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うさ神様のいるところ

#23

第二十三羽

「―はい、お化粧は終わりましたわよ」
「[漢字]御髪[/漢字][ふりがな]おぐし[/ふりがな]も整いました。もう完璧ですわ。とってもお綺麗ですよ、リカさ…
…いえ、リコラティア女王様」


誇らしげな顔で瞳を潤ませているのは、ひと仕事を終えた侍女たち。声をかけたのは、侍女頭であるユキノ、そして傍のコウメ。こちらも子供の頃から世話になっていた彼女らに、若き王は微笑みを向ける。

「……そうか、ありがとう。なんだか照れるな」




秋の月が沈む明朝、穂束を啄む小鳥の声が響き始める頃。

徐々に明るくなり始めた朝陽の光の中で、彼女の身拵えは完了した。













屋敷の広い中庭に、絢爛豪華な真紅の絨毯が広がる。
あちこちに日除けの大和傘がおかれ、まばらな人の入りがあった。



この即位式は、別れて執り行われる三つの儀式によって構成される。

ひとつめ、[漢字]蝋継[/漢字][ふりがな]ろうつ[/ふりがな]ぎの儀。
王の証である真紅の衣を纏った新王が、千年の昔から燃え続ける巨大な蝋燭の下部に、清めの蝋を継ぎ足す。

その儀式は、新王であるリカ、前王の父、王妃である母、そして見届人―今回は、ジマがその役を務めることになっているそうだ――という非常に少ない人数で執り行われる。
屋敷内で働く使用人や従者、用心棒達も総勢で護衛としてその場に就きはするが、彼らが見届けられるのは「儀式の部屋」の外まで。それより奥は、最低限四人しか入ってはならないことになっている。

ククも、実際に儀式を執り行う部屋には、入れない。




ふたつめ、来賓への挨拶。
国内外からの賓客に対し、新王の即位を宣言する。
盛大な祝賀会の催される中庭で、全体への挨拶を行う。そしてその後、来賓客ひとりひとりとの会話をしなければならない。
これが事実上、即位して初めての外交仕事である。




そしてみっつめ、お披露目。
屋敷の最高層部に位置する楼閣から、城下に集まった民たちに新王の顔見せを行う。
この国での即位式というものは民たちにとっても一大事であり、城下では屋台が出て人の入りも激しくなり、既に連日のお祭り騒ぎが起こっているのだ。


他にも今まで住んでいた「東館」(=次期国王の室)から本館への移動を行う「[漢字]住処[/漢字][ふりがな]いえ[/ふりがな]渡り」、使用人の入り・退き・異動・昇進を管理する部署分け発表等、様々な行事があるものの、基本的にはこの三つの儀式を終えてようやく、リカは王として認められるのだ。





――貴女様なら心配は無用でしょうが、念の為もう一度申し上げますから、よくお聞きになってくださいませ。
この式典は、きつい装飾だらけのそのお着物や不慣れな他国の貴賓の方への気配り、それに決して間違えてはならない所作や決まり事、そのすべてに三日三晩耐え続けなければなりませんわ。
この国の全てを背負う王になるための試金石とでも考えて、どうぞお気を強く持ってくださいまし。私共使用人一同、心よりお祈り申し上げておりますわ――

侍女頭のユキノは、相変わらずの堅苦しい口調でそう言い含めていた。




――このたび、見届人は私が務めることとなった。
粛々と、そして卒なく全ての儀式が執り行われることを祈る。

…大丈夫、貴女ならできる。
小さい頃から大きな期待を背負い続けて、さぞや辛い重荷だっただろう。
本当によく頑張った。専属の執事としてではなく、貴女をまるで孫娘のように愛してきたひとりの人間として、リコラティア…
貴女のことを、誇りに思う――

ジマはいつもの威圧感を少し和らげて、柄にもなくそんな素直な言葉を伝えてくれた。




護衛のセノは、自分のことのように喜んでくれた。

園女のクメは、ぽろぽろと涙をこぼしながら鼻声で祝辞をくれた。





リカが子どもの頃から知る、全ての人間たちが、リカを心から祝ってくれていた。
もちろん、誰よりも彼女の側に仕え続けた、黒髪の従者の少年も。







「…まったく、困った奴らだ。…ふふ、化粧が落ちてしまうじゃないか」

絢爛な衣に身を包んだ少女は、ひとりごとを呟いた。



真紅の帯留めに掛る金飾りが、星のように揺れた。
女王リカは、その銀朱の緞帳の向こうへと、ゆっくりと歩いていった。

2025/06/04 22:23

団栗きんとん
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セルフリメイク一話一話よ短し御免

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