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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#1

序章 Witches in the evening

夕暮れの森に、カラスの鳴き声が響く。

傾きかけた西日が梢を橙色に濡らし、木漏れ日がやたらに芸術的なまだらの地上絵を描いていた。樹齢何百年ですといった顔をしてデンと居座る、あの太い幹の巨木も、樹皮をぽろぽろと剥がしたあの華奢な若木も、まわりの樹木たちとのあらそいに負けてしまったのだろうか、すきまの陽光を求め複雑に曲がったひねくれの木も、あちこちでツタや苔に絡まって、広大な森すべてが生き物のように見えている。そんなうっそうとした森の中で、まるで樹木の一部のように、あまりにも馴染み過ぎている…つまるところ、かなりボロボロの…その洋館は建っていた。

ひび割れた石造りの門柱に、こちらも無秩序なほどにツタの絡まる鉄の柵と門の格子。明らかに風雨の影響をもろにくらったことが分かるほど錆びており、開けようとでもしたら、ギギギ…と重々しい音を立てそうである。
屋敷の内部もその様子は同じことで、敷地の大半をつかった広い庭園は、詰め込んだかのように得体の知れない植物でいっぱい。周りの森とほぼ一体化してしまっている。

そんな薄暗い夕暮れの庭園を抜けた、レンガづくりの館の屋根裏部屋の、小さな三角窓。
怪しげな緑、紫色の液体がならぶ棚には炎が揺らめく蜜蝋。琥珀の軸の万年筆で描きつけられた羊皮紙、重なった分厚い本。その暗い小さな部屋では、少女が一心不乱に煮立った大鍋をかき混ぜていた。
「なんで…理論は間違ってないはずなのに…どうしてだ」
ぐつぐつと沸騰の音が響く炉床に、ちらちらと炎の影が踊る。少女が古びた木のトレーに並ぶ果実や変な匂いのする液体を鍋に苛立ちながら投げ入れるたび、ドロリとした謎の液体は量ばかりが増えていく。

「シーラさん、根を詰めすぎると身体に障りますよ。そろそろお茶にでもなさって」
屋根裏部屋の小さな扉が音を立てて開き、カトラリーにカップ、ティーポットにケーキスタンドをティートレイに乗せた華奢な少女が入ってきた。
「ああ…ミゼ。なかなか上手くいかなくてな…お前はなんであんなに上手く作れるんだ?私は薬学の方はとんとダメなんだ」
「そりゃ才能ですよ。シーラさんにはないものを私が持っている、それだけの話ですもの」
「言い方がなあ、いちいち腹立つなあ…ありがと」
ミゼが注いだ香り豊かな紅茶が、薄暗い部屋の中の暖炉の火を反射して金色に揺らめいていた。シーラは鍋をかき混ぜていた木のヘラを置き、ケーキスタンドからサンドウィッチをとる。

「やってるやってる!リーエも混ぜろー!」
カンテラの強い光とともに、元気な声と一層小さな人影が飛び込んで来た。そのままテーブルのまわりに一つだけ空いた、ボロボロの椅子に跳び乗る。勢いよく座りすぎたせいで椅子はやや軋んだ音を立てた。3人が入った小さな屋根裏部屋は、ただでさえモノが多く雑然としているのがはち切れそうになっていた。
「リーエも呼んだのか」
「どうせなら夕食を済ませてしまいましょう。今日はグラタンですよーっと」

薄暗かったシーラの屋根裏部屋に、柔らかいランプの光が灯る。窓の外の森は、日が完全に沈みかける直前の、ワイン色の空と冷え切った風の匂い、葉擦れの音に包まれていた。ぽつりぽつりと星が出始めている黄昏時、少し早めの晩餐会は始まった。

丸テーブルを囲むのは、この館の住人である3人の小さな魔女たち。個性豊かな彼女たちをひとりひとり見てみよう。
「ほらリーエさん、口にチーズがついていますよ。相変わらず食べ方の小汚いこと」
「“小”ってなんだよ“小”って!なんか一気にものすごい罵倒語に変わったよ!」
笑みを絶やさぬままカリフラワーのアンティパストを取り分ける少女がミゼ。立ち居振る舞いも言葉遣いも所作も上品だが、やや配慮に欠けているところがある。薬学の知識に長け、館の裏手に家庭菜園を持っている。料理は絶品で、キッチンは常に彼女の支配下におかれている。

「それにしてもおいしいな!この…ブロッコリー」
「違いますよ?」
「わざと間違えてるのか?」
小柄な見た目に似合わず誰よりも大量の料理を皿に盛る彼女はリーエ。いつも元気いっぱいで、よくドジを踏むことがある。ただしそのドジが、天然アピールのための計算である場合もしばしばである。基本的には感情がすぐに表にでるタイプで、隠し事ができない。モノを浮遊・移動させる念動力が得意であり、広大なこの館の掃除を任されている。

「…それで、こっちの液体を入れてから混ぜたんだが」
「どちら回りに、何回混ぜましたか?」
「…」
「料理と同じなんですよ。“レシピ通りにつくったのにどうして上手くいかないの”と仰っている方ほどすべて適当にされている。本当にレシピ通りにつくったのならば、美味しくならないはずがないんですよね。シーラさん、次からは時計回りに24回の撹拌です。これは何があっても死守すべき行程ですから」
「…」
気まずそうに頭を掻き、グラタンを頬張るのはシーラ。ちらりと大鍋を見遣るものの、中身は見るも無惨な黒焦げである。ズボラで不器用なのだが、予言や未来視の力は一級品。魔道具の扱いにも長けており、いつも凛として姿勢が良い。普段から自分たちの稼業、“魔法薬・魔道具販売店”のとりまとめを行っている。そして、もう一つの裏稼業も…

「裏稼業て。ただ人間を相手にしてるってだけじゃん」
「ですが…魔法薬の材料が人間の方からいただいた報酬…だなんてことはトップシークレットですもの」
「まあなかなか客は来ないな。一応人間界の雑木林に、悩みを抱えてるやつだけが入ってこられるゲートを設置しといたんだけど」
「雑木林ぃ?絶対だれも来ないやつじゃん!どっかの駅地下のデパートの入口にでも設置しときなよお」
「買い物に来られた方が即、森で迷子では嫌でしょう」
両手に持ったカトラリーを、不服そうにガン!とテーブルに打ち付けるリーエをなだめるミゼ。
「じゃあ…入口に、張り紙でも貼っておくか…目隠しの魔法かけて、悩んでるヤツだけが見れるように」



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「よし、こんなもんだろ」
袖まくりをした手をおろし、シーラがペンを置く。夕食はとっくに済んでしまい、ちょうど片付けを終えたリーエが、布巾で手を拭きながらテーブルへやってきた。
「ふーん、割とうまく書けてんじゃん。ちなみにこの99.8%ってのは?」
「適当な謳い文句。どこもそんなモンなんじゃないか」
「ふふ、悪徳ですね。シーラさんはともかく我々はカウンセリングが主になりそうなのですけれど」
「シーラ、わーるいんだ。お客さん、来るといいねえ」

夜は更けていく。広大な森の中の館の三角窓に小さな灯りがゆらぐ。それを見届けたかのように夜の森では、梢に止まり鳴いていた子ふくろうが、星空に飛び立っていった。
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作者メッセージ

今度参加型でシェアハウスを題材にしたシリーズを作りたいと思っておりまして、この物語は感覚をつかむための練習としてお楽しみください。たくさんの依頼人様をお待ちしております。

2025/01/22 22:18

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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