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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#7

無気力ワットエバー・中編 担当占い師:ミゼ

陽の光がさんさんと降り注ぐ、ガラス張りの壁と、高い天井。一面に広がる深いフォレストビュー。すっきりと整頓された、清潔で明るい空間。何もかも俺に似合いそうのない部屋でミゼさんから聞いた話は、実に突拍子のないものだった。

ここは、いわゆる魔法使いや妖精、精霊…と呼ばれている様々な人外向けの魔法薬・魔道具販売店なのだそうだ。その名もトライアングル・ウィッチハウス。名前の通り従業員はミゼさんを含め3人の魔女たちであり、最近副業として人間を相手とした“占い”稼業を始めることになった。そこで、悩みを抱えた人間だけがここにたどり着くことのできるゲートを人間界に設置した…とのことである。

「じゃ、報酬が“イヤな思い出”ってのは何すか」
「それは言葉の通りですよ、比喩でなく。この香水瓶に手をかざしていただいて、私が記憶の抽出・封印魔法をおかけします。先にご自分で選んでいただいた、“忘れたい記憶”が、私どもがいただく報酬。岳人さんに、その記憶は一切、残りません」


…記憶。
「そうすか」
「あら、やけに飲み込みが早くていらっしゃるのですね。こちらとしても、変に疑り深い方に比べたら大変ありがたいことです。では、先に忘れたい記憶を…」
そう言いかけて、彼女はあら?と小首をかしげる。
「申し訳ありません、…少し、表情が明るくなられたように感じまして。普通記憶を消す…と言われたら驚かれたり、抵抗感を示される方が多いのですが」
「…何でもないっす。ただ…消したい記憶は、もう少し悩んでてもいいすか」
「ふふ…本当はいけないことですが、わかりました。報酬は後ほど教えていただければ良いので、まずはお話しましょ?」



とても“占い”をする部屋とは思えない木のぬくもり溢れた空間で、“占い師”とは思えないほど慈愛に満ちた表情を浮かべる彼女。オカルト系のものについては、今まで興味がないかわりに信じてもいなかったのだが…この安定感の塊のような空間で、俺はやけにすらすらと喋りはじめてしまった。
「はじめに、お悩みについてお聞きしたいところですが…まずはなにか、雑談でもいたしましょうか」
「…あの、突然で悪いんすけど。出席番号前の方のやつって、なんであんなコミュ力高いんすかね」
「えっ?」
「“阿部”、“安藤”、“五十嵐”…とか、みんな勝ち組。そうじゃないやつも、どこかで居場所を見つけてる。俺は昔から、負けてばっかの人生です。出席番号が一番うしろで、みんなの中に馴染める世界のレイヤーが1枚うしろで、他人の中での俺の優先順位がいつも一番うしろ」





きっかけは、その日音楽で使うはずだった、リコーダーを忘れたことだった。

俺が小5のときの担任は厳ついオヤジ教師で、本名は忘れたけど「オニノリ」というあだ名をつけられ、嫌われていたことを覚えている。規律には厳しく、今思えばやや時代錯誤な理不尽な強制をしていた、と思う。
詰め込み教育、体罰、根性論、連帯責任。昭和時代から先に進めていないようなやつだった。当然忘れ物でもすれば即、授業をひとつ潰しての説教。そのたび「今日の授業は、〇〇のせいでできなかった。みんなは家で予習してきなさい。〇〇、お前が忘れ物をしたせいで、みんなの時間を奪ったんだ。反省しなさい」と、しかつめらしい顔で言う。
…いや、時間を奪ってるのはお前だろ。説教するなら休み時間にしろよ。
だれもがそう思っていたのかもしれない。ただそういう担任のせいで、もともとクラスの雰囲気は悪かった。

しかしその日俺がリコーダーを忘れたとき、妙に朝から機嫌の良かった「オニノリ」は、俺を怒ることはしなかった。それどころか、
「ホラ、これ使え。予備のリコーダー」
俺に一本のリコーダーを手渡してきた。
…助かった。
不自然すぎるほどに優しいオニノリに不気味さを覚えたものの、とりあえず安堵が勝り、俺は無事に音楽の授業を乗り切った。


しかし授業が終わってからそのリコーダーを洗ってから返却したあと、そのリコーダーは予備ではなく、オニノリの私物であったことが判明したのである。


「ガクトはオニノリと間接キスをした」
どこから漏れたのか、その噂は3日も経つとクラス中に広がっていた。そして、そのいじりが発展し、数日もしないうちにそれはいじめと化した。
無視、偶然を装った暴力は当たり前。近づくだけで汚いものを見るよう視線を向けられたり、給食にチョークの粉を入れられたり、ペンケースに画鋲が入っていたり。他にも、他にも。


結局俺は6年になる前に転校した。
新しい学校では八方美人を演じることにした。ただあの半年間のいじめは相当俺の精神を蝕んでいたのか、身についた卑屈な物腰は隠しきれず。俺は面倒事を押し付けられる便利なパシリか、敬遠される暗いヤツとしか認識されていなかったのだと思う。
6年のときも、中学に入ってからも、ずっと。





「…お辛い経験をされてきたのですね」
「いえ、もうそれはどうでもいいんす。今の高校は通信制だし、いじめてきた奴らのことも今はもう、どうとも思っていません。正直コレといった悩みはなくて。…あっ、コミュ力のなさについて悩んでたんだっけ。なんとかなりませんかね」

「…」
しばらく、ミゼさんは何か言いたげな表情で俺を見つめていた。そして、ゆっくりと口を開く。
「…とにかく、嫌なことを思い出して、それを私に話してくれて、本当にありがとうございます。ちなみに岳人さんは、紅茶とコーヒー、どちらがお好きですか?」
「コーヒーで」
承知いたしました、とにこやかに言った彼女は部屋を出ていき、ものの数秒でコーヒーを2杯、トレイにのせて持ってきた。
「えっ、早…」
「お砂糖とミルク、それに蜂蜜もお好みでどうぞ。お茶請けはロクムです」
トレイには、カラフルでこまごまとしたお菓子が並んでいた。




「それでは、お悩みはコミュニケーション能力の低さ、報酬は5年生から中学校卒業にかけてのいじめの記憶、ということでよろしいでしょうか」
「それでお願いします」
「それでは説明いたしますね。私の占いは、主にこの水晶玉と翡翠玉、珊瑚玉の3つを使ったものになるのですが…」
ミゼさんが部屋の隅に置かれた小綺麗でクラシカルなチェストから、木彫りの、凝った装飾のついた箱をとりだしてきた。中には艷やかな宝玉が6つ入っている。俺はそれを眺めながら、色とりどりの添え菓子…“ロクム”とやらをつまむ。もちもちして意外に美味しい。
「この、残り3つは何なんすか」
「ああ、こちらは…琥珀玉、真珠玉、瑪瑙玉です。めったに使いませんのでお気になさらず」
そう微笑むと、彼女は一呼吸ついて、コーヒーに砂糖と蜂蜜、ミルクをこれでもかというくらいに入れはじめた。
「えっ」
「私はコーヒーが飲めないんです。アレを飲める人は泥水も飲めると思っています」
「えっ…?」
「それでは」
今までと若干毛色の違う発言に固まっていると、ものすごく甘いであろうカフェオレを上品に一口飲み、彼女は言った。
「占いを、はじめていきましょう」
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作者メッセージ

作者は今までの人生、幸いなことにいじめとは無縁の環境を歩んできたので、描写にややリアリティが欠けていると思われます。無責任なことは言えませんが、いじめを容認してしまっている環境はもはや無法地帯です。もし少しでも嫌なことがあれば、誰でもいいのでSOSを出してください。あなたのことを大切に思っている人は絶対にいます。私も、拙作にコメントしてくださるあなたが大好きです!
(なんですか!ふざけないでください、キモいってなんですか!)

2025/01/19 11:02

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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