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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#3

夢幻の恋・中編 担当占い師:リーエ

連れてこられたのは、オレンジと黒でまとまった、ハロウィンムードの部屋だった。かぼちゃのランタンや黒猫、ドクロのオブジェが置かれており、壁は白黒の派手な市松模様。真っ黒の床にオレンジの丸く大きなラグが敷かれて、その上に燭台やお菓子の籠を置いた棺桶…をかたどったテーブルが置かれていた。
「びっくりした?この棺桶、ちゃんと開くんだよ!収納に便利なんだ」
「いえ、棺桶にびっくりしたわけではなく。…本物の魔女さんも、ハロウィンはこんな感じの飾り付けをするんだなあ…と」
「いや、普通はしないよ。リーエがかわいいなって思ったから置いてるだけ!ハロウィンシーズン以外も飾ってるしさ。ハロウィンはこっち、お仕事ざんまいだよ!交通整理なんかの事務作業に駆り出されて…もうたいへん」
どうやら本当に気苦労が絶えない時期のようで、やや疲れた表情が覗く。しかしリーエさんはすぐにその顔を引っ込め、無邪気な笑顔に戻った。

「さっき“お金はいらない”と仰ってましたが、それはどういうことですか?」
「言葉の通りだよ!報酬はいただくけど、お金じゃないよん」
私たちは棺桶テーブルを挟み、オレンジ色クッション張りの、クラシカルな黒い木材の椅子に腰掛けていた。不思議なもので、先ほどは小さな女の子としか思えなかったリーエさんも、蜘蛛の巣の意匠があしらわれた黒いレースカーテンの奥に鎮座している姿はいっぱしの占い師に見える。
「それじゃ、一体…」
もし寿命とかだったらどうしよう。家に帰りたいけど、悪魔の契約みたいなものだからなあ…
「ああ、寿命とかじゃないからね?不安に思わなくても大丈夫。というかむしろ感謝されちゃうかも?」
「それならいいんですけど…何なんですか、報酬は」
「記憶」
彼女は笑いながら言った。
「思い出したくない、イヤーな記憶をリーエたちにちょうだい。きれいさっぱり消してあげるから」


「あ、先に報酬として支払ってくれる記憶を教えといて。バックレられたら商売もへったくれもないから」
「…してください」
え?と、燭台に揺らめく炎の奥で、彼女が聞き返す。

「私の、過去の恋を消してください」



「ふーん、恋愛の悩みだったとは。意外だな!イトウちゃんみたいな真面目ちゃんはなんか…勉強の悩みとかかなって思ったよ。the文系みたいなロングヘアでさあ」
「…まあたしかに恋愛なんて、リーエさんには縁がなさそうな悩みではありますね」
あ。
…また、やってしまった…真面目ちゃんと言われてバカにされたように感じ、少しイラついたままにトゲのある返事をしてしまった。いつもこうなのだ。思ったように言葉が出なくて、人を怒らせたり、傷つけたりしてしまう。そしてそれに気づくと、原因は私なのに自分でも勝手に傷ついて、同じことを繰り返す自分への嫌悪…のループに陥る。
しかし、リーエさんも怒らせてしまったかと私が恐る恐る俯いていた顔をあげると、彼女はなんでもなさそうに笑っていた。
「そうだね!リーエは可愛いから恋愛で悩んだことはないかも。モテモテだから!……ふふん、ちょっとやそっとの嫌味じゃ効かないぞ、普段からミゼに鍛えられてるんだから」
「え?後半がよく聞こえませんでした」
「なんでもないなんでもない!それより続きを聞かせて!」
屈託なく笑う彼女に救われたような気持ちになって、私はいつの間にか彼女に、驚くほどするすると自分の悩みを打ち明けてしまっていた。



幼馴染であった彼。
家が隣同士だった彼は、小さなころから優しくて、困っている人や弱い者いじめを見るとすぐに助けに飛んでいくような人だった。私は小さいころから泣き虫で気弱なくせについ攻撃的になってしまう子どもだったから、友達も…昔から私を知る親友を除いて徐々にいなくなり、本が友達の代わりになっていった。
そんな私を変えてくれたのが、彼だった。

「イトウ、それ、何の本?」
「…好きなシリーズです。アナタに関係ないでしょ」
一人は寂しかったから、話しかけてもらえて、嬉しかったのに。つっけんどんな対応をした私に、それでもなお彼は話し続けてくれた。
「いつも読んでるでしょ?表紙が面白そうでさ、ずっと気になってたんだよね。よければどんなストーリーなのか、教えてくれない?」
「…嫌です。私は文章をちゃんと自分の目で読んだのに、私が教えることでアナタがストーリーを簡単に知れてしまうことが気に食わない」
「あっ…そうだよね、ごめん…」
「…だから」
申し訳無さそうに謝る彼に、言った。勇気を振り絞って。
「1巻から、貸します。よければ自分で、読んで」

次の週、私が貸した1巻を大切そうに手渡してくれた彼は、私に向かって笑顔で言った。
「やっぱ、すっごく面白かった!2巻も貸して!」
急速に、嬉しさが全身を駆け巡った。こんな幸福感は味わったことがない。その気持ちをひた隠しにして、了承を伝えると、彼は本をパラパラとめくりながら、言った。

「好きな本は、その人の心の本質を表すんだって。こんな面白い本を好きだってことは、きっとものすごい心が豊かで優しいんだよ。僕さ、イトウの新しい一面がみれたみたいで嬉しいな」
彼が教室を出て、廊下へと向かう背中を見送りながら、私はものも言えぬまま、持っていた文庫本を床に落とした。

私は、彼に、恋をした。




「うきゃああああああ!眩しいよイトウちゃん!なんだそのお手本みたいな初恋!」
「ちょっ…大丈夫ですかリーエさん、そんな大声出して。もう二人の方、眠ってらっしゃるんですよね」
「構わんよそんなんこの際!うおおおおおお!恋バナ祭りじゃああああ!」
一人で大盛りあがりしているリーエさんは、占い師という職業の気品とか、神秘性といったものをかなぐり捨てたかのように、ただはしゃいでいるだけの小さな女の子にしか見えなくなっていた。
「で?で?そんな純愛が、どうして悩みになっちゃったの?」




私は、それが恋であるということにすら、最初は気づいていなかった。しかしそのうち、彼が話しかけてくるたび、たまに手が触れ合うたび、全身で感じる甘い陶酔感には気づくようになる。友達に恋愛相談などできるわけもない私が、その感情の正体を知るためにすがったのは、…やはり本だった。

「…恋。こ、い…」
初めて手に取った恋愛小説。何冊もの本を読み漁り、描かれたヒロインたちに自分の想いを重ね合わせた。仲間、友情、青春、恋、恋、恋。必ず想いが成就し、ハッピーエンドになる彼女たちを見習って行動する。ヘアケア、スキンケア、メイク、言動の端々。もともとキレイだとよく言われていた髪も、彼の目に止まりたい一心で念入りにケアをした。ブローなんて概念を初めて知ったのも、この頃。無理をしてでも“可愛げのある”性格を演じることで、友達も徐々に増えていった。



だけど、ある日。
いつものように開いた本で、見つけてしまった。
「あなたのために、必死で可愛くなったのに…あなたは他の子と付き合っちゃった。どうして、上手くいかなかったの?もっと頑張ればよかったの?頑張りすぎて、疲れちゃったよ。あなたのこと、ホントに好きだったのかどうかすら、もう分からない」

…「本当にあの人を好きだったのか、私はわからない。好きな人のために無理をして自分を変えるのが、恋というものなの?」
…「恋愛って、幸せになるためのものじゃないの?こんなに辛いのに、どうして私を見てくれないキミのために、私はこんなに頑張っちゃったの?」

“気づき”は、不思議なほどに大量の負の感情を引き連れて、私のことを取り巻いた。
なんなんだっけ、なにやってたんだっけ、わたし。苦しい思いして自分を変えて、友達いっぱいつくって、メイクして、何がしたかったんだっけ。
ほんとうに、あなたのことが好きだったんだっけ。


今日もインターフォンの音が鳴る。彼が心配して、家を訪ねてきた音だ。彼はいつも私と話したがっているみたいだけど、私にその勇気はない。
「ねえ、あのシリーズ、最新巻出たでしょ。一緒に喋ろうよ」

私の恋は、夢かまぼろしのように、苦痛な思い出へと変わってしまったのだ。
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作者メッセージ

なっ…長え…!前後編とか言っておいて、前中後編になっちゃった。
次回、なんとかリーエさんに解決してもらいます。なんとか。終わらせないとやばい。

2025/01/17 16:01

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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