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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#18

クレペリン式遁走譚・前編 担当占い師:リーエ

はぁ、はぁ、はぁ…

息が上がる。足が縺れる。瞳が乾いて、耳には呼吸音と心音、そして足音だけが響いている。

やめて。来ないで。
どうして誰も助けてくれないの。私がアイツに追われていることはわかるでしょ。

結局、だれもが見て見ぬふり。誰も助けてくれないんだから、自分で逃げるしかないんだ。一生。

ああ、また後ろのアイツが、何かを叫んでる。異常者なんだ。どうして私にばかり執着するの。
どこまでも追いかけてくるソイツから、必死で逃げ続けた。疲労と息切れは比例しながら積もりに積もって、もうどこを走っているのかすら分からなかった。

だって、朦朧としてたんだもん、分かるわけがないじゃん。

いつの間にか、知らない森で迷ってたなんて。
知らない森に立つ怪しい洋館に、飛び込んでたなんて。




…「うおっ!なになになに!ちょっとお姉さん、大丈夫!?顔色と呼吸ヤバいよ!?」



…なんだか、あたたかい。目を開けるとすぐ前に、パチパチと燃える暖炉が見えた。
「あれ…私」
どうやら気を失っていたらしい。ぼんやりとした視界を覗き込むように、小さな女の子が声をかけてきていた。
「いや…さっきこの家に半狂乱で飛び込んで、そのまま倒れたんだよ。悪いけど、リーエがここまで運ばせてもらったから。…マジで一体なにがあったんだよ。緊急事態?」
戸惑ったようにその少女―リーエ、と言ったか―に言われて。
「…あっ!えっ!?アイツは!?アイツはどうしたんですか!ここはどこですか…!?」
「いや落ち着いて!とりあえずお話聞くから!ここは安全だから!」
急に思考回路が覚醒し思わず取り乱してしまった私を、彼女は慌ててたしなめた。



「へえ、れーちゃん…じゃなくて、零ちゃんね。ストーカーから必死で逃げてたら、ここに来ちゃった…と」
リーエ、と名乗った少女は、首をかしげながら、こちらにココアクッキーを手渡してきた。ふくろうが三日月に留まっている形。控えめで滑らかな甘さに少しだけ、ホッとする。
先ほど彼女…リーエさんが「とりあえず、こっちの素性を明かしておかないと不安でしょ」と言いながら手短に教えてくれた説明によると、ここはお悩み相談室…兼、占いの館らしい。とても小さな女の子に見えるが、やはりプロのカウンセラーか何かなのだろうか。彼女のどこか不思議な雰囲気にあてられたのかどうかはわからないが、口下手なはずの私が、なぜかするすると事情を説明してしまっていた。




3年前、私は15歳だった。

きっかけはある冬の朝、ポストに投函されていた一通の手紙。
その内容は、私に対する、気持ち悪いほどの好意を示すものだった気がする。送り主の素性は分からない。不気味に思った私は、その手紙のことを誰にも言わず、ビリビリに破いて学校のゴミ捨て場に捨てた。

その手紙は、それから毎日のように届いた。だから、毎日破いて捨てた。
…毎日、白い息を吐いて手をあたためながら登校する君を見ている。
…昨日は忘れ物をしたの?一旦家に帰ったよね。
…電車に乗り遅れそうになる君を、頑張れ、頑張れって応援してた。
…毎日学校に行くときは、朝3番目の在来線に乗ってるの?見てるよ。
…帰って来る時、あの韓流アイドルの歌を口ずさんでたよね。好きなの?昨日も見てたよ。

…見てるよ。
…見てるよ。
…見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。見てるよ。





…見てるだけじゃ、つまらなくなってきた。










…一緒にいてあげる。



手紙が入れ始められてから、約1ヶ月ほど経った頃。そんな手紙が届いて、心底おぞましかった。全身に鳥肌が立った。
その頃になると、私は手紙を捨てるのをやめていて。…証拠となるその大量の紙を、家族に見せた。
父も母も、驚いて、…そのあとすぐに怒った表情になった。
なんだか。この人たちって、そんなに私に興味あったんだ。愛されてて幸せだな。なんて、どこか冷めた感情しか湧いてこなかった。まだ中学生で、どこか粋がっていたところもあったのかもしれないけど…少し、普通じゃなかったんだと思う。

ずっと冷静でいられた、適切に対処できていたと思っていたけど、きっと怖かったんだ。その感情から目を背けるために、無意識に「冷めている自分」を演じようとしていたのかもしれない。




「…手紙の投函のみで実害がないものは…申し訳ないんですが、こちらとしても動けなくて。何か被害があれば早めに相談して下さい」
「何かあってからでは遅いでしょう!」
ややヒステリックな声で、母が語気強めに言った。
駐在所には神経質そうな痩せた男性警察官がおり、両親が被害を相談すると彼は、「動けない」と、そう告げた。
「学校に最寄り駅に…住所まで把握されているんですよ!?それにこの最近の手紙…ストーカー被害を受けたりでもしたらどうすれば良いんですか!」
もうやめようよ。平気だよ、私は平気。お母さん、迷惑だよ。これ以上言うのはやめよう。
そんな思いで袖を少し引っ張ったが、隣で警察官相手に威圧的に話している母は全く気づいていなかった。

知らなかった。気持ち悪い手紙が入れられる迷惑行為を、取り締まってもらえないなんて。
…ただこのあと、私はまだまだ知らないことがあったのだと思い知らされることになる。





「…それで?」
「手紙にあった通り、その後すぐにつきまといが始まりました。本当に、知りませんでした。…ストーカー事案って、あまり警察は動いてくれないんですね」

リーエさんはその童顔に神妙な表情を浮かべながら、モスグリーンのマグになみなみと注がれたホットチョコレートを一口すすった。
「…人間界の中でも、“日本国”は比較的安全かと思ってたんだけど。どこもわりあい難儀だね、人間って。亡霊ちゃんたちはなーんでそんな所に年4回も戻りたがるんだか。こちとらハロウィンだけじゃなくて、“オヒガン”に“オボン”まであって大変なのに…ホント、シーラについてったせいで日本管轄になったのが運の尽きだよお!」

人間界?
今リーエさんが言った言葉を咄嗟に理解できずに首を傾げていると、彼女は驚くべきことを口にした。
「ああごめんね、最低限の説明しかしてなかったもんね!リーエはね、魔女なんだよ」



…彼女の説明は、耳を疑うほど突飛なものだった。
ここは魔法界の森にある魔法薬・魔道具ショップ、“トライアングル・ウィッチハウス”。従業員はリーエさんを含めた3人で、全員が魔女なのだそうだ。…魔女。今まではとても信じられなかったが、リーエさんのあどけない姿にちらりと覗く、その只者ではないオーラを目の前にしていると、納得の材料としては十分だと、すんなりと感じられる。
普段は魔法界の住人相手に商売をしているそうなのだが、少し前、原料の変更を行った際、人間を相手にした“占い”稼業に手を出したらしい。高価なエネルギーを抽出するには、人間の強い感情とやらが必要なのだとか。

「…なるほど、私はいつの間にかここへと繋がるゲートをくぐってしまった…と」
「そうそう。んで、ここに来た人は悩み相談が必要なくらい思い詰めてるってことなんだよ。だーかーら…さっき話してくれたそのお悩み、リーエにお任せしちゃわない?」
リーエさんがいたずらっぽく笑う。私もその提案に心が揺れた。倒れた私を介抱してくれた恩もあるし、報酬はどうやらお金ではないらしいし…とあれこれ考える。そして、8割くらい「お願いしようかな」という方向に心が傾いた時、

「れーちゃん!こんなトコで何してるの!」
勢いよく扉が開き、彼女が息せき切って飛び込んできたのだった。
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作者メッセージ

遅くなりました。というかこれから更新がかなり鈍足になります…ごめんなさい…

2025/02/02 11:01

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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