金色の刺繍が縫いとられた赤い[漢字]絨毯[/漢字][ふりがな]じゅうたん[/ふりがな]の敷かれた廊下を、駆け抜ける。
夜の屋敷は普段なら、壁掛けの[漢字]燭台[/漢字][ふりがな]しょくだい[/ふりがな]が静かに、通路に並べられた幾多もの調度品に暗い灯りを落としているだけ、なのだが。
通常なら夜のホテルのように静寂に包まれているはずの屋敷は、今や騒然としていた。
「リカ様がまた逃げ出したらしいぞ」
「あのおてんば王女様が…まあほっておけば、今までと同じでいずれ帰ってくるんじゃ」
「それが今夜だけはねえ、そんな悠長に待ってるわけにはいかないのよ。なんといっても明日は即位式だからね…」
「はあ、あの王女も流石に大人になってくれたと思っていたが…一体いつまで、我々の手を手こずらせてくれるのか」
その長い廊下を駆け抜けていくとき、すれ違った使用人たちのこんな話し声が聞こえてきた。
かなりの人数が、忙しなくあちらこちらへと行き来している。時折、あちらは捜索済みだがいらっしゃらなかった、こっちにそれらしき人影があったらしい…という情報交換が行われているのも耳に入った。
廊下を抜け、突き当りの階段を登って庭に出て、夜露を[漢字]纏[/漢字][ふりがな]まと[/ふりがな]った花々や、月光を受けてきらめく噴水の間を走り抜ける。石の柱の間にある小さな赤い扉を開け、洞窟の中のように薄暗い小部屋に入る。ランタンの小さな灯りを頼りに扉の取っ手を探り当てて開き、さらにその先の螺旋階段を登ったところに…
…隠し部屋のような、リカの寝室がそこにはあった。
「あれ、クク?お前、こんな夜中にどうした。…ああ、側近待遇で外出許可を貰ったのか」
「あっ、そうですそうですセノさん!あの、実はリカ様が正門から都の方へ走り去っていくのを見かけて…!」
ククはリカの部屋の前に仁王立ちしている、若い用心棒に声をかけた。
彼の名前はセノ。褐色に日焼けした肌が健康的な印象を与える、爽やかで逞しい青年である。
「何だって!?…あのじゃじゃ馬姫、またお忍びで脱走し…いや」
セノの顔が、一層険しいものとなる。
「このタイミングでの家出…もしや、国王としての即位を放棄する気か…!」
…違います…、私のミスを隠蔽するために付き合ってくれてるだけです…。
目の前で焦るセノにそう言いたい気持ちをぐっと堪えて、ククはまっすぐな瞳で言った。
「きっとそのつもりですよ!リカ様無責任なところありますから!セノさん、皆さんに都の捜索を指示してください!」
…リカ様、ごめん。
ククは、昔リカが楽しみにとっておいたメープルシュガーのお菓子を勘違いして食べてしまった時と同じ、申し訳無さを感じていた。
夜の屋敷は普段なら、壁掛けの[漢字]燭台[/漢字][ふりがな]しょくだい[/ふりがな]が静かに、通路に並べられた幾多もの調度品に暗い灯りを落としているだけ、なのだが。
通常なら夜のホテルのように静寂に包まれているはずの屋敷は、今や騒然としていた。
「リカ様がまた逃げ出したらしいぞ」
「あのおてんば王女様が…まあほっておけば、今までと同じでいずれ帰ってくるんじゃ」
「それが今夜だけはねえ、そんな悠長に待ってるわけにはいかないのよ。なんといっても明日は即位式だからね…」
「はあ、あの王女も流石に大人になってくれたと思っていたが…一体いつまで、我々の手を手こずらせてくれるのか」
その長い廊下を駆け抜けていくとき、すれ違った使用人たちのこんな話し声が聞こえてきた。
かなりの人数が、忙しなくあちらこちらへと行き来している。時折、あちらは捜索済みだがいらっしゃらなかった、こっちにそれらしき人影があったらしい…という情報交換が行われているのも耳に入った。
廊下を抜け、突き当りの階段を登って庭に出て、夜露を[漢字]纏[/漢字][ふりがな]まと[/ふりがな]った花々や、月光を受けてきらめく噴水の間を走り抜ける。石の柱の間にある小さな赤い扉を開け、洞窟の中のように薄暗い小部屋に入る。ランタンの小さな灯りを頼りに扉の取っ手を探り当てて開き、さらにその先の螺旋階段を登ったところに…
…隠し部屋のような、リカの寝室がそこにはあった。
「あれ、クク?お前、こんな夜中にどうした。…ああ、側近待遇で外出許可を貰ったのか」
「あっ、そうですそうですセノさん!あの、実はリカ様が正門から都の方へ走り去っていくのを見かけて…!」
ククはリカの部屋の前に仁王立ちしている、若い用心棒に声をかけた。
彼の名前はセノ。褐色に日焼けした肌が健康的な印象を与える、爽やかで逞しい青年である。
「何だって!?…あのじゃじゃ馬姫、またお忍びで脱走し…いや」
セノの顔が、一層険しいものとなる。
「このタイミングでの家出…もしや、国王としての即位を放棄する気か…!」
…違います…、私のミスを隠蔽するために付き合ってくれてるだけです…。
目の前で焦るセノにそう言いたい気持ちをぐっと堪えて、ククはまっすぐな瞳で言った。
「きっとそのつもりですよ!リカ様無責任なところありますから!セノさん、皆さんに都の捜索を指示してください!」
…リカ様、ごめん。
ククは、昔リカが楽しみにとっておいたメープルシュガーのお菓子を勘違いして食べてしまった時と同じ、申し訳無さを感じていた。