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ねえねえ聞いて聞いて!

#1

美容室と友人の恋物語【再投稿】

※筆者が体験した出来事を元にしたエッセイです。苦手な方はおすすめ致しません。

【美容室と友人の恋物語】
ある朝、電話がかかってきた。AM6:30である。いくら何でも早すぎやしないか。よっぽど重大な電話じゃなければいつか海外旅行に行った時、たっかい料金の国際電話をコレクトコールで掛けてやる…恨み節を呟きながら相手もロクに確認せずに電話に出た。
相手は友人であった。私がもしもし、という四文字を寝ボケた頭で言う時間すら与えないまま、彼はビッグボイスでこう言ったのである。
「彼女ができた!ね聞いてる、彼女ができたァ‼︎」

…国際電話決定。プラスアルファで「長電話」も追加しよう。
よくもそんな、くっだらないことを早朝から私に伝えにきたモンである。おまけに彼の喋りは明らかに「徹夜しましたよ」と主張しているような深夜テンションのノリであった。おおかたその彼女とやらと朝まで通話でもしていたのであろう。相手にとっても友人は初彼氏なのだろうか、やたらと初々しいが馬鹿らしい。
そんな勝手な推測を私が次々に立てている合間にも、彼は喜びをまるで「走れメロス」に描かれた、大雨の後の濁流のごとく捲し立てていた。
「人生初彼女だ、とにかく嬉しい、告白はこっちからした、初デートはどこそこに行くつもりだ」などなど。そういえば、「正直結婚まで行きたい」とも言っていたような気がする。どんだけだ。どんだけ嬉しいんだコイツは。
私はそういった呆れの感情を何とか捨て、声音に出ないよう努力し、言った。
「良かったね、おめでとー」
「うんっっ!アリガトウッッ!」
…私がお祝いの言葉を口にした瞬間、幸せオーラを振り撒いていた彼の唐突な感謝の言葉と、ツー…ツー…という電話の切られた音が耳に飛び込んできた。たった今来た、嵐のような電話は一体なんだったのだろう…二度寝しようにもあまりにも彼のインパクトが強く、図らずも健康的な朝を迎えてしまった。

その日は美容室を予約していた日であった。メニューは縮毛矯正とカットである。私は店へ予約時間の5分ほど早く着き、置いてあった漫画を読みながら待合室で待っていた。
時間になると、私はあの例の、「やたら上下にスーッって上がるイス」に案内された。こんなに可動域の広いイスは、他には歯医者くらいでしか見ない。しかもアレはリモコンだのモニターだのがくっついておりやたらとメカメカした見た目であるのに対し、こちらは店のインテリアにも調和している一見普通のイスであるのだから、私はこのイスに是非とも高得点を差し上げたい。
さて、顔馴染みの美容師さん(美人、但し既婚)に要望を伝え、カットが始まった。美容室といえば美容師さんとのトークが楽しいポイントだが、こちら自分たちの会話以外にも、他のイスのお客さんたちの断片的な会話が聞こえる、というのもまた楽しい部分である。
とあるマダムは、受験生の息子がゲームばかりしており、勉強を全くしないのだと語っていた。どうやら話を聞くと彼は某大乱闘ゲームのプレイヤーらしく、以前カービィでジョーカーとベヨネッタに勝ったらしい。…え?それってすごい事なのでは…?
またとある少女は、今日が人生で初の美容室なのだと嬉しそうに話していた。彼女はその後シャンプー台へと移動していったが、しばらくすると小さな断末魔が聞こえてきた。どうやら自分で頭を上げすぎてしまい、首筋を伝って服に水が入ってきてしまったらしい。
私のカットを担当してくださった美容師さんは、「ああいうのを私たちは〝噴水〟って呼んでるんですよ」とフト遠い目をして語った。私はこれからの人生でシャンプーをしてもらう際に、絶対自分で頭を上げようとはしないと強く誓った。
そしてその誓いを守るべき時は大分早く訪れた。私もシャンプーをしてもらうことになっていたのだ。
これほどの極楽を私は知らない。よくツボを心得たプロの頭皮マッサージ。間違いなく人生におけるトップクラスの安らぎであろう。

そんなことを考えているうちに美容師さんは素晴らしい手際で髪を整えてくれた。代金を支払い、美容室を後にした。

帰りに服でも買っていこうか。気分よく道を歩いていると、突然電話がかかってきた。
…朝の彼からであった。午前中彼女とデートをしていたのだが、「初デートにやっすいラーメン屋に連れていった」という理由でフラれたのだという。彼らが恋人でいた時間、推定10時間…慰める言葉も出てこなかった。この日の午前中、マダムは悩み、少女は服を濡らし、私は極楽を味わい、彼女は怒り、彼はフラれた。これらは一見関係のない人々だが、過ごし方は違えどみんな、きっとどこかで同じ密度の時間を過ごしているのであろうという、ただそれだけのお話である。

作者メッセージ

以前、零様企画のリレー小説「この世で一つのアンソロジー」に投稿させていただいたものになります。

2025/01/07 18:40

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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