黒衣に身を包んだ2人は、先程とは打って変わって静まり返る屋敷の中をこそこそと歩いていた。
「クク、帰る前に正門に寄るぞ」
「え?なぜですか」
リカは握りこぶしの上に突き立てた親指で門を指し、ひそひそ声でそう伝える。
ククはその言葉に首を傾げた。黒髪が夜空にやっと顔を出した月光を鏡のように映し、とろんと肩に落ちた。
無断で脱走している今は、誰にも見つからないうちにできるだけ早く帰りたいのだが。
しかしククが二の句を継ぐより先に、リカは口元の黒布を下げた。
「お前、ジマにあれほど流暢に嘘をついておいて何を平和ボケしているんだ。数刻前に自分が何と言って誤魔化したのか思い出してみろ」
「…あ」
よくよく考えてみれば、言われた通りだった。ジマは今、リカが屋敷を脱走して城下町にいると思い込んでいるのだ。
そういえば〝王女がいつでも戻ってこられるように、閂を外しておいてやろう〟なんてことも言っていた気がする。
「思い出したか?全く呑気な奴だ。私がきちんと「戻ってきている」印を残してようやく、今夜のあらゆる出来事の証拠は完璧に消滅する。これにて完全犯罪は成立だ」
「…犯罪って……って、ちょっと!置いてかないでくださいよ!」
その言い回しに脱力しながらも、ククは早歩きで門へと向かう主人を、慌てて追いかけた。
いつもなら衛兵が見張っているはずの正門[漢字]櫓[/漢字][ふりがな]やぐら[/ふりがな]は、火の気ひとつ、人っ子一人の気配もなく、夜の暗がりに沈んでいた。
「あれ、見張りがいない…どうしてでしょう」
「おおかたジマが申し送りしておいてくれたんだろう。付近に隠れている輩もいないようだし、こそこそと来る必要は無かったな」
門の近くの植え込みに身を隠しながら、リカが苦笑する。そのまま葉擦れの音を立てながら、彼女は立ち上がった。
草鞋の足跡を、今度は反対方向に向けて付けていく。
大きな木組みの門はゆっくりと閉じ、王女はその華奢な腕で抱え込んだ閂を、がちゃりと嵌め込んだ。
秋の月半ば、戴冠式の前日ーーーーーーーーーーー
丑三つ時、草をそよがせる風に包まれた静寂の夜。
二人の小さな大冒険は、こうして幕を閉じたのであった。
「クク、帰る前に正門に寄るぞ」
「え?なぜですか」
リカは握りこぶしの上に突き立てた親指で門を指し、ひそひそ声でそう伝える。
ククはその言葉に首を傾げた。黒髪が夜空にやっと顔を出した月光を鏡のように映し、とろんと肩に落ちた。
無断で脱走している今は、誰にも見つからないうちにできるだけ早く帰りたいのだが。
しかしククが二の句を継ぐより先に、リカは口元の黒布を下げた。
「お前、ジマにあれほど流暢に嘘をついておいて何を平和ボケしているんだ。数刻前に自分が何と言って誤魔化したのか思い出してみろ」
「…あ」
よくよく考えてみれば、言われた通りだった。ジマは今、リカが屋敷を脱走して城下町にいると思い込んでいるのだ。
そういえば〝王女がいつでも戻ってこられるように、閂を外しておいてやろう〟なんてことも言っていた気がする。
「思い出したか?全く呑気な奴だ。私がきちんと「戻ってきている」印を残してようやく、今夜のあらゆる出来事の証拠は完璧に消滅する。これにて完全犯罪は成立だ」
「…犯罪って……って、ちょっと!置いてかないでくださいよ!」
その言い回しに脱力しながらも、ククは早歩きで門へと向かう主人を、慌てて追いかけた。
いつもなら衛兵が見張っているはずの正門[漢字]櫓[/漢字][ふりがな]やぐら[/ふりがな]は、火の気ひとつ、人っ子一人の気配もなく、夜の暗がりに沈んでいた。
「あれ、見張りがいない…どうしてでしょう」
「おおかたジマが申し送りしておいてくれたんだろう。付近に隠れている輩もいないようだし、こそこそと来る必要は無かったな」
門の近くの植え込みに身を隠しながら、リカが苦笑する。そのまま葉擦れの音を立てながら、彼女は立ち上がった。
草鞋の足跡を、今度は反対方向に向けて付けていく。
大きな木組みの門はゆっくりと閉じ、王女はその華奢な腕で抱え込んだ閂を、がちゃりと嵌め込んだ。
秋の月半ば、戴冠式の前日ーーーーーーーーーーー
丑三つ時、草をそよがせる風に包まれた静寂の夜。
二人の小さな大冒険は、こうして幕を閉じたのであった。