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闇に堕ちる勇者 ~再現の魔人と喰魂の魔人~

#20

歓楽極楽

2月14日12時46分。ガトス&ルエルフがグーラを撃退。少し時を巻き戻し、キルンがイーラを撃破した2月13日22時43分。
キルン「疲れた...」
よっと踏ん張って飛び起きる。
​キルン「......ふぅ。怒れば怒るほど強くなる、か。タネは面白かったが、中身がただの子供じゃ宝の持ち腐れだったな。」
​冷ややかに言い放つと、キルンの身体から無意識に黒い霧が立ち上る。固有スキル『喰魂』の自動発動。首を失ったイーラの残骸から、禍々しくも濃密な魂が引きずり出され、キルンの胸へと吸い込まれていく。
​[水平線]
『憤怒の魔人』イーラを殺害。
イーラの魂の完全吸収を完了。
イーラの死亡により、イーラと『憤怒の七節棍』の接続が切れました。
身体能力および魔力総量がさらに上昇。
また、『憤怒の七節棍』から持ち主として認められました。
憤怒の魔人になりますか?
Yes/No/Withholding
[水平線]
キルン(...フム、保留だな。検討の余地はあるが、そうすぐに考えるべきことでもないだろう。)
七節棍を懐に仕舞った。
​折れた右腕の骨は、イーラの魂を喰らったことで得た魔力を使い、みしみしと音を立てて強引に接合する。結合の後、魔力の布を巻いて固定。完治には至らないが、動かす分には問題ない。接合や魔力の布の生成に多少の魔力を使うものの、それらの[維持に必要な魔力量<自然回復する魔力量]なので魔力切れになる心配もない。
キルン(さて...魂を補充しに帰るか...)
​冷酷な笑みを浮かべ、キルンは地を蹴った。進化した身体能力と膨れ上がった魔力は、一歩の踏み込みだけで周囲の木々を激しく揺らし、夜の森を漆黒の弾丸となって突き進んでいく。

その道中、キルンの脳裏にふと、先ほど殺したイーラの言葉が過った。
『お前か!組織が生け捕りにしろと命令したヤツは!』
キルン(組織、WDSF......だったか。どうやら前の俺は、随分とそいつらに目の敵にされていたらしいな。生け捕り、記憶消去......忌々しい。)
​軽く思考しながら走る。
だが、その思考は長続きしなかった。村に近づくにつれ、鼻腔をくすぐる水の匂いと、魚人たちの怯えと期待が混ざった気配が彼の殺害衝動を刺激したからだ。

​川の上に浮かぶ高床式の村。
キルンが姿を現すと、暗がりで張り詰めたように待機していた魚人たちが一斉に色めき立った。
魚人の村長「おお......! おお、戻られたか! あの、あの悪魔は......イーラはどうなりましたか!?」
村長が這いつくばるようにして通路を進み出、縋るような目をキルンに向ける。
​キルンは無造作に背中の大鎌に手をかけ、英雄のような、しかしどこか底の知れない笑みを浮かべて見せた。
キルン「安心しろ。アイツは俺がこの手で殺してやった。もうお前らを縛る掟も、首を刎ねる悪魔もいない」
​その瞬間、村中に歓声が響き渡った。
「やった......! やったぞ!!」
「助かったんだ......! 私たちは助かったんだ!!」
涙を流して抱き合う者、神に感謝を捧げる者。魚人たちの顔は、これ以上ないほどの希望と歓心に満ちあふれていた。
キルンはその光景を、じっと静かに見つめていた。
彼らの歓喜の声が大きくなればなるほど、キルンの口の端が吊り上がっていく。胸の奥から湧き上がるのは、心地よいほどの、歪んだ破壊衝動。
​キルン「......あぁ、本当に良い顔だ。最高に美味そうだな」
魚人の村長「え......? お方様、今なんと――」
​村長が疑問の声を上げ終えるより早く。
[太字][大文字]ザシュッッ!!![/大文字][/太字]
​キルンの左手の鎌が一閃し、村長の首が綺麗な放物線を描いて川へと落ちた。首を失った胴体から、鮮血が噴水のように噴き出す。
​「......え?」
「え、あ......あぁあ!?」
一瞬にして凍りつく歓声。さっきまで希望に輝いていた魚人たちの瞳が、瞬時に理解不能な恐怖と絶望へと塗り替えられていく。
​キルン「言っただろ、俺は俺のやりたいようにやるって。......あいつを殺したのはお前たちを助けるためじゃない。より美味い魂を喰うため、そして――」
​キルンは二丁の魔双鎌を構え、翠色の目を爛々と輝かせた。
​キルン「お前たちが一番安心した瞬間に、その面の皮を絶望で引き裂いて皆殺しにして楽しむためだ。さあ...宴の続きを始めようぜ?」
​「ギャアァァァァァッ!!」
「助けて、助けてくれ!! 悪魔だァ!!」
阿鼻叫喚の地獄絵図が幕を開ける。逃げ惑う魚人たちを、キルンは一歩動くたびに確実に肉片へと変えていく。身体に染み付いた動きが、一瞬の無駄もない効率的な殺戮を可能にしていた。
キルン「ハハハッ! 逃げろ、喚け!少しでも俺を楽しませろ!!」
狂気的に嗤いながら鎌を振るうキルン。彼の中に、彼を止めるブレーキはどこにも存在しなかった。

​2月14日 0時12分。
魚人の村は、静まり返った。川の水面は、村長が恐れていた通り、彼らの血によって赤く赤く染まり、無数の死体が浮き沈みしている。
​キルン「ふぅ......。不味くはなかったが、やはり幹部級に比べると[漢字]端金[/漢字][ふりがな]はしたがね[/ふりがな]みたいなものだな。反応は楽しめたが、殺害時に得られる快楽が少ない。
...やはり強者を狙う方が良いか。」
満ち足りた表情で、しかしどこか退屈そうに魔双鎌の血を払うキルン。
その時、懐に仕舞っていたイーラの『憤怒の七節棍』が、何かに共鳴するように微かに震えた。

第20話「歓楽極楽」終
次回 第21話「喪失者と強者の邂逅」

2026/06/23 18:06

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