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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#16

背信と棄義のワルツ・後編 担当占い師:リーエ

私が話し終えると、リーエさんは可愛らしいくり抜きかぼちゃの籠から、パステルライトグリーンの小袋を出し、手渡した。
「とりあえず、嫌なこと思い出してくれてありがと。コレ、クッキーをどうぞ!」
「あっ、ごめんなさい私…小麦アレルギーで」
「だいじょぶだいじょぶ!」
リーエさんはあざとくウインクして、こちらにコウモリの形のクッキーを寄越す。
「そんなこともあろうかと。米粉クッキーをご用意しておりまーす!リーエも学ぶんだよなあ」


クッキーをポリポリとかじっていると、彼女はやや身を乗り出して尋ねてきた。
「最初に質問なんだけどさ、もし今リーエがユウリちゃんに、「友達になろう!」とか「相談に乗るよ!」とか…あとは「自分のことのように全力で解決に尽力するから、なんでも話してね!」とかって言ったら、リーエのこと信用できる?」
「…いや…「友達として」って口で言ってるだけで、実際は仕事だからなんだろうなあ…って思っちゃいます」
「じゃあさ、あくまでビジネスライクに真摯に応えたとして、そのアドバイスを信じて、活かせる?」
「ビジネスライクなら…うーん、それでも「他人事だし、手を抜いたんじゃないか」とか「本当に正しいのかわからないし、報酬目的で適当なこと言ってるかも」って思っちゃうかも…そもそも占いをあんまり信じていないので」

うわ、私めんどくせえ。
改めてこう口に出すと、私ってしつこい程にめんどくさいな、と感じる。
こうやって被害妄想が膨らんでいって、なんだっけ、白目剥いちゃうのか。嫌すぎるが。
リーエさんにも流石に引かれたのではないだろうか。うえ〜…みたいな顔をされてたら病む。
そんな思いで彼女を見ていると、彼女はどんな顔をするでもなく、棺桶テーブルを開けて何かを取り出した。

「よし。それだと、せっかく占ってもなにも変わらないってことだよね。占いは“現状を変えたい!”っていう、占い師と依頼主の強い感情があってはじめて成立するから、効果がなければ意味もない。だから、まずはリーエのことを信じてもらおう」
彼女は動作確認をすると、レモン色の透明な液体が入ったその小さな千草色のガラス小瓶をこちらに渡してきた。

“これでよし!”
「…え?」
瓶の中のレモン色が、急にその水面に文字を映し出す。
「お、動いたかな?」
ニコニコしながら瓶を見ているリーエさんに驚きながら、これは何ですか、と尋ねた。
「これはね、特定の人の心の中を覗ける魔法の瓶。“念動と博愛の魔女”特製の、一級魔道具だよ!そこに映ってるのは、リーエの心の中」
“ふふーん、すごいだろ!リーエを崇めろ!”

これでリーエを信じてもらえるかな、とご満悦そうに笑う彼女が、こちらを見て慌てたように尋ねてくる。
「ちょっ、ユウリちゃん!何で泣いてるの!」


「ごめんなさい…もう6年なのに泣き虫で…なんでそんなに…私のために」



自分の心の中を他人に見せる。打ち明ける。それがどれだけ勇気の要ることか、人を信じなければできないことであるか、その難しさを私は痛いほどよく知っている。だからこそ、見ず知らずの私に躊躇なくそれを行ってくれた彼女の行動が、嬉しくて。
鼻をぐずらせながらそう問うと、リーエさんは底抜けに明るい笑顔で言った。
「当然じゃん。報酬もらってるからには、ビジネスライクで気を抜かずに向き合うからね」
“悩みを打ち明けてくれた人は、もう友達同然だからね!”
明るい声で紡がれた言葉と、瓶の中に揺蕩う言葉。その両方に固く閉ざした心を完全に開かれたような気がして、私の目からはよりたくさんの涙が溢れ出てしまった。



「落ち着いたかな?じゃ、説明するよ」
リーエさんは目の前に並べた3枚のタロットを指差し、にこやかにそう言った。つややかな漆黒のカードに、輝ける白い杖のような模様が描かれている。
「さっき、このカードが“現在の自分”や“これからすべきこと”を表してる…ってことは言ったよね?」
「はい」
「この道具自体は超高級品でね、精度はめちゃくちゃに良いんだ。ただ、正直に言うとね…非常に言いづらいんだけどね」

“リーエの腕がちょっと不安なせいで、力量不足による解釈不備のおそれがあるんだよなあ…”
手元にレモン色の本音が浮かび上がり、くすっと笑いながら言う。
「なるほど。言わなくても大丈夫です。私はリーエさんを、信じてますから」


「まず1枚目。“世界”の逆位置かあ…これは“崩壊”だね」
崩壊、という言葉に、ドキッとしてしまう。

小さなひび割れから崩壊してしまった、大きなダム。ある一言から崩壊してしまった、私の大切だったもの。
「心当たりは…ってその顔、たぶん心当たりありまくりだね。やっぱコレは…その告白から、“望んでいた未来とかけ離れた現実”になっちゃったことを表してるのかな」
第三者視点のように、妙に冷めた納得が私を包んだ。リーエさんは2枚目をめくる。
「これは“月”の正位置だね。あれっ?」
カードは不自然な滑り方でくすみオレンジのテーブルクロスに落ち、1枚目の“世界”と重なった。
小瓶には、“付与魔法が発動してるな。これは他の意味があるかも”という文字が揺れていて、顔をあげると彼女は頷いた。
「“月”のカードにはね、“幻想”や“不安定な幻覚”って意味があるんだ。んで、“世界”の逆位置は、“崩壊”を意味してる。ふたつが重なってるってことは…」

小瓶に、レモンイエローの文字が浮かび上がる。
“大切なものが跡形もなく崩れ落ちてしまった…っていうのは、ただの幻覚か虚像なのか?本当はまだ、終わっていない?”




数日後。
雑踏の喧騒の中、とあるカフェの窓際に少女がふたり、対面していた。
「…久しぶり」
そう切り出した口調とは裏腹に、彼女…元親友は、冷ややかながらもどこかこちらを睨むような目つきだった。
視線が痛い。でも、相手をまっすぐに見据えたまま、逸らしてはいけない。目線を、気持ちを、信頼を。
テーブルに置かれたフラペチーノを一口飲み、小麦フリーのクッキーをかじる。その味と追随する記憶に背中を押され、私は、彼女に声をかける。

「あのっ、私…」
「ごめん!!!本っ当にごめんなさい!!!」

目の前の親友は、いきなりそう言って頭を下げた。





「ごめん、やっぱリーエの力不足だ!これだけじゃ分かんないや、3枚目開きまーす!」
黒いレースカーテンと甘いソイキャンドルの紫色の香りの向こうで、リーエさんはお手上げだと言いたげな表情で最後のカードをめくった。
めくったカードには、雲の上の青空に、時計のような巨大な輪の絵が描かれている。
「…“運命の輪”…!」
彼女は驚いたような表情になった後、すぐに笑顔になった。
「“進展”、“変化”、あとは…“チャンスの到来”。これはたぶん、ユウリちゃんの身に起こったことを時系列順に予言してるね」
「どういうこと…ですか?」
つまりさ、とリーエさんは、指を立てて笑った。
「“崩壊”したと思っていたものは“幻覚”で、まだ物語は終わっていない。運命の輪が今、回り始めた。
…“今、何もかも終わったと思っていたものが動き出して、ビッグチャンスが到来してるよ”って」





「…謝って許されることじゃないのは分かってるの…!だけど…ふぐっ、どうっ…どうしても…あっ、謝りたくって…!」
唖然として動けない私の目の前で、泣きじゃくる彼女は続けた。
「本当に…ごめんなさい…!優莉ちゃん…ユウリは、親友で、大好きだったのに…!私が身勝手に、嫉妬して…」

瞬間的に、身体が動いていた。
「え…?」
小さなテーブル越しに、彼女を抱きしめる。
「…許すよ。私、信じるよ。私も、大好きだもん」

「ユウリ…!」
彼女が、あの日保健室で見せてくれたものとは違うぐしゃぐしゃの泣き顔で、私の名前を呼んだ。

二人で抱き合っているうちに、親友につられて、私も泣き出してしまった。
回る運命の輪が、崩壊してしまった私の大切なものも、彼女との間のわだかまりも、なにもかもを変えてしまったようだ。
「ははは…でも、泣き虫なのは変わらなかったかな」
「…なにそれ…!ふふふ…」

カフェの片隅で動いた、小さな運命。

人を、信じられる。
そんな幸せに気づいた私にはもう、あのレモン色の小瓶は、必要なかった。





「相談が終わってから報酬を変えちゃう依頼人が多くて困っちゃ〜う!…なんて。今回はリーエが独断で変えちゃったけど。ヤバいな、シーラにバレたらこりゃ大目玉だぞ」
片手に小瓶をつまんで、リーエは独りごちる。そのままそれを軽く振ると、ガラスの中の液体が、涼やかで小気味よい音を立てた。

「人を信じたり、信じてもらうためにキャラ作るなんて、誰でもやってることなんだよな。あの子もそのうち、それが罪悪じゃないってわかるかな。…いや、キャラ作りが良いとか悪いとかどうでもいいから、たくさんの人と関わって、豊かに生きてほしーなあ」

あの子にも、また偉そうなこと言っちゃった。リーエとそっくりすぎて。こういうのが同族嫌悪ってやつかね。

「しかしこんな道具作ってるやつ、リーエ以外にいないわな。読心なんて、シーラの予言と同レベルくらいの禁忌だもん。
…コレ使わないと人のこと信用できないとか」

リーエは、そのままテーブルに、ダンッ!と勢いよく突っ伏した。

「なーにが…“博愛の魔女”だっての」
リーエのその独り言は、依頼人に向けてのものだったのか、それとも。


開け放した窓から流れ込む夕暮れの風が、博愛になりきれない博愛の魔女の頬を優しくなでていた。

担当占い師:リーエ
依頼主:ユウリ、12歳の少女。
消した記憶:意固地な猜疑心と、裏切られた過去の痛みへの無意識な執着。
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作者メッセージ

うおおおおお過去最大ボリューム!☆Yuri☆様、ご参加ありがとうございました!
●依頼人の名前 優莉(ユウリ)
●年齢 12(小六)
●性別 女子
●一人称 私
●性格 友達の前では明るい陽キャのふりしてるけど実はメンタル豆腐で泣き虫。
    初めてあった人にはコミュ障。
●お悩み 信頼していた友達の好きな人に好かれてしまったために嫌われ、現友達も信じることのできないことに対する自己嫌悪。
●消したい記憶やトラウマ 裏切らることの痛み。(記憶を消すだけが悩みの解決法じゃない、(苦しみを緩和しただけ)みたいな)
●何をしていたらこの森にたどり着いた? 迷子。
●相談したい魔女の名前 リーエさん
●「信じられないモノ」を目の前にしたら、どんな反応をする?「・・・え、?」
●口調、サンプルボイス、相手の呼び方 「おっはよー!」「えっえ、ッマジ!?」「あれ、圏外ぃ?」「〇〇にタヒねなんて言葉使ってほしくなかった・・・」「あ、すいません・・・」(初対面時)  「リーエさん・・・?」「あの・・・」
●名前をどのように呼ばれたい? 優莉ちゃん
●その他 ”信頼していた友達の好きな人”は幼馴染で親ぐるみの仲。好きだったけど、諦めるために長かった髪を肩上まで切った。

2025/01/25 18:20

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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