暗闇の部屋の中に、ゆらりゆらりと浮かぶ、一つの炎。
巨大な[漢字]新嘗[/漢字][ふりがな]にいなめ[/ふりがな]の[漢字]蝋燭[/漢字][ふりがな]ろうそく[/ふりがな]が、静謐に包まれた“蝋継ぎの間”に鎮座していた。
「――蝋継ぎの儀は、これにて[漢字]直会[/漢字][ふりがな]なおらい[/ふりがな]となります。陛下…いえ、[漢字]先王[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]陛下、今上陛下、大変お疲れ様で御座いました」
暗幕の室で、燻銀の見届人・ジマの声が静かに響く。一世一代の一仕事を終えた安堵感に、リカはその真紅の袖から覗く細腕を胸にあて、軽いため息をついた。
「ほう…」
その瞬間、すぐ隣からも同じようなため息の音が聞こえ、リカはすばやくそちらを見た。
隣には、既に「先代」となった父が、リカとそっくり同じ動きで胸を撫で下ろしていた。それに気づいたかのように、父王もリカのほうをはっとして見つめた。
しばらく目を合わせた後に、父娘はその顔を僅かに緩め、軽く微笑み合ったのだった。
「これで、私は“新王”となったのでございますね」
「左様だな。今まで再三口喧しく忠告されてきた事ではあろうが、改めて、この国を統べるものとして励むのだぞ」
幼い頃から親しんできた父の声が、今まで感じたことのないほどに重厚な響きを伴って耳に染み渡る。
今日から背負い始めたその責に、確かな歴代の重みを感じながら、リカは“はい”と頷き――
――頷く前に、側に立つリカの母…王妃が声を発した。
「あらあら!確かにこれで蝋継ぎの儀は終わりましたけれど、これだけではまだ実質的な王になったとは言い難いですわ。まさか陛下、愛娘の立志に感動するあまり、[漢字]あれ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]をお忘れという訳ではありますまいね」
「お母様…?」
にこやかに首を傾げる若々しい王妃…いや“太后”に、怪訝な顔を向けるリカ。その奥から、父王が返事を返した。
「もちろん、忘れてはおらぬさ。確かに我を忘れるほどに感動してはしまったが…」
「まあ、左様ならば良いのですけれど。リカ…失礼、“陛下”から[漢字]あれ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]を知る機会を奪い、[漢字]王の気高き精神[/漢字][ふりがな]ノブレス・オブリージュ[/ふりがな]の欠けた王にすることはできませんわ」
「その通りであるな。さあリコラティア、これは我々親から子への最後の贈り物だ。この贈り物―この“伝説”を、いついかなる時も心に留めるのだ」
父母はそう言うと、優しい手つきで娘の華奢な体躯を導いた。その姿をジマは、やや細めた瞳で見送る。
彼らの姿は、蝋燭の炎が揺れる後ろ、暗幕のさらに深部へと消えていった。
巨大な[漢字]新嘗[/漢字][ふりがな]にいなめ[/ふりがな]の[漢字]蝋燭[/漢字][ふりがな]ろうそく[/ふりがな]が、静謐に包まれた“蝋継ぎの間”に鎮座していた。
「――蝋継ぎの儀は、これにて[漢字]直会[/漢字][ふりがな]なおらい[/ふりがな]となります。陛下…いえ、[漢字]先王[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]陛下、今上陛下、大変お疲れ様で御座いました」
暗幕の室で、燻銀の見届人・ジマの声が静かに響く。一世一代の一仕事を終えた安堵感に、リカはその真紅の袖から覗く細腕を胸にあて、軽いため息をついた。
「ほう…」
その瞬間、すぐ隣からも同じようなため息の音が聞こえ、リカはすばやくそちらを見た。
隣には、既に「先代」となった父が、リカとそっくり同じ動きで胸を撫で下ろしていた。それに気づいたかのように、父王もリカのほうをはっとして見つめた。
しばらく目を合わせた後に、父娘はその顔を僅かに緩め、軽く微笑み合ったのだった。
「これで、私は“新王”となったのでございますね」
「左様だな。今まで再三口喧しく忠告されてきた事ではあろうが、改めて、この国を統べるものとして励むのだぞ」
幼い頃から親しんできた父の声が、今まで感じたことのないほどに重厚な響きを伴って耳に染み渡る。
今日から背負い始めたその責に、確かな歴代の重みを感じながら、リカは“はい”と頷き――
――頷く前に、側に立つリカの母…王妃が声を発した。
「あらあら!確かにこれで蝋継ぎの儀は終わりましたけれど、これだけではまだ実質的な王になったとは言い難いですわ。まさか陛下、愛娘の立志に感動するあまり、[漢字]あれ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]をお忘れという訳ではありますまいね」
「お母様…?」
にこやかに首を傾げる若々しい王妃…いや“太后”に、怪訝な顔を向けるリカ。その奥から、父王が返事を返した。
「もちろん、忘れてはおらぬさ。確かに我を忘れるほどに感動してはしまったが…」
「まあ、左様ならば良いのですけれど。リカ…失礼、“陛下”から[漢字]あれ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]を知る機会を奪い、[漢字]王の気高き精神[/漢字][ふりがな]ノブレス・オブリージュ[/ふりがな]の欠けた王にすることはできませんわ」
「その通りであるな。さあリコラティア、これは我々親から子への最後の贈り物だ。この贈り物―この“伝説”を、いついかなる時も心に留めるのだ」
父母はそう言うと、優しい手つきで娘の華奢な体躯を導いた。その姿をジマは、やや細めた瞳で見送る。
彼らの姿は、蝋燭の炎が揺れる後ろ、暗幕のさらに深部へと消えていった。