ある程度身体が治り、歩きだそうとしたら、足音が聞こえた。
こちらに向かってきている。槍を持った白髪の女。作り笑顔...誰だった...?
キルン「.........誰だ?」(強い...前の俺にも届きうるな...)
イフィー「私は、イフィー。『前の貴方』との知り合いよ。人を殺す事に何の躊躇いもないのを見た感じ、やっぱり記憶喪失かしら?まぁ、前の貴方も人間を殺す事自体は必要であれば躊躇しないでしょうけど。」(思ったより成長しているわね...やはり成長性は前の彼と同等。今の内に殺しておきたい...)
キルン「.........いいや?思い出しはしたぜ?
とてつもなく下らない記憶だったがな。
......俺を止めにでも来たか?」
イフィー「ええ、殺しに来たの。こういうのは成長しきる前に潰すのが一番なのよ。
それに、今の貴方は改心や自制心なんて無さそうだし、そもそも私にそこまで情はないから。」
キルン「今の俺とは初対面の癖に良く分かってんな...」
イフィー「.........さて、これで無駄話は終わり。さて、行くわよ?」
イフィーの放つ槍は、まるで意志を持つ大蛇のようにうねり、キルンを寄せ付けない。突き、払い、そして引くと見せかけての石突きでの打突。長尺の利を最大限に活かした波状攻撃が、キルンを攻め立てる。
しかし、キルンもただ逃げ回っているわけではない。
キルンは絶え間なく左右へとステップを踏み、残像を残すような速度で双鎌を振るう。
[大文字]ガキィッ![/大文字]
激しい衝突音が響く。キルンはイフィーの突きを避けるのではなく、左手の鎌の湾曲した刃の内側で、槍の柄を強引に引っ掛けた。
キルン「捕まえたぞ、白髪槍女!」
キルンはニヤリと笑い、鎌を引いて槍の軌道を強引に逸らす。そのまま空いた右手の鎌を逆手に持ち替え、イフィーの首筋目掛けて振り下ろした。
チェックメイト――。
キルンがそう思った瞬間、イフィーは首を傾ける最小限の動きで鎌を回避し、同時に、キルンに引っ掛けられている槍の柄から両手を離した。
完全に虚を突かれたキルンの鎌が、空を斬る。
イフィーは無防備になったキルンの懐へ一歩踏み込むと、その美しい顎へ向けて、下から鋭い掌底を叩き込んだ。
[大文字]ゴカァッ![/大文字]
脳を揺らされたキルンがたじろぐ。イフィーはその隙に見事な身のこなしで手放した槍をキャッチし、一回転の遠心力を乗せてキルンの胴体を真横から叩き伏せた。
強烈な横一文字の打突を受け、キルンの身体が川の浅瀬を越えて森の中を木をへし折りながら何十メートルもの遠くへ吹き飛んでいった。
イフィーは、自身の愛槍を軽く一回転させて手元に戻すと、キルンが消えていった森の奥を見つめて、ぽつりと呟く。
イフィー「......あら?」
静寂。
返ってくるのは、木々がメキメキと倒れる遠い音だけだ。
イフィー「ちょっと力を乗せすぎちゃったかしら。手応えからして、死んではいないと思うのだけれど......。流石にこの距離まで吹き飛ぶと、追うのも面倒ね。」
彼女は完璧な戦闘技術を持つ戦闘の秀才であり、同時に、加減を誤って獲物を遥か彼方までブチ飛ばしてしまうような大雑把さをたまに発揮する悪癖があった。
イフィー「まあ、いいわ。あの様子だと、私のことは完全に『敵』と認識したでしょうし。改心する余地がないのなら、いずれまた私の前に現れるはず。その時は――」
彼女の作り笑顔が、一瞬だけ冷徹なものへと変わる。
イフィー「今度こそ、完全に殺してあげるわ。」
槍を背中に収めると、彼女は音もなくその場から姿を消した。
一方、何本もの大木を文字通りへし折り、背中から泥水へと叩きつけられたキルンは、視界を真っ赤に染めながら荒い息を吐き出した。
キルン「ごふっ......、がはっ......! クソが......ッ!」
口から溢れる鮮血を強引に手の甲で拭う。
脳が、視界が、まだ激しく揺れている。あの白髪の女――イフィーが放った掌底と、その後の槍の打突。一瞬の隙、手放した武器を躊躇なく囮にする戦闘勘、そして吹き飛ばされた距離。すべてが規格外だった。
キルン「あの一撃......。ただの肉弾戦で、『喰魂』でステータスが跳ね上がっている俺の防御を突き破りやがった......。ハハッ、面白い、面白すぎるだろ......ッ!」
痛みを脳内麻薬が塗りつぶしていく。折れた骨を黒い魔力で無理やり固定し、キルンは泥の中から這い上がった。手に馴染んだ喰魂の魔双鎌が、屈辱と高揚感で不気味に共鳴している。
だが、どれだけ目を凝らしても、周囲には静まり返った森が広がるばかりだった。
へし折られた直線の木々。その遥か先、もはや互いの気配すら薄れるほどの距離まで、彼は一撃で弾き飛ばされたのだ。
キルン「チッ......見失ったか。大雑把な女だ...」
今の実力では、追いついたところで返り討ちに遭う可能性が高い。
「.....いいさ。今はまだ、あの女の[漢字]魂[/漢字][ふりがな]デザート[/ふりがな]を喰うには時期が悪い。今はあの女とは別に俺の腹を満たせる強者を探す。」
キルンは漆黒の霧を纏いながら、イフィーとは真逆の方向へと向かって、再び木々の中を歩き始めた。
第21話「喪失者と強者の邂逅」終
次回 第22話「喰魂の魔人と闇の邂逅」
こちらに向かってきている。槍を持った白髪の女。作り笑顔...誰だった...?
キルン「.........誰だ?」(強い...前の俺にも届きうるな...)
イフィー「私は、イフィー。『前の貴方』との知り合いよ。人を殺す事に何の躊躇いもないのを見た感じ、やっぱり記憶喪失かしら?まぁ、前の貴方も人間を殺す事自体は必要であれば躊躇しないでしょうけど。」(思ったより成長しているわね...やはり成長性は前の彼と同等。今の内に殺しておきたい...)
キルン「.........いいや?思い出しはしたぜ?
とてつもなく下らない記憶だったがな。
......俺を止めにでも来たか?」
イフィー「ええ、殺しに来たの。こういうのは成長しきる前に潰すのが一番なのよ。
それに、今の貴方は改心や自制心なんて無さそうだし、そもそも私にそこまで情はないから。」
キルン「今の俺とは初対面の癖に良く分かってんな...」
イフィー「.........さて、これで無駄話は終わり。さて、行くわよ?」
イフィーの放つ槍は、まるで意志を持つ大蛇のようにうねり、キルンを寄せ付けない。突き、払い、そして引くと見せかけての石突きでの打突。長尺の利を最大限に活かした波状攻撃が、キルンを攻め立てる。
しかし、キルンもただ逃げ回っているわけではない。
キルンは絶え間なく左右へとステップを踏み、残像を残すような速度で双鎌を振るう。
[大文字]ガキィッ![/大文字]
激しい衝突音が響く。キルンはイフィーの突きを避けるのではなく、左手の鎌の湾曲した刃の内側で、槍の柄を強引に引っ掛けた。
キルン「捕まえたぞ、白髪槍女!」
キルンはニヤリと笑い、鎌を引いて槍の軌道を強引に逸らす。そのまま空いた右手の鎌を逆手に持ち替え、イフィーの首筋目掛けて振り下ろした。
チェックメイト――。
キルンがそう思った瞬間、イフィーは首を傾ける最小限の動きで鎌を回避し、同時に、キルンに引っ掛けられている槍の柄から両手を離した。
完全に虚を突かれたキルンの鎌が、空を斬る。
イフィーは無防備になったキルンの懐へ一歩踏み込むと、その美しい顎へ向けて、下から鋭い掌底を叩き込んだ。
[大文字]ゴカァッ![/大文字]
脳を揺らされたキルンがたじろぐ。イフィーはその隙に見事な身のこなしで手放した槍をキャッチし、一回転の遠心力を乗せてキルンの胴体を真横から叩き伏せた。
強烈な横一文字の打突を受け、キルンの身体が川の浅瀬を越えて森の中を木をへし折りながら何十メートルもの遠くへ吹き飛んでいった。
イフィーは、自身の愛槍を軽く一回転させて手元に戻すと、キルンが消えていった森の奥を見つめて、ぽつりと呟く。
イフィー「......あら?」
静寂。
返ってくるのは、木々がメキメキと倒れる遠い音だけだ。
イフィー「ちょっと力を乗せすぎちゃったかしら。手応えからして、死んではいないと思うのだけれど......。流石にこの距離まで吹き飛ぶと、追うのも面倒ね。」
彼女は完璧な戦闘技術を持つ戦闘の秀才であり、同時に、加減を誤って獲物を遥か彼方までブチ飛ばしてしまうような大雑把さをたまに発揮する悪癖があった。
イフィー「まあ、いいわ。あの様子だと、私のことは完全に『敵』と認識したでしょうし。改心する余地がないのなら、いずれまた私の前に現れるはず。その時は――」
彼女の作り笑顔が、一瞬だけ冷徹なものへと変わる。
イフィー「今度こそ、完全に殺してあげるわ。」
槍を背中に収めると、彼女は音もなくその場から姿を消した。
一方、何本もの大木を文字通りへし折り、背中から泥水へと叩きつけられたキルンは、視界を真っ赤に染めながら荒い息を吐き出した。
キルン「ごふっ......、がはっ......! クソが......ッ!」
口から溢れる鮮血を強引に手の甲で拭う。
脳が、視界が、まだ激しく揺れている。あの白髪の女――イフィーが放った掌底と、その後の槍の打突。一瞬の隙、手放した武器を躊躇なく囮にする戦闘勘、そして吹き飛ばされた距離。すべてが規格外だった。
キルン「あの一撃......。ただの肉弾戦で、『喰魂』でステータスが跳ね上がっている俺の防御を突き破りやがった......。ハハッ、面白い、面白すぎるだろ......ッ!」
痛みを脳内麻薬が塗りつぶしていく。折れた骨を黒い魔力で無理やり固定し、キルンは泥の中から這い上がった。手に馴染んだ喰魂の魔双鎌が、屈辱と高揚感で不気味に共鳴している。
だが、どれだけ目を凝らしても、周囲には静まり返った森が広がるばかりだった。
へし折られた直線の木々。その遥か先、もはや互いの気配すら薄れるほどの距離まで、彼は一撃で弾き飛ばされたのだ。
キルン「チッ......見失ったか。大雑把な女だ...」
今の実力では、追いついたところで返り討ちに遭う可能性が高い。
「.....いいさ。今はまだ、あの女の[漢字]魂[/漢字][ふりがな]デザート[/ふりがな]を喰うには時期が悪い。今はあの女とは別に俺の腹を満たせる強者を探す。」
キルンは漆黒の霧を纏いながら、イフィーとは真逆の方向へと向かって、再び木々の中を歩き始めた。
第21話「喪失者と強者の邂逅」終
次回 第22話「喰魂の魔人と闇の邂逅」
- 1.襲撃
- 2.実験施設
- 3.虐殺開始
- 4.喰魂の魔人
- 5.キルンvs.S1-000001
- 6.sideガトス
- 7.脱出/会話/実力測定
- 8.統率/襲撃
- 9.sideアケーリス
- 10.side ガトス2
- 11.side ガトス3
- 12.怒に焼かれし漁人の村
- 13.怒に焼かれし魚人の村2
- 14.キルンvs.イーラ
- 15.Side ガトス4
- 16.Side ガトス5
- 17.Side ガトス6
- 18.Side ガトス7
- 19.Side ガトス8
- 20.歓楽極楽
- 21.喪失者と強者の邂逅
- 22.喰魂の魔人と闇の邂逅
- 23.アレンと討伐依頼
- 24.狂う計画
- 25.斧男vs.アレン
- 26.喰魂の魔人と暴食の魔人
- 27.WDSF拠点発見/襲撃を掛けるスライ