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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#12

兎の耳に掛けた鍵・後編 担当占い師:シーラ

「それでは説明しよう。私は“予言と賢哲の魔女”。これでもこの魔法界において、予言の第一人者なんだ」

高貴さを纏う花紺青のクロスに手をついて、シーラさんは口を開いた。
「未来を知ることとは、今は隠された、本来なら触れることすらできないはずの真実を、無理矢理に暴くことだ。言わば、ちょうど一冊の探偵モノの本を読むとき、最初に犯人が誰なのかが分かっているようなものだな」

時間を凍らせてしまうのではないかと思えるほど真剣な姿勢に、気圧されそうになるのをなんとかこらえて頷いた。
「頭では理解しているとは思うが、状況が状況ならばもはや禁忌にも等しい“予言”には、言うまでもなく相応の…概ねの場合、非常に多大なる責任がついて回る。そのリスクを理解した上で、それでもレイラは私の手を借りるか?」



確かに、彼女の言う通り、未来を知ることは“禁忌”に近しいことかもしれない。「知らなければ良かった」と思えることなんて、世の中にはいくらでもあるだろう。私が選択した結果が、必ずしも後悔しないものであるかどうかは、分からない。
「…それでも」
真実が、本心がどうあれ、母に対する私の愛と感謝は変わらないから。
「お願いします。相応の覚悟と責任は、私が一生をかけて背負っていきますので」

「…承った。レイラのような、うじうじと悩まない清々しいやつは嫌いじゃないな。いいだろう、腹を決めたキミには、この私がレイラの本当に知りたい未来の答えを届けてやろう」
彼女は、いままでの悠然と湛えた笑みとは違う、いたずらっぽいニヤリとした笑いでそう答えた。




シャンデリアの光を受けてきらめく銀の縁飾りの鏡に、透ける深い青の液体が満たされて揺れている。
「これで占いは完了だ。この鏡の向こうに未来が視えた」
シーラさんが青く光る鏡の表面を指先でつつくと、まるで水にでも潜るかのように、指はつぷ…と鏡の中へ入っていく。
「すごい…さっきのヘンな匂いのする水が…」
「ヘンな匂いのする水って言うな。一応時間に干渉できる聖水は超高級品なんだ、記憶なんて、コレを使った相談料としてはかなり良心的な方だと思うぞ」
ついふふっと笑いそうになるが、すぐに彼女が“未来が視えた”といっていたことを思い出し、慌てて気を引き締める。


「では、視えた未来をレイラのお悩みに沿って、重要だと思われる情報を3つピックアップして教える。最終確認だが、何を知ってもいいんだな?私は遠慮ができないぞ」
しっかりとした面持ちで、はい、と答えた。

「分かった。まず1つ目。レイラのお母さんは、レイラのことを愛しているようだ。しかも、並々ならぬ思いで」



ほうっと、ため息が漏れた。安堵の気持ちが胸をあたためていく。いつのまにかスカートの裾を握る手のひらに、汗が浮き出ていたことに気づいた。
愛されている。それを実感できるだけでこんなにも強くいられるのかと思うほど、幸福感が手足の先に至るまで私を埋め尽くした。そんな私を見て、シーラさんが微笑みながら、続ける。


「2つ目だ。お母さんは、レイラの実父の妹だった。これは…本人から聞いたことはあったか?全くの他人というわけではなく、血縁上は叔母だった、ということだな」
「…いえ、聞いたことがありませんでした」
そうか、母とおそろいのこの髪は、遺伝性のものでもあったのかもしれない。

「…」

先ほどの幸福感がどこかへ追いやられてしまったかのようだった。納得と違和感が、砂に混じった小石のように、やけに居心地悪く流れ込んでくる。これは、
…そう、嫌な予感、というやつだ。




「3つ目。レイラのお母さんは不治の病に冒されている。もう長くはないだろう、というところだ」
彼女が淡々と告げた言葉は、私の予感を的中させた。






母は、早いうちから自分の病気のことや、いずれ若くして死を遂げるであろうことを、知っていたらしい。
自分の兄夫婦によって虐待された哀れな姪。自らの子として育てた彼女が、自分に情を持たないように、必要以上に愛さないように。自分が死んだあと、私が…愛するレイラが、無駄に悲しまないように。
母は、笑顔を見せることをやめた。


ぽろぽろと、涙が無言で流れてきていたらしい。手元に置かれた鏡の表面に、いくつも波紋ができていた。
「…」
シーラさんがハンカチを差し出してくれる。彼女は言った。
「私は、依頼人に肩入れをしない主義だ。自ら責任を持って真実を求めたレイラに私は敬意を持つし、同情はしない。…ただ、そのうえで提案をする。…この記憶を、消してしまわないか」
瞳に、ぼんやりと優しい光を湛えながら、ぽつりぽつりと呟くように話す彼女。きっとこれが不器用な彼女の、最大限の優しさなのだろうと思えた。
「サービス…と言っていいものかはわからないが。報酬をいただくとき、ついでにお母さんが病気だ、という記憶も消してやる。母にきちんと、愛されている、という幸せな記憶だけを持って帰れ。それもまた紛れのない真実だし、レイラのようないい子に訪れるバッドエンドなんて、あっていいはずがない」
「…」
私はなにも言えない。俯いたまま、目線すら合わせられない。
しかし、シーラさんはこう言った。

「醜い感情を持つ自分がきらいだ、と言ったか。お母さんは、そんなレイラのこともまるごと愛していると思うぞ。…無理をする必要はないが、過去の嫌なことを笑い話にできてこそ、人生というものだ。悪いのは100%向こうなんだ、全力で嫌って、憎んでやれ。トラウマなんて抱えるだけ損だ。嫌なことは嫌とちゃんと認識して、思いっきり幸せに生きればいい」

「…!」
私が顔をあげると、そこに座る彼女は、微笑んでいた。
毎夜の記憶が重なる。あの夜もあの夜も、とうとう見ることができなかった、花畑に立つ母の笑顔。

それは、間違いなく目の前の、シーラさんの美しい微笑みと同じものだった。


「お母、さ…」
思わず、つぶやきが漏れて。
彼女に気づかれていませんように、と慌てて口を塞いだ。




数時間後。
「お母さん、これ。摘んできたんだけど…」
「…ありがとう」

相変わらず母は無表情だけれど、私を愛してくれていることは間違いない真実だ。

結局、私は母が病気であるという記憶を、消さなかった。
そう伝えると、シーラさんは言っていた。
「そうか。自分の選択なら、それでいい。お母さんを大切にしてやれ。…そうだ、花をあげる約束をしていたな。裏庭で植えているスカシユリを一本持っていけ。花言葉は“子としての愛情”。ぴったりだ」
部屋を出て長い廊下を歩きながら、ああそれと、とシーラさんは続けた。
「私からの贈り物として、これをくれてやろう。あくまで肩入れはしない主義だからな、レイラ程度この雑草で十分だ」
「程度ってなんですか!」
渡されたのは、山吹色の蕾が無数に咲いた花の枝。まるで兎の耳のような葉がのびていて、私はかわいい、と呟いた。


セージ、スモークツリー、ベルフラワー、カンパニュラ、そしてスカシユリ。
私の想いがつまったこの花束で、本当に感謝を伝えられただろうか。その優しすぎる嘘をついている心の奥で、母は笑ってくれているのだろうか。

「…そうだったら、良いな」
シーラさんのあの笑みを思い出して、私はくすりと笑ってしまった。






「“前の時間軸”の私は、病に抗えずじまいだったか。…どれもこれも、忌まわしい呪いのせいだ」
絢爛豪華なその部屋で、シーラは羊皮紙に何やら、忙しなく書きつけていた。
「悪かったな、“私”のせいで、悲しい思いをさせてしまって。たとえ何回やり直そうとも、最高のハッピーエンドを見せてやる」


ふと手を止めた彼女は、自らの豊かなワインレッドの髪を弄びながら、虚空に向けて呟いた。
「いつまでも愛しているよ、未来から来てくれた私の、愛しい娘」


シオンでも添えてやればよかったな、と、小さな声が響いた。


担当占い師:シーラ
依頼人:レイラ、16歳の少女。
消した記憶:醜い感情を縛り付けていた、自己嫌悪。
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作者メッセージ

勝手な設定付け加えまくって、本当に申し訳ありませんでした…!夜兎様、参加ありがとうございました!
●依頼人の名前 レイラ
●年齢 16歳
●性別 女
●一人称 私(わたし、でもわたくし、でもっ!)
●性格 優しくて穏やか。臨機応変に対応できる知性を持ってる。
●お悩み 母の気持ちを知りたい。もともとは孤児で、今の母に拾ってもらった。けれど、母は無愛想で何をしても笑ってくれない。17歳になれば家を出るので、その前に母に感謝と本心を聞いてみたい。答えがどうであれ、育ててくれた確かな感謝は伝えたかったから。
●消したい記憶やトラウマ 今の母に育ててもらう前の家族のこと全て。虐待児で保護されたのがきっかけで孤児院へと送られた。虐待してきた実の家族(父・母・姉)を恨む自分が嫌で、どうにかして忘れたかった。
●何をしていたらこの森にたどり着いた? 母に花束を贈るため、花を集めていたら迷った。
●相談したい魔女の名前 シーラさんで!
●「信じられないモノ」を目の前にしたら、どんな反応をする? フリーズする。
口を開いて何も喋れなくなる。
●口調、サンプルボイス、相手の呼び方 「初めまして。私、レイラと申します」
「○○さん」
●名前をどのように呼ばれたい? レイラ、でお願いします
●その他 実は、虫とか結構素手でいけるタイプ。花にくっついてる虫を何度も触ったのが理由。
殺すのではなく、餌のある森などに返してあげる優しさに溢れてる子!
ふわふわしたワインレッドの髪をしてて、笑うときは上品。

2025/01/22 16:31

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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