馴染で、それ以降もずっと親友なんです」
「へえ!そんな長い時間一緒にいたんだ、相当仲が良いんだね!」
リーエさんは幼い顔に笑顔をほころばせ、それにつられてついついこちらも笑顔になってしまう。
懐かしいな。小さなころから口下手で臆病で、あまり上手くコミュニケーションができなかった私と、いつもはきはきと明瞭だったミキちゃん。いつだってまっすぐな瞳で、「れーちゃんが困ったら、わたしが助けてあげる。わたしがれーちゃんを守るから」なんて言ってくれてたっけ。
リーエさんはもう一口マグを啜ると、また質問を続けた。
「じゃあ小学生の頃も、そのまま仲が良かったと。ストーカー被害が始まったのは中学生の頃だっけ。その頃はどうだったの?」
「…わたしは、れーちゃんと違う中学だったんす。二人とも公立進学だったんで、学区の問題で。それでも仲は良いままでした。連絡も毎日のように取り合って、ちょくちょく遊んだりもしてた」
絞り出すように、ミキちゃんは言った。まるで、違う学校に行ったのを後悔してるみたいに。
「わたしがついていれば、れーちゃんもあんなクソキモおっさんに神経削られることはなかったかもしれないのに…」
「そんなことないよミキちゃん!」
私が必死で言うけど、ミキちゃんの悔しそうな表情は晴れない。
「ふーん。ちなみに零ちゃんは、手紙の段階でミキちゃんに相談はしてたの?」
「…手紙の段階では、親と同じで、心配かけたくなくて…相談してませんでした。ただ…二人とも同じ高校が第一志望だってことが分かったあたりに…つきまとい行為が始まったので、そこで初めて相談したんです」


…何それ!なんでもっと早く言ってくれないの!

週末、二人でショッピングの帰り道を歩いている時、後方にいるアイツに少し怯えていたのを気取られたのか、ミキちゃんが「あのおっさん、誰?知り合い?」とヒソヒソ尋ねてきた。
…ストーカー。最近ずっと私を尾けてくるんだ。
なるべく心配をかけないように、軽く、明るくそう言ったつもりだった。だけど、その時私がものすごく怖い思いをしていたことに気づいてくれたのだろう。やや強めに檄を飛ばし、そして言ってくれた。


「“れーちゃんは、私が守ってあげる”って言ってくれたんですよ」
「へえー!イケメンじゃん、ミキちゃん」
懐かしい記憶を手繰り寄せて話し、目を開けると。ニヤニヤしながらそう言うリーエさんが見えた。ミキちゃんは少し照れているらしく、それを隠すかのように早口で言った。
「とにかく、そこからできる限りのことはしました。れーちゃんもわたしも受験生で、あんなストーカーみたいなゴミ野郎に邪魔させてらんねえって思ったんで。それこそ証拠を集めたり、人通りの少ないところではなるべく一緒にいたり」
「そっか。めっちゃいい奴じゃん!それで?無事に受験は受けられたの?」
「受けました。合格したんす二人とも。で、今同じ高校のクラスメイトっす」
そう言ったミキちゃんに、違和感を覚えた。

「…?ねえミキちゃん、クラスの席、今どこだっけ?」
「何言ってんの?窓際、前から三列目」
「…え、それって私の席じゃ」
「うん?そうだっけ。まあいいじゃん。受かってさ、一緒に高校生ライフ楽しんだんだから」
ミキちゃんはこちらを見つめる。まっすぐな目。
ああ、そっか。まあいいか。一緒に…私とミキちゃんは…


「はいストップ」
声がして、急にリーエさんが私の視界を何かで塞いだ。これは…さっきのカード?

「何か変だとは思ったんだよね〜、さっきからちゃんとしまったはずのこのカード、めっちゃ落ちてくるし。これ、タロットからのメッセージだったんだね。ありがと、もう分かってるから大丈夫」
リーエさんはそのカードに話しかけ、それを…“月”のカードを、棚にしまった。


「なるほど。大体分かった。トリガーは受験の…合格発表の日だね。零ちゃんは、その日からのミキちゃんの記憶があいまいになっている」
「何言ってんすか…わたしとれーちゃんは、親友で」
「ミキちゃんは少し黙って」
今までにない、強い口調でミキちゃんを制するリーエさん。そのまま、リーエさんは続ける。
「“月”のカードは、タロットでは“幻想”や“不安定な幻覚”を意味する。…零ちゃん、ちょっと落ち着いて聞いてね」



「リーエは、零ちゃんと出会ってから今まで、一度も“ミキちゃん”という人と会っていない」
リーエさんはゆっくりと、そう言った。

「は?…何言ってるんですか、ねえミキちゃ…」
隣に座っていたはずのミキちゃんが、いつのまにか消えている。

「思い出して。あの日、合格発表の日」


本当は、何があった?













ピーポーピーポー…
救急車と、パトカーの音が耳に響いていた。
呆然と立ち尽くす私の前には、信じられない光景が広がっていた。

取り押さえられ刃物を奪われて、暴れながらパトカーに乗せられていく、アイツ。
さっきまで、合格した、やった、と騒いでいた学生たちが、泣き出し、騒然としている姿。
私とミキちゃんの受験番号が書かれた掲示板。

血だらけになって、ストレッチャーに乗せられ、救急車に運ばれていく、ミキちゃん。




「やった!合格したよミキちゃん!」
「わたしも!良かったあ…」
掲示板に貼られた張り紙の隅っこの方に、私とミキちゃんの番号を見つけて、私たちは飛び上がって喜び、そのまま抱きついた。お互いに抱きしめあいながら、涙を流していた。

その時だった。
「…いつまでも…俺を無視しやがって…」
後ろから、何回も聞いたことのある、おぞましい声がした。
ふー、ふー…という息遣いに瞬間的に鳥肌が立ち、思わずそちらを振り向くと。


「きゃあああああああ!」
誰かが叫んで、その瞬間、景色がスローモーションになった。
アイツが、身体の中央に両手で包丁を持ちながら、こちらに突進してくる。
その一挙手一投足が、鈍く光る包丁の輪郭が、はっきりと鮮明に見えていた。
アイツが私のところにたどり着き、その刃物を私に刺そうとした時。

ドン、という音がして、目の前に出てきて私をかばったミキちゃんが、倒れた。
路上に赤い血溜まりが流れて、周囲が騒然となったのを覚えている。


私は、動けなかった。









「私は、私は…何もできなかった。かばってくれたミキちゃんに、何もしてあげられなかった」
「そうだね。辛い記憶を、よく思い出してくれた。ありがと」
目の前で微笑むリーエさんに、すがるように泣きついた。
「私は…!」
リーエさんが、そのまま続けた。
「おかしいな、とは思ってたんだよ。零ちゃんは一人で、声色も性格も違うもう一人の言葉を発してるし、誰もいないのに椅子を2つ用意して、チョコレートも1つ足りないと言ってた。細かいところでは、誘拐までされかけてるのに警察が動いてくれないのは変だし、その“ミキちゃん”って子はリーエが“証拠を集めたら”とか“零ちゃんが病気かも”って言っただけで、不自然なほどに強くそれを否定した。ああ、零ちゃんが“クラスのどこの席だっけ”って聞いたときも、変にはぐらかしてたね。
…それで、最初は二重人格かなんかだと思った。だけど、しばらく話しているうちに、気づいたんだよね」


「零ちゃん、あなたは古魔術医学でいう“おひき病”…人間界でいうところの、“PTSD”に該当する。心的外傷後ストレス障害…過去にトラウマとなるような何かが起こって、そこからせん妄の症状が出ているんだと考えた。もう気づいてるとは思うけど、たぶんミキちゃんは、ストーカー男に刺されたあと、そのまま亡くなったんだね?」




…れーちゃんは、わたしが守ってあげる。

ずっと、ずっと、アイツだと思っていた何かから逃げていた。逃げて、逃げて、逃げ続けて。でもその度にミキちゃんが、私を助けてくれてたと、思い込んでた。


「…ごめんねミキちゃん…ごめんね…!守られて、ばっ…ばっかりで…」
しゃくりあげながら、さっきまでミキちゃんがいた、虚空に向かって話しかける。手は空を切るばかりで、謝罪の言葉を届けるべきだった親友は、もういない。

リーエさんが、優しく声をかけた。
「ミキちゃんは、零ちゃんに心から感謝してたみたいだよ」
「…ミキちゃんが…?」
泣き腫らしたぐしゃぐしゃの顔のまま、リーエさんを見る。
「タロットで分かったんだ。ミキちゃん、小さいころ、自分の言い方がきつすぎるせいであんまり誰とも馴染めなくて、そんな自分に、いつでも優しい零ちゃんが声をかけてくれた。零ちゃんが友達になってくれたおかげで、自分は変われたんだって。だから、そんな自分を助けてくれた零ちゃんの優しさにあこがれて、自分も零ちゃんが困ってるとき、絶対助けてあげようって決めてたんだって」

…れーちゃんは、私が守ってあげる。
親友の笑顔が、心に浮かぶ。

「だからね、零ちゃん。あなたに、自分の分まで楽しく生きてほしいって。もう零ちゃんを怖がらせるものは何もない。自分が命をかけて守った零ちゃんの未来と可能性を、めいっぱい使い切って生きてほしいんだってさ」

「ミキちゃん…!」
涙が、溢れて止まらなかった。
ごめんね、ごめんね、…ありがとう、ミキちゃん。
どこかから、「どういたしまして」なんてぶっきらぼうな声が、聞こえたような気がした。









「落ち着いたかな?あれだけのショックがあったんだから、きっとなかなか完治はしないだろうね。これからゆっくり、カウンセリングを受けて、本来の零ちゃんに戻っていけばいい。ミキちゃんもずっと応援してると思うよ。
…それでね。その治療の第一歩として」
リーエさんがそこまで言いかけたところで、扉が開いた。そこにはリーエさんと同じくらい小さな女の子と、優しそうな華奢な少女が立っている。
「リーエさん、お連れしましたよ」
「ああミゼ、ご苦労さん!…零ちゃん、この子は、零ちゃんがこの館に飛び込んできたあとに追いかけてきた子。きっと、零ちゃんがストーカーだと思い込んでいた足音の正体だと思う。今まで恐れていたストーカーの幻覚は、きっとこんな可愛い女の子かなにかだったんだよ。それを意識すれば、せん妄の症状も徐々になくなっていく、と思う」
ミゼ、と呼ばれた少女に答えると、リーエさんはそう囁いた。

女の子が私に、なにかを渡してくれた。
「お姉さん、このキーホルダー落としたよ。追いかけて渡そうとしたんだけど、お姉さん逃げていっちゃうから…」
「あっ…ありがと…君は…?」

「うちは、かぐら。…これ、大事なものだったらどうしようって、追いかけてきて良かった」
にっこりと笑ったかぐらちゃんの笑顔が、なんだかミキちゃんにそっくりで。
私は少し泣きそうになりながら、ありがとう、と笑った。









“それにしても…「一度も見ていない」なんて、よくそんな大それた嘘言ったもんだよ。何回もさ、こうして会ってるじゃん”
「“零ちゃんと出会ってから今まで”っていったもん。嘘じゃないよーだ」
彼女が帰ったあと、リーエは誰かと話していた。
“それに「タロットで分かった」とか…お前そんな技量ないだろ、バチバチにカンニングしてんじゃん”
「うっさいなあ!結果的に君の親友を助けてあげられたんだから黙ってろよミキお前!」


日本管轄の魔女であるリーエたちは、ハロウィン、お盆、春と秋のお彼岸の時期…つまり「死者が帰ってくる」日になると、大量の亡霊たちの交通整理に駆り出されることになる。数多の霊たちの確認作業をする中で、2年前のお彼岸に妙に意気投合したのが、この「ミキ」という霊だった。…そう、先ほどの依頼人の親友であった「ミキちゃん」である。

仲良くなったリーエとミキはたまにこうして話すようになり、そのなかでミキは自分の生い立ちと、親友であった「れーちゃん」についての話をリーエに語った。リーエたちがお悩み相談を始めた、と聞くと、こうも言っていた。
「きっといつかれーちゃんもここに相談に来るから、その時は、お願いがある」と。



リーエは、それを承って、ミキから依頼されたその記憶を、消した。



担当占い師:リーエ
依頼主:零、18歳の少女。
消した記憶:“ミキちゃん”という存在にまつわるすべて。
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作者メッセージ

完全に中編と後編の分け方を間違えました…聞いて驚け、なんと後編が中編の2倍あります!マジでここまで読んでくださった方、お疲れ様でした。(?)
ねこみみ様、リクエストありがとうございました!
●依頼人の名前 零(れい)
●年齢 18
●性別 女
●一人称 私
●性格 優しくてツンデレのちょっと無口さん
●お悩み だれかからのストーカー。たまに誘拐されそうになるけどぎりぎりで抜け
     出している
●消したい記憶やトラウマ トラウマは刃物。見るだけで、足から力が抜けてしまう
●何をしていたらこの森にたどり着いた? ストーカーから逃げてきた
●相談したい魔女の名前 リーエさん…ですかね
●「信じられないモノ」を目の前にしたら、どんな反応をする?「…!?」
●口調、サンプルボイス、相手の呼び方 「ええと…は…はじめまして…」
「リーエさん…ですよね」「○○さん…は…友達で、よく逃走の手助けをしてくれます…」
●名前をどのように呼ばれたい? 零ちゃん
●その他 とにかく逃げている。

2025/02/09 10:28

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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