「ここです」
黒い片袖衣の指す先に、それはあった。
無惨にも砕け散った鋼やガラスの覆い、そして倒れた太い蝋。
ランタンで照らされた、台車に乗ったろうそくの残骸。
千年、悠久の時を燃え続けた豊穣の祈り火は、消え去っていた。
「派手にやらかしたな。…まあいい、さっさと火を点けるぞ」
マッチを擦る音と同時に、リカの手元が仄かに明るくなった。
その小さな付け木を芯に近づけ、火を灯す。
と、そのとき。
「………!」
二人は、息を呑んだ。
ぱち、ぱちぱち。
ろうそくの炎は、これが先ほどの、指先を照らせるほどの小さな火と同じものであることが信じられないほど、
[漢字]眩[/漢字][ふりがな]まばゆ[/ふりがな]く、暖かくて。
お転婆な王女と臆病な従者の灯した即席の炎は、これまでと一片の遜色もない明るさと頼もしさで、ちいさな二人を照らしていた。
金色の炎が、小さく爆ぜながら、ゆらゆらと揺らめいていた。
「リカ様」
倉庫の奥から代わりの覆いを運んできたククは、砕けたガラスを注意深く袋に摘み入れているリカに、声をかけた。
「何だ?」
「あの…ありがとうございました。私の取り返しのつかない不注意のせいで、こんな結果になってしまって…私、本当は怖くて怖くてたまらないんです」
リカはしばし手を止めて、まじまじとククを見つめる。
「礼には及ばない。それに、なぜ怖いんだ?この通り、私とお前はするべきことをやり遂げた。このろうそくには今こんなにも明るい炎が灯っているし、私たちのやったことは誰にもバレていない。
…もうお前は、〝なんのミスもしていない〟。叱られることも、処刑されることももうない。それなのに、なぜ?」
「そうじゃっ…なくて!!」
ククは、必死に涙を堪えながら言葉を絞り出していた。
「私が消し…消してしまったのは、千年前に豊穣の女神様が灯された〝祈りの火〟です!歴代の陛下方がこの国の発展と安寧を守れてきたのは、この炎のご加護があってこそ!
…それなのに…私はよりにもよって…敬愛する貴女の即位前夜に…」
リカは、押し黙っていた。
「私がこの火を消してしまったせいで、どんな厄災が起こるか知れないではないですか!
…私のせいで、リカ様の大切な、大切なこの国が」
「黙れ」
凛々しく低い声が、薄闇の中から響いた。
黒い片袖衣の指す先に、それはあった。
無惨にも砕け散った鋼やガラスの覆い、そして倒れた太い蝋。
ランタンで照らされた、台車に乗ったろうそくの残骸。
千年、悠久の時を燃え続けた豊穣の祈り火は、消え去っていた。
「派手にやらかしたな。…まあいい、さっさと火を点けるぞ」
マッチを擦る音と同時に、リカの手元が仄かに明るくなった。
その小さな付け木を芯に近づけ、火を灯す。
と、そのとき。
「………!」
二人は、息を呑んだ。
ぱち、ぱちぱち。
ろうそくの炎は、これが先ほどの、指先を照らせるほどの小さな火と同じものであることが信じられないほど、
[漢字]眩[/漢字][ふりがな]まばゆ[/ふりがな]く、暖かくて。
お転婆な王女と臆病な従者の灯した即席の炎は、これまでと一片の遜色もない明るさと頼もしさで、ちいさな二人を照らしていた。
金色の炎が、小さく爆ぜながら、ゆらゆらと揺らめいていた。
「リカ様」
倉庫の奥から代わりの覆いを運んできたククは、砕けたガラスを注意深く袋に摘み入れているリカに、声をかけた。
「何だ?」
「あの…ありがとうございました。私の取り返しのつかない不注意のせいで、こんな結果になってしまって…私、本当は怖くて怖くてたまらないんです」
リカはしばし手を止めて、まじまじとククを見つめる。
「礼には及ばない。それに、なぜ怖いんだ?この通り、私とお前はするべきことをやり遂げた。このろうそくには今こんなにも明るい炎が灯っているし、私たちのやったことは誰にもバレていない。
…もうお前は、〝なんのミスもしていない〟。叱られることも、処刑されることももうない。それなのに、なぜ?」
「そうじゃっ…なくて!!」
ククは、必死に涙を堪えながら言葉を絞り出していた。
「私が消し…消してしまったのは、千年前に豊穣の女神様が灯された〝祈りの火〟です!歴代の陛下方がこの国の発展と安寧を守れてきたのは、この炎のご加護があってこそ!
…それなのに…私はよりにもよって…敬愛する貴女の即位前夜に…」
リカは、押し黙っていた。
「私がこの火を消してしまったせいで、どんな厄災が起こるか知れないではないですか!
…私のせいで、リカ様の大切な、大切なこの国が」
「黙れ」
凛々しく低い声が、薄闇の中から響いた。