「わっ、おとなしくて可愛いですね」
ククが屈んで頬を撫でると、うさぎは白くちいさな身体を擦り付けた。
「最初に西門で解錠して脱走させた、囮のうちの1匹が迷子になったのかもしれないな」
「ふわふわの手触りがとっても良いですね。毛並みもつやつやで…あ、でも右耳を怪我してるみたいです。傷というより、焦げてる…?」
子うさぎの耳は、火傷でもしたかのように爛れていた。まだ生まれて間もないほどに小さく見えるが、不思議なことにその傷は古傷のようだ。
リカもククの隣に屈んで、優しくその耳を撫でた。うさぎは傷に触れられても痛がったりはせず、むしろ彼女が触れてからより落ち着いているようだった。
「可哀想に、いつこんな怪我を…獣医局とクメの診断の見落としかもしれない。私が王になったらするべき仕事は、山積みだな」
姫は苦笑して、うさぎを抱きかかえた。
「さ、ここまで来れば自力で帰れるだろう」
リカが腕の中からそのうさぎを放すと、その小さな身体は飛ぶように林を抜け、夜に浮かぶ白い点はやがて見えなくなった。
「きちんとうさぎ小屋の方角に行きましたね」
「そうだな。……そういえば」
跳ねていく小さな点の残滓を眺めながら、リカは思い出したかのように言った。
ククが首を傾げ、どうしました?と尋ねる。
「鍵の管理小屋でお前がジマと話しているのを天井の梁の上から眺めていたとき、あのうさぎが私の近くに居たんだ。なぜこんな所にうさぎがいるのだろうと驚いて…あとで小屋に戻してやろうと思っていたのに、結局2人の会話に気をとられているうちにどこかへ行ってしまったんだ。
あの時はなんだかやけに妙な感じがして、暗闇の中に赤い目が光って…そうだ、思い出した」
リカは顎に手を添えながら、その場で落ち着きなく歩き回り続けた。
「あの子うさぎは、ずっと私たちを見ていた。屋根の上を走っていた時も、お前が門の傍で足跡の偽装工作をしている時も、私が梁の上に忍び込んでいた時も」
2人が最初に鍵の管理小屋に入ろうとした時、既に小屋から何らかの音がしていたことをククは思い出す。あの時は、風か鼠の音だろうかとは思ったが、その後も2人の周りには常にがさごそという音がしていた。
今思えば、明らかにおかしいことだった。
なぜ気がつけなかったのだろう。まるで誰かが2人を尾行しているような、そんな気配が確かにしていたのに。
「片耳の焦げた、赤い目のうさぎ…」
あれは一体なんだったのだろうと、2人は呆然と顔を見合わせた。
謎のうさぎが飛ぶように去っていった辺りには、もう何もない暗がりしか残ってはいなかった。
ククが屈んで頬を撫でると、うさぎは白くちいさな身体を擦り付けた。
「最初に西門で解錠して脱走させた、囮のうちの1匹が迷子になったのかもしれないな」
「ふわふわの手触りがとっても良いですね。毛並みもつやつやで…あ、でも右耳を怪我してるみたいです。傷というより、焦げてる…?」
子うさぎの耳は、火傷でもしたかのように爛れていた。まだ生まれて間もないほどに小さく見えるが、不思議なことにその傷は古傷のようだ。
リカもククの隣に屈んで、優しくその耳を撫でた。うさぎは傷に触れられても痛がったりはせず、むしろ彼女が触れてからより落ち着いているようだった。
「可哀想に、いつこんな怪我を…獣医局とクメの診断の見落としかもしれない。私が王になったらするべき仕事は、山積みだな」
姫は苦笑して、うさぎを抱きかかえた。
「さ、ここまで来れば自力で帰れるだろう」
リカが腕の中からそのうさぎを放すと、その小さな身体は飛ぶように林を抜け、夜に浮かぶ白い点はやがて見えなくなった。
「きちんとうさぎ小屋の方角に行きましたね」
「そうだな。……そういえば」
跳ねていく小さな点の残滓を眺めながら、リカは思い出したかのように言った。
ククが首を傾げ、どうしました?と尋ねる。
「鍵の管理小屋でお前がジマと話しているのを天井の梁の上から眺めていたとき、あのうさぎが私の近くに居たんだ。なぜこんな所にうさぎがいるのだろうと驚いて…あとで小屋に戻してやろうと思っていたのに、結局2人の会話に気をとられているうちにどこかへ行ってしまったんだ。
あの時はなんだかやけに妙な感じがして、暗闇の中に赤い目が光って…そうだ、思い出した」
リカは顎に手を添えながら、その場で落ち着きなく歩き回り続けた。
「あの子うさぎは、ずっと私たちを見ていた。屋根の上を走っていた時も、お前が門の傍で足跡の偽装工作をしている時も、私が梁の上に忍び込んでいた時も」
2人が最初に鍵の管理小屋に入ろうとした時、既に小屋から何らかの音がしていたことをククは思い出す。あの時は、風か鼠の音だろうかとは思ったが、その後も2人の周りには常にがさごそという音がしていた。
今思えば、明らかにおかしいことだった。
なぜ気がつけなかったのだろう。まるで誰かが2人を尾行しているような、そんな気配が確かにしていたのに。
「片耳の焦げた、赤い目のうさぎ…」
あれは一体なんだったのだろうと、2人は呆然と顔を見合わせた。
謎のうさぎが飛ぶように去っていった辺りには、もう何もない暗がりしか残ってはいなかった。