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夜空の醉いどれ夢ものがたり

#9

せめてもの供花

「…誕生日パーティー…のお誘い?」

数日前に届いたその便り。八重は、それを読んで2分後にはもう、「行かない」という決断を下していた。



私には、誰かに祝福を贈る権利なんてないから。

数年前、まだ学生だったころの八重が犯した罪。
彼女の心には、そのどす黒い罪が、濁ってベトベトの油みたいにへばりついて離れないのだった。




「今日は、ヒヤシンスをお供えに来たよ」
お墓参りに来るのは、毎週土曜日の午前。仕事の休みを縫って、必ず供花を持ってくると決めている。
…腹が立つよね。生きていたころは散々嫌がらせをしてきたやつが、死んでから慌てて擦り寄ってくるなんてさ。


何回お墓参りに来ようと、何本の花を供えようと、許されるなんて思ってはいない。あの頃の馬鹿すぎた私が奪ってしまった、もう二度と戻っては来ない彼女は、私を永遠に許してはいけない。

だから、自分の力を振り絞って、血を吐くような思いで贈ったお祝いの言葉だって、誰かを幸せにすることすら許されないのだ。






あの日、彼女が入水自殺をしたのは、八重のいじめのせいだった。
ある日、放課後の学校に忘れ物を取りに行ったとき、教室に彼女が立っていた。机の上で、花瓶に入れた花を眺めていた。
窓から差す夕日に照らされてくっきりと浮かび上がった横顔があまりにも美しすぎて、八重は彼女を憎んだ。

八重の脳裏にある彼女の姿は、ずっとその一瞬だけ。時々、自分の脳内で神格化されすぎているんじゃないかとも思ってしまうほどに、美しい一瞬だった。




風が吹いた。
その墓地には八重のほかにもちらほらと喪服の人がいて、それぞれの墓に手を合わせていた。
あの人たちは皆、この中に眠っている人のことを大事に思っていたのだろう。そして、眠っている人たちからも大事に思われていた、のだろう。

彼女の中での私の唯一の記憶はきっと、罵詈雑言を浴びせ、汚水や虫や汚泥を被せ、嘲笑する醜い姿。




少しめまいがして、八重はその場を去った。








一人暮らしの簡素なマンションにあるのは、ベッドにデスク、クローゼット、壁に掛けられたシワの寄ったスーツ。
八重はデスクに座り、レターセットを出した。

“拝啓”


書き終えると、パソコンでネットショッピングのサイトを開く。そこで生花を注文し、宅配サービスの「送り先」の欄にパーティー会場の住所を入力した。






「ごめんね、純恋」
彼女の呟きは、一人きりの部屋に儚く消えていった。

作者メッセージ

「ハマユウの花を1つ、海へ」の彼女。

2025/03/29 19:00

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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