そこは、「仕事をする」人間たちのプロ根性が浮かび上がる場所。
彼女…アンサスの、憧れの場所だった。
「わあ、素敵です…素敵です!えじぇるさんは、こんな素敵なところでお仕事を?」
「ま…まあね」
整った顔をやや引き攣らせ、あんじゅは答えた。
まずい。やっちゃったかな〜…
アンサスちゃん、いつもはお淑やかなのに今日に限ってテンションが爆上がりしてるよ。連れてきたのは失敗だったかな。
…配信に影響、ないといいんだけど。
あんじゅの脳内など露ほども知らず、人間界用に羽と光輪を隠したアンサスは、物怖じもせずあちこちをうろついていた。
ここは、都内某所、駅から徒歩約20分のところにあるレンタルスタジオ。
この場所は普通、名だたる配信者たちが自分の配信部屋ではできない企画…たとえば3D化など、そういったものを行うためのスペースだ。
ところが、アンサスの目の前に広がるのは、とんでもなく広くて清潔なアイランドキッチン。
「ここは“お料理配信”用だからね〜。えじぇるの家のキッチンは、まあお世辞にもケーキ作るのに向いてるとは思えないから…えじぇるも最近知名度上がって天界でも認知され始めてるし、今回この大事なパーティーあるってことで、とうとう場所をレンタルする経費がおりました〜!」
パチパチ、とにこやかに拍手するあんじゅに、アンサスはなおも興奮した様子で話しかける。
「私、ずっと人間界ってひどいものだと思っていたんですよ。ゴミや汚れまみれで、人々は皆愚かで凶悪で……そんなことはないじゃないですか!アガペさんの嘘つき!お手紙に、私が人間界に見学に行く…って書いたら“もう生きて帰っては来られないかもしれないから、これを最後の手紙だと思って書く”なんて長文のお手紙送ってきたんですよ?ビビるじゃないですか!!」
憤るアンサスに、カメラやマイクの点検をしていたあんじゅが苦笑いして応える。
「まあまあ。地獄に来るのはそういうやつらばっかだし、悪魔的には人間って、そういう認識でしかないんだろうよ。ひどいよぉ、助けてくれ出してくれ〜って懇願するから拷問部屋から出してやったら、途端に腹立ち紛れに看守の悪魔か他の罪人に殴りかかるんだから。あんなやつら相手にしてるアガペの気持ちも考えてやんな」
「そうなんですね…え?なんであんじゅさんは地獄にそんなにお詳しいんですか?」
ギクリ。
そんな効果音が聞こえたかのようにあんじゅの背中が跳ね上がり、危うく隠している羽が見えるところだった。
「……」
あんじゅは、冷や汗をかきながら、何も答えなかった。
「[漢字]杏[/漢字][ふりがな]あんのき[/ふりがな]さーん。ケーキスポンジ届きました〜」
「杏さん、どうしましょう…苺が全然届きません!!」
「あっ、杏ちゃん。白守さんからお抹茶届きましたよ」
「はい、ありがとうございます!」
「分かりました。発注のミスかもしれないので、運送会社と送り主の両方に問い合わせましょう」
「おっけーです!キッチンのカメラ画角外に置いといてください!…あ、もうちょっと左です」
ほんの数時間で人間のスタッフ全員に信頼されている頼もしいあんじゅを、アンサスはただただ放心状態で眺めていた。
大勢のプロの熱意が集まって、どんどんスタジオが出来上がってゆく。
アンサスは感動で、ちょっと泣きそうになった。
人間界用に「[漢字]杏[/漢字][ふりがな]あんのき[/ふりがな] [漢字]樹[/漢字][ふりがな]いつき[/ふりがな]」と名乗るあんじゅと、「[漢字]天使[/漢字][ふりがな]あまつか[/ふりがな] [漢字]花[/漢字][ふりがな]はな[/ふりがな]」と名乗るアンサス。
ふたりはスタジオの準備を終え、来たるべき本番を待っていた。
彼女…アンサスの、憧れの場所だった。
「わあ、素敵です…素敵です!えじぇるさんは、こんな素敵なところでお仕事を?」
「ま…まあね」
整った顔をやや引き攣らせ、あんじゅは答えた。
まずい。やっちゃったかな〜…
アンサスちゃん、いつもはお淑やかなのに今日に限ってテンションが爆上がりしてるよ。連れてきたのは失敗だったかな。
…配信に影響、ないといいんだけど。
あんじゅの脳内など露ほども知らず、人間界用に羽と光輪を隠したアンサスは、物怖じもせずあちこちをうろついていた。
ここは、都内某所、駅から徒歩約20分のところにあるレンタルスタジオ。
この場所は普通、名だたる配信者たちが自分の配信部屋ではできない企画…たとえば3D化など、そういったものを行うためのスペースだ。
ところが、アンサスの目の前に広がるのは、とんでもなく広くて清潔なアイランドキッチン。
「ここは“お料理配信”用だからね〜。えじぇるの家のキッチンは、まあお世辞にもケーキ作るのに向いてるとは思えないから…えじぇるも最近知名度上がって天界でも認知され始めてるし、今回この大事なパーティーあるってことで、とうとう場所をレンタルする経費がおりました〜!」
パチパチ、とにこやかに拍手するあんじゅに、アンサスはなおも興奮した様子で話しかける。
「私、ずっと人間界ってひどいものだと思っていたんですよ。ゴミや汚れまみれで、人々は皆愚かで凶悪で……そんなことはないじゃないですか!アガペさんの嘘つき!お手紙に、私が人間界に見学に行く…って書いたら“もう生きて帰っては来られないかもしれないから、これを最後の手紙だと思って書く”なんて長文のお手紙送ってきたんですよ?ビビるじゃないですか!!」
憤るアンサスに、カメラやマイクの点検をしていたあんじゅが苦笑いして応える。
「まあまあ。地獄に来るのはそういうやつらばっかだし、悪魔的には人間って、そういう認識でしかないんだろうよ。ひどいよぉ、助けてくれ出してくれ〜って懇願するから拷問部屋から出してやったら、途端に腹立ち紛れに看守の悪魔か他の罪人に殴りかかるんだから。あんなやつら相手にしてるアガペの気持ちも考えてやんな」
「そうなんですね…え?なんであんじゅさんは地獄にそんなにお詳しいんですか?」
ギクリ。
そんな効果音が聞こえたかのようにあんじゅの背中が跳ね上がり、危うく隠している羽が見えるところだった。
「……」
あんじゅは、冷や汗をかきながら、何も答えなかった。
「[漢字]杏[/漢字][ふりがな]あんのき[/ふりがな]さーん。ケーキスポンジ届きました〜」
「杏さん、どうしましょう…苺が全然届きません!!」
「あっ、杏ちゃん。白守さんからお抹茶届きましたよ」
「はい、ありがとうございます!」
「分かりました。発注のミスかもしれないので、運送会社と送り主の両方に問い合わせましょう」
「おっけーです!キッチンのカメラ画角外に置いといてください!…あ、もうちょっと左です」
ほんの数時間で人間のスタッフ全員に信頼されている頼もしいあんじゅを、アンサスはただただ放心状態で眺めていた。
大勢のプロの熱意が集まって、どんどんスタジオが出来上がってゆく。
アンサスは感動で、ちょっと泣きそうになった。
人間界用に「[漢字]杏[/漢字][ふりがな]あんのき[/ふりがな] [漢字]樹[/漢字][ふりがな]いつき[/ふりがな]」と名乗るあんじゅと、「[漢字]天使[/漢字][ふりがな]あまつか[/ふりがな] [漢字]花[/漢字][ふりがな]はな[/ふりがな]」と名乗るアンサス。
ふたりはスタジオの準備を終え、来たるべき本番を待っていた。
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