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【参加型〆】プチウィッチフォーチュンテーラー

#26

ハルモニア・前編 担当占い師:シーラ

高い梢は、星々をその影のように暗い枝に湛えていた。
夜の空に、[漢字]噎[/漢字][ふりがな]む[/ふりがな]せるほどに濃い灰色の煙の柱が、もうもうと立ち上っていく。



「…これなら」
どこか無理やりに笑う少女の瞳に映るのは、ちらちらと光る赤い光。


ボオオオオオオオオオオオ……
森の中の、目の前の広大な館は、轟々とした炎に包まれて燃えていた。





「…えっ?」

巨大な炎の中に、姿勢良く立っている一人の少女がいる。

中は相当熱いだろうに、彼女はその花紺青のとんがり帽子や衣服に火の粉が飛んでも、豊かな赤褐色の髪の端が焦げていても、気にすることなど何もない、とばかりの涼しげな顔で“その作業”をやめない。

「…は?バケモンなの?やっぱ魔女って、火とか効かない系?
 …ああ、それとももう、逃げるのを諦めちゃったかな」

少女は笑うが、その声は何かに怯えるような震える空笑いとなって、夜と炎の境目に溶けていく。


めらめらと燃え盛る炎に包まれた部屋の中で、彼女は…
…先ほど、「シーラ」と名乗っていた彼女は、手に持った鏡を大事そうに、ゆっくりとした手つきで磨いている。火が赫く照らすその横顔に、美しい微笑すら湛えながら。


少女が表情を歪めしばらくそれを睨んでいると、やがて彼女は満足気に頷いて、その鏡に片手を置いた。








炎と静寂の中で、彼女の唇が、はっきりとこう紡ぎ出した。


「遡及」






突如、世界がぐるぐると回り始めた。あちらとこちらが混じり合い、輪郭もはっきりしなくなってきた。
「…!!あ…アンタ、何を…!」
彼女に向けて必死で叫んだが、やがて意識もぼんやりと霞んでゆく。





最後に見たのは、炎に包まれてゆっくりとこちらを振り向く彼女の微笑。












あのこは、だれ。






担当占い師:シーラ
依頼人:奏、14豁ウ縺ョ蟆大・ウ縲
消し縺記諞カ:繧ィ繝ゥ繝シ






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ーデータが 消去 されました。ー















[太字][大文字]最終話 ハルモニア[/大文字][/太字]



小さい頃から、私の周りには不思議なことがよく起こった。

「あれカナち、昨日の日記なのに今日の日づけ書いてるよぉ」
「え?…今日、13日じゃなかったっけ」
「何言ってんの〜。今日12日で昨日が11日。しっかりしろぉ、今日理科の小テストだぞ〜」

親友のなーぽんが私の肩を叩く。思ったより強いそのボディタッチで走った鈍い痛みに僅かに顔をしかめると、彼女は軽やかな足取りで教室を出ていった。
おそらくまた何か忘れ物をして、次の授業のために借り物でもするつもりなのだろう。しっかりしなければならないのは、どう考えても彼女だと思う。

…昨日、理科の小テスト受けた気がするんだけどな。


配られた問題もなぜか見覚えのあるものばかりで、
…数日後に返ってきた答案は、97点だった。






「ちょっと奏!今日ピアノのレッスン、サボったでしょ!」
「はあ?レッスンなら昨日終わったでしょ」
「寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ、ほら!どこからどう見ても、レッスン日でしょ!」
飼い犬のコテラをじゃらしていると、母が目と鼻の先に、カレンダーを突きつけてきた。
あまりに近すぎるせいでしばらくピントが合わなかったが、そこには確かに、レッスンを示す赤丸がでかでかと描かれていた。

「ほ…ん…とうだ」
「だからそう言ってるじゃない!先生からお電話が来たのよ!お母さん謝っといたから!」
「…ごめん」


昨日、確かにレッスンには行ったはずなのに。
「紡ぎ歌」に「ドイツ舞曲」。先生が「ほら![漢字]コンフォーコ[/漢字][ふりがな]火のように[/ふりがな]![漢字]コンフォーコ[/漢字][ふりがな]火のように[/ふりがな]!」と連呼するのが面白すぎて、演奏中に笑いが漏れてしまい、がっつり怒られた。
そんな具体的な記憶まであるのに。レッスンは週一だから、2日連続なんてあるはずがないのに。

コテラが、つぶらな瞳を向けて、ワンと鳴いた。






小学校に入学した頃から、そんなことが続いていた。
3年生のころにはもう、この現象を、私だけの「力」だと認識するようになった。


「一日、過去にタイムリープする力」。


はじめの頃はこの力は、ランダムに発動するのかと思っていた。毎朝起きたらカレンダー付きのデジタル時計を見て、日づけを確認するのが日課になっていた。
ただしばらくするうちに、この力に「特定の発動条件」があることに気づく。

「失敗した」と感じたあとだ。
なにか些細なことでも、「失敗してしまった」「やらかした」と感じたその次の日、タイムリープが起こる。
そして繰り返されるその一日で、昨日の失敗をカバーすることができるのだ。

思えばあの日も、理科のテストの点数がボロボロで、「失敗した」。
あの日も、レッスンで怒られてしまって、「やらかした」。結局サボり扱いになってしまったけど。




これは、いわばセーブだ。
「失敗した」という感情をコントロールすることができれば、何度でも人生をやり直すことができる。
楽しかった日は何回でも繰り返すことができるし、夏休みだって好きなだけ延ばすことができる。いずれ来たるべき受験だって、一度答えを丸暗記して臨めば、全問正解だって夢じゃない。


「…勝った…」
拳を固めてひそかに、喜びを噛み締めた。信じられないことではあるけど、この不思議な力で私の人生は、素晴らしいものになるに違いない。
ひとりの部屋で、口角の上がるのを抑えることができなかった。勝った。勝った。最高!




その考えはあながち間違いでもなかったけど、
…完璧な、正解でもなかった。









ある日、私の家が燃えた。

「ソ、ソ♯、ラ、シ♭、レドシ♭ラソシド〜♪」
ピアノと同時進行で行っていたバイオリンのレッスン帰り、楽譜を指でトントンと叩きながら鼻歌を歌っていたら、家の方から焦げた煙と炭の匂いがした。

楽譜から頭をあげると、そこは火の海だった。



「え…?」
見慣れた家の輪郭が、骨組みだけが、異様にぎらぎらと光る赤い光の塊の中で黒く浮かび上がっていた。
何人かの消防隊員がホースから有り余るほどの勢いで水を出し、近所の人たちは野次馬目当てに群がっている。

私は放心状態からはっと我に帰り、……そのままUターンして、駆け出した。




あとから聞いた話ではあるが、このとき父は火災に気づかず、煙を吸って一酸化炭素中毒になり昏倒、のち死亡。
母は崩れ落ちた鉄骨の下敷きになり、逃げ遅れたらしい。


出火原因は、2階にある私の部屋の、つけっぱなしだったカーボンヒーター。






やばいやばいやばいやばいやばいやばい。
とにかく走った。
わけのわからないまま、緊急事態だということだけを理解して、家とは反対方向に全力で走った。
大丈夫。私はまだ大丈夫。セーブの力があるから、まだ間に合う。

近隣の公園に飛び込んで、人目もはばからずに木陰のベンチに横になった。
そのまま、ぎゅっと目をつぶる。

寝ろ、寝ろ、寝ろ、寝ろ。早く寝てリセットしろ。
戻れ。お願いだから寝ろ。…ああ鼓動がうるさい。黙れ。








目が覚めても、景色はほとんど変わらない。
だけど、さっきまでとは居た人が微妙に違うはずだし…きっと。お願いだから。
ベンチの上で眠っていた私を奇妙な目で見つめる人々の視線が痛い。袖に顔を隠すようにこそこそと公園を出て、家に向かって全力で駆け出した。

「よ…かったぁ………」
脱力して、へたり込む。
ついさっきまで燃えていた私の家は、何事もなくいつものように建っていた。


こんなことが、わりとあった。
生来不運なのかなんなのかは知らないけど、結構な頻度で、私の周りの人は命の危険に晒されていく。
絶対に人に言えないことではあるけど、私はかなりの命を救った、と思う。
その達成感と同時に、大きな代償の辛酸をも味わうことになったけど。




私は、人に嫌われるのが怖かった。だけど、知ってしまったのだ。人の多面性を。
私がなんども遡って行動を変えるたび、私に対する態度を180°変えてくる人がたくさんいる。
どんなに親切で、どんなにニコニコと近寄ってきても、前の周回で私をいじめてきたあいつらと仲良くできるわけがない。
[漢字]前回[/漢字][ふりがな]ぜんかい[/ふりがな]、私はお前たちの醜い一面を知ったんだよ。
お前が事故で死にそうになった時、私を突き飛ばして身代わりにしようとしたことだって知ってるんだよ。


それと、生き物の「命」に対する責任感やら慈しみやら、そういうものも無くなってきた。
ストレスやイライラのまま、コテラを蹴った日があった。ぬいぐるみを殴るみたいに、理不尽な怒りをぶつけて。
当然コテラはぐったりしてたけど、もちろん次の日には何事もなかったように時間が戻っている。



しばらく考えていたら、ぞっとした。



私、どうせリセットできるからって、愛犬をモノみたいに扱って壊しちゃったんだ。
私ってそんなにゴミだったっけ?

もしかしたら、これをいつか他人にも向けてしまうかもしれない。
ストレスついでにあの子をサクッと気軽に殺して、次の日リセットしてから普通に、いつものとおり友達として接したりして。


「…もう、やだ…」















「ソ、ソ♯、ラ、シ♭、レドシ♭ラソシド〜♪」
鼻歌を歌う。今日はとってもいい天気!
日曜日に散歩するのって、やっぱり気分が良いな。

私は、もうだめだ。
人に嫌われたくないのが一周回って人間不信になったくせして、自分はそいつらよりよっぽど汚い性分なんだから。


「…私は、知りにきたんだ。本当に大事なこと、わすれちゃったとっても大切なこと」

あてもなくスキップでそこら中を回っていると、いつの間にかそこは森の中だった。





「迷っちゃったかな!……なんだろ、このでっかいお屋敷」
突然現れた、ツタの絡まったボロボロの洋館。びっくりして、思わず立ち止まってしまった。

トレーナーのポケットのなかで、カラン、とライターの金属音が響いた。
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作者メッセージ

あれ、作品変わった?と思ったそこの皆さん、大丈夫です。中編からちゃんとお話の舞台は、トライアングルウィッチハウス(店名)に戻ります。あっ、ブラウザバックしないで!(笑)

ひっっっっっっっさしぶりのプチウィッチです。設定を練りすぎてたらこうなりました。
(後付けで盛り込みすぎました。だってお任せしますって言ってくださったんですもん、後付けマスターの私がそんなこと言われたらじっとしてられるわけないじゃないですか!!)
長らくお待ちいただいて、本当にありがとうございます。



これで最後の依頼人様、気を引き締めてご案内させていただきます。

2025/03/15 21:19

団栗きんとん
ID:≫ soHtg8UkVbFiM
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