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ねえねえ聞いて聞いて!

#2

彼女が◯◯◯◯爆弾をくらった日

F。友人である。彼女との付き合いは割と長い。3歳の時始めた、習い事経由の知り合いなのである。
特徴としては、とにかく一挙手一投足が“強い”。もう少し詳細に言うと、アクティブなオタクであり、明るすぎる人見知りであり、面白いクソ真面目…という、まるで矛盾の女神みたいな性格をしているのだが…
「んでさ、このマンガがマッジで面白いの!私の推しは主人公〇〇くんとパーティーの仲間の△△ちゃんでね、幼馴染っていうよくあるわかりやすい関係性かと思わせておいての血縁関係ありで、だけど兄妹とかじゃなくていとこだからさ、カップリングとしては応援できるっていうファン総出で揺れ戻しの仲でね、例えるならばまるでミ●クボーイのごとくに、ああそうなんかい、ああ違うんかい、ああやっぱそうなんかい、え違うんかい、みたいな感じでね、ホントにグラグラグラッグラグr」

止ま…止まらない。“強い”というのはつまり、“ブレーキがぶっ壊れている”ということなのである。こうして私の家に遊びに来るたび自分の推しについて余すことなく語りまくり、おしまいには必ず「さあ読め!」と語気をやや荒げて叫ぶのだからたまらない。ここまで読んでくださったならばお分かりになるとは思うが、こんなヤツと長年付き合っていると、彼女を評する言葉も“強い”しか出てこなくなるというものである。Fとは悪夢を食べてくれる神話の獏のように、こちらのボキャブラリーを喰らい尽くしてしまう想像上の生き物なのかもしれない。
今日も今日とて、ノートパソコンを前にロングロング座談会の開催中であった。次々と画像を表示し、こちらに真正面から語るわ語るわ。私はやや飽きていたため、彼女がもし就職して営業部に配属されたなら、きっとこの熱意をプレゼンテーションに活かしあっという間にエースとなれるであろう…というような全く関係のない思考の海にダイブしていた。傍目から見れば、右に熱心に喋る人、左にそれをうんうん頷きながら熱心に聞く人、といった感じだったのであろう。ただ実のところは、互いに相手との会話をしようなどという気持ちは1mmたりとも持ち合わせていなかった、というわけである。

そんな時、事件は起きた。

「それでね〜、えーっと…このシーンの画像あるかな…ん?何だこのシーン」
Fは喋りながら私の隣で、そのマウスを、クリックした。

[明朝体]「なっ…どういうことだよ△△!どうかしちまったのか!?俺達がまだ助かってねえよ!」[/明朝体]
[明朝体]「どうもしていませんよ〇〇さん…これで、良いんです。」[/明朝体]
ロケーションは薄暗い、何らかの実験施設の監獄らしき檻。そこに閉じ込められている少年はFが話していた主人公の〇〇くんとやらであり、その外から声をかけられているのがヒロインの△△ちゃんとやらであった。
[明朝体]「私は最初から…□□社から派遣されたスパイ。」[/明朝体]
[明朝体]「あなたがたの、敵なんですよ」[/明朝体]
…Fがクリックした画像はちょうど、裏切りのシーンだったらしい。当然彼女が私に見せたかった重要なシーンなのだろうと思っていた私が、Fに声をかけた時、
「へえ、ヒロインが裏切る展開があるんだ。衝撃シーンっぽいな…これからどうなんの?」
Fは、倒れた。




「あああああああああああああ!!うわあああああああああ!」
「どうした!?な…何、突然椅子ごと倒れて!」
Fが苦悶の表情で声を荒らげた。
「ネタバレェ!ネ゙ダヴァレ゙ェ!ネ゙ダヴァレ゙BOMBだあ゙ぁ゙あぁぁぁぁぁ」
「ネタバレボム!?」



「あああ喰らっちゃったよ…ごめんちょっとこのPCにゲ●吐き散らかしたい」
「汚いやめろ」
「…ゲ●吐き散らかした」
「やめろ」
…つまるところ、彼女はまだこのシーンを未読だったのである。最新話だったらしい。
「…私、このマンガは単行本派だったんだよ…まさか本誌でこんな展開になってるとは…最悪。…クッソ、LOWの野郎が!」
私は危うく彼女の吐瀉物の餌食になるところだった愛しいパソコンを守りつつ、沈黙を貫いた。
推していたカップリングの一方が、裏切り者だった…というわけだ。さぞかしショックだろう。彼女に同情しつつも、ここまで絶望に染まりきった人間というものは滅多にみられない。少し笑いそうなのを流石に我慢した。
絶対に〇〇くんとくっつくと思ってたのに…と嘆くFを励ますために、私は「大丈夫だよ、たぶん二重スパイとかだって。一周回って逆に味方だよ」と適当をこいた。まったくもって信頼性ゼロの言葉なのだが、とたんに彼女は少し慰まったようにわずかに顔をあげ、自らに言い聞かせるようにしてつらつらと語り始めた。
「…そうだよね、今までのムーブが嘘なわけないもんね。覚えてる?46話のショッピングデート会。あーんなモノローグしちゃってさ、読んだよね?貸したもんね?」
読んだが、正直覚えていない。まあそれを言う必要はないだろうと、とりあえず頷いておいた。
「でっしょー!?あんな二人がさ、悲恋に終わるわけがないんだって!そもそもさあ…」
Fはまんまと騙された。矛盾の女神のような複雑な性格をしている彼女だが、結局は単純な女なのである。そしてそんな面白いヤツだからこそ、私はずいぶん長い事コイツのことが大好きなのである。

作者メッセージ

Fちゃんはかなりかわいいです。いつも残念美人だなあと感じています。

2025/01/14 18:07

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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