「彼女」の首もとにやった手に、「彼女」はそのちいさな頬をすり寄せた。
…その、もふもふの縞の頬を。
「んきゃあわいいいい~~~!」
「寝灯ー。さぼるなー」
「彼女」……トラ縞の子猫、モコを抱きしめていると、店内のキッチンから呆れたような声が聞こえた。
「もー、目ぇ離すとすーぐ猫吸ってるんだから」
腰に手を当てて、首をやや傾げながらジト目でそう言われてしまった。
飾り気のないミントグリーンのエプロンに身を包む彼女の名前は柊。たぶん、今カノ。
今夜パーティーがあるとかで、私と柊も開催側としてその準備の一角を担っている。
ちなみに今日この猫カフェは定休日だが、優しい店長さんに事情を話したところ、今日1日キッチンを貸し出してくれることになった。
…お店の猫たちのお世話をする、という条件つきで。
「だぁーってねえ?猫だいしゅきな私に5分以上猫キメるななんて無理な話でちゅもんね?ねーモコちゃん?」
「ミィィ…」
「ほら!モコちゃんのお墨付きだよ!」
私がモコの前足の下の脇腹を抱え、その液体のようなちいさな身体をうにーっと伸ばしながら大真面目な顔でそう言うと、柊は小さくため息をついた。
そのまままた愚痴ぐち言われることを覚悟していたのだが、なぜか彼女は何も言わず、私をキッチンに引っ張った。
「はいはい、茶番はいいから作業作業!」
「うちの売りはね、コーヒーを豆から焙煎してることとか、猫カフェながら本格的な飲食を楽しめるっていうところでもあるわけ。注ぐお湯の量は豆の16倍、ミルクは2分常温に戻す!」
さすが店員といったところか、柊の手際は見事なものだった。同じ年の学生とは思えない、もう一介の大人だ。
私もその指示通り見よう見まねで作業を進め、時々キッチンに侵入して来るかわいいおじゃま虫たちの相手をしながら、特製カフェオレドリンクのベースを完成させた。
「ふう、やっと完成…」
「まだちょっと早くない?もう会場に持ってくの?」
「私たちの役割はね、ドリンクだけじゃないの。この猫たちを連れてって、パーティー会場を猫まみれにするんだよ!」
「………な…なにそれ」
「ものすごく楽しそうなんだけど!?」
でっしょー、と得意げな顔で柊が笑う。
「あ、でもアレルギーとかは大丈夫そ?」
「そこんところはね、ちゃんとしてる。参加者全員動物アレルギーはないみたい。飲食の場に猫を放しちゃうのはちょっと不安もあるけど、そこも[漢字]私[/漢字][ふりがな]プロ[/ふりがな]監修のもと、衛生管理は完璧」
「すごっ!…まあ、パーティーの主役に喜んでもらうのが1番だもんねー」
全てのドリンクボトルをケースに入れ終わり、モコをキメていると、柊がゆったりと近寄ってきた。
「ねえ…寝灯ってそんなに猫好きだったんだっけ?」
「いや、ここ通い始めてからかな、本格的に好きになったのは。今ではもう本当にね、んー!モコちゃんかわいいねー!だいしゅき…!」
会話の途中で、モコが顔をすり寄せてきた。
私がその塊に思いっきり顔を近づけて、その香りを胸いっぱいに吸おうとした時。
ずいっと、柊が顔を近づけた。
「…私は?」
「えっ…え?」
「私には、言ってくれたことない」
モコが、不思議そうに小さく鳴いた。
私もそれを見て、何だかおかしくなってしまった。
「ははっ、あはは!」
「えっ、どうしたの突然…」
「いやいや、嫉妬かい柊ちゃん?確かに、言わずとも分かるでしょ的なコミュは良くないね。
…いくらでも言ってあげるよ。私は、あなたのことが」
透明なコーヒーの焦げ茶の水面に、一滴のシロップが落ちた。
…その、もふもふの縞の頬を。
「んきゃあわいいいい~~~!」
「寝灯ー。さぼるなー」
「彼女」……トラ縞の子猫、モコを抱きしめていると、店内のキッチンから呆れたような声が聞こえた。
「もー、目ぇ離すとすーぐ猫吸ってるんだから」
腰に手を当てて、首をやや傾げながらジト目でそう言われてしまった。
飾り気のないミントグリーンのエプロンに身を包む彼女の名前は柊。たぶん、今カノ。
今夜パーティーがあるとかで、私と柊も開催側としてその準備の一角を担っている。
ちなみに今日この猫カフェは定休日だが、優しい店長さんに事情を話したところ、今日1日キッチンを貸し出してくれることになった。
…お店の猫たちのお世話をする、という条件つきで。
「だぁーってねえ?猫だいしゅきな私に5分以上猫キメるななんて無理な話でちゅもんね?ねーモコちゃん?」
「ミィィ…」
「ほら!モコちゃんのお墨付きだよ!」
私がモコの前足の下の脇腹を抱え、その液体のようなちいさな身体をうにーっと伸ばしながら大真面目な顔でそう言うと、柊は小さくため息をついた。
そのまままた愚痴ぐち言われることを覚悟していたのだが、なぜか彼女は何も言わず、私をキッチンに引っ張った。
「はいはい、茶番はいいから作業作業!」
「うちの売りはね、コーヒーを豆から焙煎してることとか、猫カフェながら本格的な飲食を楽しめるっていうところでもあるわけ。注ぐお湯の量は豆の16倍、ミルクは2分常温に戻す!」
さすが店員といったところか、柊の手際は見事なものだった。同じ年の学生とは思えない、もう一介の大人だ。
私もその指示通り見よう見まねで作業を進め、時々キッチンに侵入して来るかわいいおじゃま虫たちの相手をしながら、特製カフェオレドリンクのベースを完成させた。
「ふう、やっと完成…」
「まだちょっと早くない?もう会場に持ってくの?」
「私たちの役割はね、ドリンクだけじゃないの。この猫たちを連れてって、パーティー会場を猫まみれにするんだよ!」
「………な…なにそれ」
「ものすごく楽しそうなんだけど!?」
でっしょー、と得意げな顔で柊が笑う。
「あ、でもアレルギーとかは大丈夫そ?」
「そこんところはね、ちゃんとしてる。参加者全員動物アレルギーはないみたい。飲食の場に猫を放しちゃうのはちょっと不安もあるけど、そこも[漢字]私[/漢字][ふりがな]プロ[/ふりがな]監修のもと、衛生管理は完璧」
「すごっ!…まあ、パーティーの主役に喜んでもらうのが1番だもんねー」
全てのドリンクボトルをケースに入れ終わり、モコをキメていると、柊がゆったりと近寄ってきた。
「ねえ…寝灯ってそんなに猫好きだったんだっけ?」
「いや、ここ通い始めてからかな、本格的に好きになったのは。今ではもう本当にね、んー!モコちゃんかわいいねー!だいしゅき…!」
会話の途中で、モコが顔をすり寄せてきた。
私がその塊に思いっきり顔を近づけて、その香りを胸いっぱいに吸おうとした時。
ずいっと、柊が顔を近づけた。
「…私は?」
「えっ…え?」
「私には、言ってくれたことない」
モコが、不思議そうに小さく鳴いた。
私もそれを見て、何だかおかしくなってしまった。
「ははっ、あはは!」
「えっ、どうしたの突然…」
「いやいや、嫉妬かい柊ちゃん?確かに、言わずとも分かるでしょ的なコミュは良くないね。
…いくらでも言ってあげるよ。私は、あなたのことが」
透明なコーヒーの焦げ茶の水面に、一滴のシロップが落ちた。
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