王女は、項垂れたククの黒髪の頭に、華奢な手をそっと載せた。
「…私は先ほど、管理小屋でのお前の話を聞いていた。ジマを騙すための口八丁も、余すことなく」
ゆっくりと告げられたその言葉に、嗚咽を漏らすククの肩がピクリと揺れる。リカはそれをまるで意に介さないように、言葉を続けた。
「私が、この国のトップに立つのが不安だって?この私が、しおらしく健気に不安に耐えているとでも?
たとえ嘘だったとしても、冗談じゃない」
「……申し訳ありません。いくらジマさんを納得させる為とはいえ、この作り話は無礼でし…」
「不安に、決まってるじゃないか」
ほの暗い夜の風が、冷徹に建付けられた頑丈な倉庫の外で、泣き叫んでいた。
「お前は、私のことをいささか勘違いしているようだな。幼少の頃よりいつも傍にいたはずのお前までそうとは、情けない。
……私は、周りが思っているほど強い人間ではない。いつだって幼い自分を堅牢な心の檻の中に閉じ込めて、それでも涙が止まらないことだってある」
彼女をずっとずっと傍で見てきたククは、いつでも一本の芯がすっと通るようなその姿勢と、凛とした、ときにイタズラめいた笑い顔しか見たことがない。
泣いていた彼女の姿なんて、一切見たことがなかった。
「ずっと、誰に対しても隠し通してきたよ。不安をなんとか無くそうと、足掻いて足掻いて、文字通り傷だらけになるまで道を模索し続けてきた」
ククの頭に置いた手は、いつの間にか優しく動いていた。
リカは従者を撫でながら、まるで自分に言い聞かせるかのように、ゆっくりと、ゆっくりと、言葉を紡いでいた。
「王宮を抜け出して、都で様々な人と会う度…この人たちは今幸せだろうか、私が王になったとき、この人たちを幸せに暮らさせてあげるにはどうしたらいいのだろうか……たくさんの分からない事を見つけるために、自分の足で、走り回った。時折危ない目にだって遭った。だけど、私を襲ったその輩だって、私が「愛する民」いや、「愛さなければならない民」のひとり。
着物や荷物ををまさぐる彼らを蹴り飛ばしたあと、息を切らして懸命に逃げながら、……心底ぞっとしたよ」
暗雲が流れ、刹那、さあっと月の光が射した。
天井に近い空気孔から零れた光がほんの一瞬、2人を照らす。
顔を上げたククはその瞬間、彼女の目元に浮かんでは落ちていく、月光を封じ込めた真珠玉のような涙の粒を見た。
その気丈な微笑みは、明澄な声は、
王女という殻に縛られて抑えつけられたほんの小さくてか弱い少女が、震えながらいつだって懸命に、絞り出しているものだったのだ。
「…私は先ほど、管理小屋でのお前の話を聞いていた。ジマを騙すための口八丁も、余すことなく」
ゆっくりと告げられたその言葉に、嗚咽を漏らすククの肩がピクリと揺れる。リカはそれをまるで意に介さないように、言葉を続けた。
「私が、この国のトップに立つのが不安だって?この私が、しおらしく健気に不安に耐えているとでも?
たとえ嘘だったとしても、冗談じゃない」
「……申し訳ありません。いくらジマさんを納得させる為とはいえ、この作り話は無礼でし…」
「不安に、決まってるじゃないか」
ほの暗い夜の風が、冷徹に建付けられた頑丈な倉庫の外で、泣き叫んでいた。
「お前は、私のことをいささか勘違いしているようだな。幼少の頃よりいつも傍にいたはずのお前までそうとは、情けない。
……私は、周りが思っているほど強い人間ではない。いつだって幼い自分を堅牢な心の檻の中に閉じ込めて、それでも涙が止まらないことだってある」
彼女をずっとずっと傍で見てきたククは、いつでも一本の芯がすっと通るようなその姿勢と、凛とした、ときにイタズラめいた笑い顔しか見たことがない。
泣いていた彼女の姿なんて、一切見たことがなかった。
「ずっと、誰に対しても隠し通してきたよ。不安をなんとか無くそうと、足掻いて足掻いて、文字通り傷だらけになるまで道を模索し続けてきた」
ククの頭に置いた手は、いつの間にか優しく動いていた。
リカは従者を撫でながら、まるで自分に言い聞かせるかのように、ゆっくりと、ゆっくりと、言葉を紡いでいた。
「王宮を抜け出して、都で様々な人と会う度…この人たちは今幸せだろうか、私が王になったとき、この人たちを幸せに暮らさせてあげるにはどうしたらいいのだろうか……たくさんの分からない事を見つけるために、自分の足で、走り回った。時折危ない目にだって遭った。だけど、私を襲ったその輩だって、私が「愛する民」いや、「愛さなければならない民」のひとり。
着物や荷物ををまさぐる彼らを蹴り飛ばしたあと、息を切らして懸命に逃げながら、……心底ぞっとしたよ」
暗雲が流れ、刹那、さあっと月の光が射した。
天井に近い空気孔から零れた光がほんの一瞬、2人を照らす。
顔を上げたククはその瞬間、彼女の目元に浮かんでは落ちていく、月光を封じ込めた真珠玉のような涙の粒を見た。
その気丈な微笑みは、明澄な声は、
王女という殻に縛られて抑えつけられたほんの小さくてか弱い少女が、震えながらいつだって懸命に、絞り出しているものだったのだ。