錬成室に、蜜蝋の炎が灯る、夜。
静けさの中、3人の魔女たちが賑やかに入ってきた。
「さて、それじゃあ今夜も魔法薬の制作に入りますよ」
「私は魔道具の耐久テストをしておく。この“視覚効果付与ランチョンマット”、試作品よりも精度が落ちてないか。前リーエが作った炭のようなオムライスですらものすごい美味しそうに見えたのに、今は見た目ただの木炭だぞ」
「うぎぎぎ…木炭オムライスで悪かったな!リーエもやっといてやるよ、シーラの作った魔道具の[漢字]テ・ス・ト[/漢字][ふりがな]あら探し[/ふりがな]!」
言い争いながら、各々の仕事に入る3人。ここで少し、彼女らについて掘り下げてみよう。
魔法界の森の中にある、小さな腕利きの魔法ショップ、“トライアングル・ウィッチハウス”。
普段は魔法界に住む魔法使い、妖精、精霊、亜人たちを相手に商売を行っている。本業は、彼らを客層としたミゼの作る魔法薬とリーエ・シーラの作る魔道具の販売である。ひとたび始めたこの店は、腕の良い魔女たちの作る品物が大評判となり、たちまち人気店となった。
ところが半年前、薬・魔具に魔力を込めるための媒介物である魔石の流通に、危機が起こる。
魔法界での“脱・魔石運動”が活発化したせいで魔石の価格が暴落し、鉱夫であるドワーフたちの間でストライキが起こってしまったのだ。
「…どうします?この昨今、必ずどこかで、私たちも資源変革の時代の渦に巻き込まれますよ」
「この際、こちら側も原料の変更を行ってしまおうか」
この時総意により、店で扱う品物の原料を変更したのである。
魔石の代替品、“シャンスロー・トルドリック”という新しい資源は、「強い感情」から抽出することのできるエキスだった。「感情」をエネルギーに変換するため尽きることのない…いわば「持続可能」なこの原料は、魔法界に暮らす種族から抽出するよりも、人間から抽出した方がより強力で濃密な、質の良いものになる…ということが分かった。
ただ、この原料は高価であった。この店でもしばらく卸売業者から原料を購入していたものの、売上との兼ね合いを考えると、今までより支出が増加してしまうのはいただけない。
そこで3人は、自分たちで「シャンスロー・トルドリック」の抽出・精製を行おうと考えたのである。そのためには人間相手の何かしらの商売をし、その対価として「強い感情」をいただく必要がある。
それぞれの得意魔法が活かせ、かつ人間ウケが良いもの…
「占い師とかじゃね?」
こうして、リーエのつぶやきにより、ひとつの経営方針が決定したのであった。
それぞれが得意魔法を活かした悩み相談兼占いを行い、報酬として記憶…つまり、「人間の強い感情」を抽出する。そしてそれを利用し、エキスを精製するのだ。こういうわけで3人は、副業として人間を相手にした占いの館を開業したのである。
「それにしても、なんで報酬を“イヤな記憶”限定にしたのかなって思ったら…まさか、金策だけじゃなくて自分のためでもあったとは。さすが利用できるものはなんでも利用する賢者、がめついね!」
「褒めてないよな?」
からからと笑うリーエ、ミゼ。この2人がここに来たのは、シーラの勧誘によるものである。
実はこの3人、とある共通項がある。それは、全員が「家出してきた」ということ。特にミゼとリーエは名門である実家と反りが合わず、夜逃げするように家を抜け出して行く宛もなくさまよっていたところをシーラに拾われた。
リーエが、ようやくあらが見つかったとばかりに勇んで言う。
「おーいシーラ!なんだコレ!この変なの!」
「何って…“呪いの赤い靴”だよ」
「何おぞましいもの作ってらっしゃるんですか…」
ミゼも鍋を撹拌しながらこちらに目を向けたが、シーラは心外だとばかりに言った。
「おぞましい?ダイエット器具だよ、巨人族のお姉ちゃんがたから注文を受けたんだ。指定した体重に減るまで強制的に踊り続けさせられるという…」
「その発想がおぞましいんだよ!誰が呪われるダイエットしようと思うんだよ!ボツボツ!」
夜、地下の錬成室は、その薄暗がりに似合わぬ賑やかで楽しげな音に満ち溢れていた。
水のぐつぐつと沸騰する音、炎がパチパチと燃える音、そして絶えず響き渡る喋り声。
魔女たちの夜は、まだまだ始まったばかりである。
静けさの中、3人の魔女たちが賑やかに入ってきた。
「さて、それじゃあ今夜も魔法薬の制作に入りますよ」
「私は魔道具の耐久テストをしておく。この“視覚効果付与ランチョンマット”、試作品よりも精度が落ちてないか。前リーエが作った炭のようなオムライスですらものすごい美味しそうに見えたのに、今は見た目ただの木炭だぞ」
「うぎぎぎ…木炭オムライスで悪かったな!リーエもやっといてやるよ、シーラの作った魔道具の[漢字]テ・ス・ト[/漢字][ふりがな]あら探し[/ふりがな]!」
言い争いながら、各々の仕事に入る3人。ここで少し、彼女らについて掘り下げてみよう。
魔法界の森の中にある、小さな腕利きの魔法ショップ、“トライアングル・ウィッチハウス”。
普段は魔法界に住む魔法使い、妖精、精霊、亜人たちを相手に商売を行っている。本業は、彼らを客層としたミゼの作る魔法薬とリーエ・シーラの作る魔道具の販売である。ひとたび始めたこの店は、腕の良い魔女たちの作る品物が大評判となり、たちまち人気店となった。
ところが半年前、薬・魔具に魔力を込めるための媒介物である魔石の流通に、危機が起こる。
魔法界での“脱・魔石運動”が活発化したせいで魔石の価格が暴落し、鉱夫であるドワーフたちの間でストライキが起こってしまったのだ。
「…どうします?この昨今、必ずどこかで、私たちも資源変革の時代の渦に巻き込まれますよ」
「この際、こちら側も原料の変更を行ってしまおうか」
この時総意により、店で扱う品物の原料を変更したのである。
魔石の代替品、“シャンスロー・トルドリック”という新しい資源は、「強い感情」から抽出することのできるエキスだった。「感情」をエネルギーに変換するため尽きることのない…いわば「持続可能」なこの原料は、魔法界に暮らす種族から抽出するよりも、人間から抽出した方がより強力で濃密な、質の良いものになる…ということが分かった。
ただ、この原料は高価であった。この店でもしばらく卸売業者から原料を購入していたものの、売上との兼ね合いを考えると、今までより支出が増加してしまうのはいただけない。
そこで3人は、自分たちで「シャンスロー・トルドリック」の抽出・精製を行おうと考えたのである。そのためには人間相手の何かしらの商売をし、その対価として「強い感情」をいただく必要がある。
それぞれの得意魔法が活かせ、かつ人間ウケが良いもの…
「占い師とかじゃね?」
こうして、リーエのつぶやきにより、ひとつの経営方針が決定したのであった。
それぞれが得意魔法を活かした悩み相談兼占いを行い、報酬として記憶…つまり、「人間の強い感情」を抽出する。そしてそれを利用し、エキスを精製するのだ。こういうわけで3人は、副業として人間を相手にした占いの館を開業したのである。
「それにしても、なんで報酬を“イヤな記憶”限定にしたのかなって思ったら…まさか、金策だけじゃなくて自分のためでもあったとは。さすが利用できるものはなんでも利用する賢者、がめついね!」
「褒めてないよな?」
からからと笑うリーエ、ミゼ。この2人がここに来たのは、シーラの勧誘によるものである。
実はこの3人、とある共通項がある。それは、全員が「家出してきた」ということ。特にミゼとリーエは名門である実家と反りが合わず、夜逃げするように家を抜け出して行く宛もなくさまよっていたところをシーラに拾われた。
リーエが、ようやくあらが見つかったとばかりに勇んで言う。
「おーいシーラ!なんだコレ!この変なの!」
「何って…“呪いの赤い靴”だよ」
「何おぞましいもの作ってらっしゃるんですか…」
ミゼも鍋を撹拌しながらこちらに目を向けたが、シーラは心外だとばかりに言った。
「おぞましい?ダイエット器具だよ、巨人族のお姉ちゃんがたから注文を受けたんだ。指定した体重に減るまで強制的に踊り続けさせられるという…」
「その発想がおぞましいんだよ!誰が呪われるダイエットしようと思うんだよ!ボツボツ!」
夜、地下の錬成室は、その薄暗がりに似合わぬ賑やかで楽しげな音に満ち溢れていた。
水のぐつぐつと沸騰する音、炎がパチパチと燃える音、そして絶えず響き渡る喋り声。
魔女たちの夜は、まだまだ始まったばかりである。
- 1.序章 Witches in the evening
- 2.夢幻の恋・前編 担当占い師:リーエ
- 3.夢幻の恋・中編 担当占い師:リーエ
- 4.夢幻の恋・後編 担当占い師:リーエ
- 5.幕間 a noble which in the kitchen
- 6.無気力ワットエバー・前編 担当占い師:ミゼ
- 7.無気力ワットエバー・中編 担当占い師:ミゼ
- 8.無気力ワットエバー・後編 担当占い師:ミゼ
- 9.幕間 a genius witch in the ritual room
- 10.兎の耳に掛けた鍵・前編 担当占い師:シーラ
- 11.兎の耳に掛けた鍵・中編 担当占い師:シーラ
- 12.兎の耳に掛けた鍵・後編 担当占い師:シーラ
- 13.幕間 a curious witch in the garden
- 14.背信と棄義のワルツ・前編 担当占い師:リーエ
- 15.背信と棄義のワルツ・中編 担当占い師:リーエ
- 16.背信と棄義のワルツ・後編 担当占い師:リーエ
- 17.間章 Witches in the night
- 18.クレペリン式遁走譚・前編 担当占い師:リーエ
- 19.クレペリン式遁走譚・中編 担当占い師:リーエ
- 20.クレペリン式遁走譚・後編 担当占い師:リーエ
- 21.幕間 the inside story of pure witch 〜リーエのひみつ〜
- 22.限局性漫劇のすゝめ・前編 担当占い師:ミゼ
- 23.限局性漫劇のすゝめ・中編 担当占い師:ミゼ
- 24.限局性漫劇のすゝめ・後編 担当占い師:ミゼ
- 25.幕間 the inside story of cursed witch 〜ミゼのひみつ〜
- 26.ハルモニア・前編 担当占い師:シーラ
- 27.ハルモニア・中編 担当占い師:シーラ