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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#10

兎の耳に掛けた鍵・前編 担当占い師:シーラ

笑顔になってほしかった。
ずっと、ありがとうを言いたかった。今の私があるのは、あなたのおかげだと。あなたが私にくれた大きな愛は、私の…



雑草しか生えていなかった林を辿っていくと、いつの間にか辺りには見知らぬ花ばかり。
「…あれ、知らないところに来ちゃった。この林、こんなに広かったっけ」

その場所は、林というより、森だった。どうやら夢中になって探していて、いわゆる迷子になってしまったらしい。小さな時ですら迷子になんて滅多にならなかったのに…そう、小さな時。ふと脳裏に、油とホコリの匂いのする暗い部屋で、母に抱き上げてもらった日の思い出がよぎる。彼女の腕の中で見た景色は、いつでも光と笑顔に満ちていた。だけど、私が笑いながら、満たされた気持ちのまま私を抱き上げた母の顔を振り向いても、…彼女はいつだって無表情だった。

「やっぱり、花屋さんで買ったほうが良かったかな…いや、もう少しで独り立ちするのに、“また無駄遣いして”なんて思われたら悲しいもんね」

何をしても笑顔になってくれない母は、もしかしたら“サプライズ”なら笑ってくれるのではと思った。
ふいをつかれれば、誰だって本音が出るものだ。子どもじみているかもしれないが、花を摘んで贈ろう。そう考えて、学校の帰りに近所の雑木林に少し寄り道した…だけだったのに。
「…とにかく、民家を探さなきゃ」


その森は、不思議なところだった。
初夏の花の隣に、晩秋の花が咲いている。風が吹いていないのに、芝がそよいでいる。雲が見えないのに、ときたま、ぼんやりとした雨の音が聞こえる。
昔、母から聞いたお伽話を思い出しながら花を片手に歩いていると、そこにすっかり寂れた、ボロボロの洋館があった。


普通の人なら、こんな場所を見ても「廃墟だ」と判断し、絶対に近づかないだろう。だけど私は心細かったから、一縷の望みにかけて…この館に入ってみよう、と思った。錆びた鉄の門は開けづらく、荒れ放題のだだっ広い庭園は通りにくい。それでも、何か妙な力に惹かれるように進んだ。館の扉を開ける頃には、半ば放心状態になっていたと思う。そんな私が扉を開けると、
…その向こうに、やたら姿勢の良い少女が、仁王立ちしていた。


「いや、済まなかったな。まさかあそこまで驚かれるとは思わなんだ」
シーラ、と名乗った彼女は、どこか凛とした態度で微笑みながらそう言った。
「廃屋かと思っていて…少しびっくりしてしまいました」
「少し、か。キミの中での少しはアレか。もんどり打って石段を転げ落ちるという、アレが…」
「ちょっと!改めて言葉にしないでください!あ、今笑いましたね!」
「うふっ…笑ってない」
「間違いなく笑ってるじゃないですか!」

先ほど急に現れた彼女。あまりの驚きに私は、固まった。固まったせいで力が抜けて重心がぶれ、身体を支えていた足が崩れ落ちた勢いで後ろに倒れた。入口は石の階段を何段か上がったところにあったため、ひとたび後方に倒れてしまえば、…そこに地面はない。
…幸いにも頭を打つことはなかったが、落下の衝撃をもろにくらった右肘が痛い。慌てて駆け寄ってきた彼女…シーラさんが、私を介抱しながらこの、温かな暖炉の部屋へ連れてきてくれた。大雑把で不器用だが意外に優しい手つきで応急処置のアイシングをしてくれている。
「見たところ腫れたりはしていないようだが…違和感を感じたら、すぐに言ってくれ。ミゼ…ああ、うちに薬学のプロフェッショナルみたいなやつがいるから、ちゃんと診てもらおう」
「ふふ、はい…身体が丈夫なのが数少ない取り柄でして。ご迷惑おかけしました。ありがとうございます」
「健康なのはいいことだな。丈夫さは天から授かる何よりのものだからな」
私の右腕をさすりながら、こちらを向いたシーラさんの瞳は、キリッと涼やかで、とても真っすぐで。
…なぜか少しだけ、悲しそうだった。




「へえええ!魔女さんって本当にいたんですね!」
「信じるのが早いな。チラシ見せただけでこうとは…キミ、カッコいいお兄さんとか優しそうなお姉さんにヘンな絵とか売られても買うなよ」
「…別に騙されやすいわけではありませんよ。私、昔母から魔女さんのお伽話を聞いたことがあったんですよ。…それと、私は“キミ”ではありません。“レイラ”と呼んでください」


「…レイラ…?」
「はい?」
「…いや、いい名前だな。そのお母さんにつけてもらったのか」
はい、と頷くと、彼女は驚くように見開いた目をすうっと細め、俯いた。ぱさり、と伏せられた長いまつ毛にどこか見覚えがある気がしたが、はていったい何だっただろうか。

「ところで、だ。先ほど見せたチラシと説明の通り、このままレイラを返すわけにはいかない。ここに来れたということは、何か悩みがあるのだろう?報酬は金じゃないから所持金の有無は問わない、私に占わせてくれないか」
シーラさんが、美しい微笑みを湛えたまま問う。私はその雰囲気に惹き込まれるようにして、いつのまにか頷いていた。
だけど。
「…ぜひお願いしたいのですが、その前に。このお花たちをどこかに、生けておいていただけませんか」
決して華やかではないけれど、私の想いがこもった花束。ちらりと、よく磨かれた木枠の出窓を見る。そこにはこの館の誰の趣味なのか、ミヤコワスレがクリスタルガラスの中にその彩りを透かしている。

「おや、花が好きか。ならレイラには、帰り際うちの庭で育てている花をプレゼントしてあげよう」
「あの荒れ放題の庭で?」
そう尋ねると、彼女は笑い、何も言わないままその雲のように繊細な赤毛をなびかせて、私の前を歩いていった。
優美な背中に見とれていると、「ついて来い」と声をかけられ、私は慌てて彼女を追った。
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作者メッセージ

今までにないほど意味深なタイトルにしてしまいました。
「兎の耳」は、「ハハコグサ(母子草)」の別名です。
うさぎの長い両耳にひっかけられた鍵は、今は固く閉じていたとしてもいずれ、必ず開きます。
少なくとも、最終話までには。

2025/01/20 22:06

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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