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ねえねえ聞いて聞いて!

#6

転校生が来た。

突然だが、私は未成年である。よってとある学校の生徒である。児童ではない。特に今まで言ってこなかったが、マア大体予想はついていたと思う。

タイトル通りである。私のクラスに転校生が来た。今回は、その転校生がかなり面白いヤツだったため、彼の個人情報と私の個人情報の漏洩に配慮しつつその面白エピソードを伝えていこう。


[太字]①転校初日にインフルエンザをこじらせる[/太字]
三学期が始まった時すぐに転校してくるはずだった彼は、初日、インフルエンザで休んだ。

「転校生が来るらしい」。その情報がグループラインなんかを始めとしたコミュニティで出回り、私は生徒たちの情報網に唖然とするばかりであった。どうやら親が教員たちから聞いた話がソースだったらしいが…片田舎にまでその片鱗を見せるこの情報化の社会とは、なんと恐ろしいものよ。
それまでクラスメートたちはみんな、わくわくして待っていた。様々な憶測が飛び交う日々。やがて時が経ち、担任の先生からも正式な発表がされた。毎日、「野球をしていたらしい」とか「坊主ではないらしい」などと、今思えばくだらなすぎる情報がちょっとづつ小出しにされていき、憶測にもいよいよ拍車がかかる。全員の期待は加速度的に肥大していき、「先生もニクいことするね」などと言いつつもますます話題は彼一色となった。空前の、転校生ブームである。まあ転校生が来る前って、大体そうなのだろうが。
そんな中で聞かれた憶測の一部を、ここで紹介しよう。

[明朝体]・野球やってたんだってさ。礼儀正しいタイプなんじゃない?[/明朝体](ゴシップ好きの女子・Sちゃん)
[斜体]・意外とヤバいやつだったりするかも。これ以上増やしたくないんだけど[/斜体](秩序を重んじる吹部男子・Tくん)
※「これ以上」とは、このクラスに現在いる男子Rを指している。誰かの悪口を公に言う、間違いなくクラスの雰囲気を悪くしている野郎である。大体3分の2くらいは、彼のことを嫌っている。[太字]私の隣の席である。[/太字]
[小文字]・いや、重要なのは部活より勉強じゃね?[/小文字](真面目な委員長男子・Nくん)
[太字]・イケメンならもうなんでもいい。イケメン万歳[/太字](メンクイパリピオタク・Mちゃん)

…などなど。
ところが、そんなみんなの期待を一心に背負った三学期初日。


彼は、休んだのである。インフルエンザA型を、ひっそりとこじらせて。



[太字]②自己紹介のクセが強い[/太字]
インフルエンザを治し、しっかりと抗体を持って、彼はようやく本校にやってきた。
笑顔が感じ良い少年だったが、メンクイのMちゃんの表情はあまり芳しくない。どうやら彼女の及第点は貰えなかったらしい。
始めに私たちは、お互いに自己紹介をすることとなった。

さて。進級・進学・そして転校。皆さんも一度は経験したことがあるであろう、「集団自己紹介」の時間である。
これは初対面の相手と一対一、もしくはそれよりも少し多い人数で行われる普通の自己紹介とは違い、とある特徴があるのをご存知だろうか。

[明朝体]「こんにちは、はじめまして。〇〇です」[/明朝体]

[明朝体]「[太字]〇〇が好きで、小さな頃から〇〇は地区で一番でしたが、“市”という広い世界に出た途端、自分が井の中の蛙だったことを思い知りました。[/太字]よろしくおねがいします」[/明朝体]

そう。
[太字]「名前とよろしくお願いしますの間に何かひとこと」[/太字]という文化から派生した、
[太字][大文字]「笑いをとってやろう」[/大文字][/太字]という文化である。

これが苦痛な人も多いだろう、うちのクラスでも、何人かは直前まで何かをぶつぶつとつぶやき、もしくはこの世の終わりのような悲壮感あふれる顔をしている。
これで実際に笑わせられる人はいいのである。こういうノリが苦手な人の行く末は、大抵が悲惨だ。

ルート1:ちゃんとウケエンド
意外にも、用意してきた文言がウケたウルトラハッピーエンドである。これはほんとうに「ちゃんと準備してきた」人が掴み取れる幸運でもある。ちゃんとイメトレをし、ちゃんと下調べをして望めば、晴れてこの結末を迎えられるだろう。

ルート2:連鎖ウケエンド
隣の人や仲が良い人がくすりと笑ってくれ、それにつられて全員がちょっと笑っちゃうというほっこりエンドである。ルート1ほどの爆発力はないが、発生頻度は割と高い。笑いとは、「隣の人が笑っている」ということだけでも起こるものである。日頃からクラスの中でたくさんの友達をつくっている者の勝利といえよう。クラス外に友人が多いという人は注意。

ルート3:普通おもんないエンド
趣味や好きな食べ物などを羅列し、最もまともで普通の自己紹介をするという開き直りが生むエンドである。失敗することは無いが、全員が面白いことを続けて言っているノリをぶった切って行う行為であるので、「ノリが悪いな」などと反感を持たれる可能性がある。少しでも度胸があるのなら、「ごめん、みんな何か面白いことばっか言ってるのに私何も思いつかなくて」などと添えれば、一気にルート1へと持ち込める確率が上がる。

ルート4:悲惨エンド
面白いことは言えないけど、開き直ってルート3に行くこともできない…という人が陥る、最悪のバッドエンドである。ヘンなことを言って滑り、シーン…と静まり返る中でごまかすように「へっ…へへ…」などと曖昧に笑って座る様子は、見ているこちらにとっても地獄である。また全員の視線を一気に浴びる中で緊張し、噛んだりどもったりしてしまうと、本当は面白い文言でも一気にキモくなってしまう。


ちなみに私は、「団栗きんとん(仮名)です。きのこたけのこならきのこの山派、目玉焼きはソースかハーブソルト派、犬か猫ならカメ派です。よろしくおねがいします」という王道な文言により、全員にそこそこウケで終わった。今回の自己紹介でルート4に行く人はいなかったので、私は安堵した。


全員の紹介が終わった後、いよいよそれを聞いていた彼の自己紹介が始まった。

「高田修悟(仮名)です。野球のポジションはキャッチャー、きのこの山派です」
おそらく私の自己紹介にやや引っ張られている。
「前の学校では美化委員会でした。好きな食べ物はオムライス、好きな女優は広瀬すずです」

そして彼は、朗々とこう言い放った。

「将来の夢は、広瀬すずのオムライスを食べることです」




…当然、彼の華々しい初日は、ルート1に終わった。爆笑の渦が教室中に響きわたる。私も大笑いしながら、この転校生におおいに興味を持ったのだった。

作者メッセージ

この後話しかけて友達になったのですが、以後も面白いエピソードが結構ありましたのでぼちぼちお伝えしてまいります。

2025/01/25 11:01

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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