ガトス(クソッ!俺があの時無理矢理にでも部屋に割り込んでいたら.........ッ!)
激しい後悔がガトスの胸を灼く。あの不気味な静寂、あの異質な咀嚼音の時点で、最悪の事態はすでに進行していたのだ。自分が違和感を振り払い、背を向けてしまったあの数分の間に、どれだけの敗者たちがこの男の胃袋に収まったというのか。
グーラ「あははっ! 良い顔、本当に良い顔だ! 恐怖、嫌悪、後悔......五味が複雑に混ざり合って、最高のスパイスになってる!」
キィィィィン!!!
グーラは刃渡り14cmのナイフを、まるでガトスの95cmの長剣に吸い付くように滑らせる。ただの小刀のはずが、そこから伝わる重量感はすでに城門を破る破城槌のそれだった。
ガトス「ぐ、おおっ......!」
ガトスは力比べを拒絶するように急制動をかけ、神速のステップで真後ろへ跳んだ。
だが、グーラの踏み込みはそれを上回る。
グーラ「逃がさないよ、メインディッシュ!」
地を這うような前傾姿勢のまま、グーラが爆発的な加速で肉薄する。その速度は、明らかに予選の時点を遥かに凌駕していた。喰らった戦士たちの俊敏性すら、グーラすでに自分のものにしている。
ガトス「(背後を取った!)これで終わ....」
グーラ「いただきまぁす!」
限界を超えた速度で挑んだはずだった。
だが、際限なく他者の力を上乗せし続ける魔人の前では、その「絶対的な一撃」すら、すでに読み切られていた。
ガトス「……あ。」
完全に、出足を潰された。
踏み込んだ右足。そこから剣へと繋がる体重移動のほんの一瞬の歪みを、グーラは逃さなかった。
ガトスの95cmの長剣が空を切る。その懐、完全にがら空きになったガトスの胸元へと、グーラが地を這うような踏み込みで滑り込んできた。
(ヤバい。隙を突かれた……!)
気づいた時には、すでに体勢を立て直す猶予は残されていなかった。
周囲の歓声が消え、視界が奇妙なほどスローモーションに切り替わる。
眼前に迫るのは、じっとりと涎を滴らせ、三日月のように目を細めたグーラの狂顔。そして、その手にある刃渡り14cmのナイフの切っ先が、冷酷な光を放ちながらガトスの心臓目掛けてまっすぐに突き出されていた。
(……死ぬ。)
あまりにもあっけない終わりが、すぐ目の前まで迫っている。
(……こんなところで?)
(……キルンを助けることすら出来ずに?)
悔恨と絶望が脳裏をよぎり、ガトスが無意識に目を閉じた、その刹那だった。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!!
空気を鋭く引き裂く無数の風切り音が、突如としてリング上に吹き荒れた。
それは、一発や二発ではない。数百にも及ぶ、風の魔力を帯びた矢。それらが、ガトスを突き刺そうとしていたグーラの全身目掛けて、容赦なく降り注いだのだ。
グーラ「――チッ!」
食欲に狂っていたグーラの目が、初めて不快そうに歪む。
流石のグーラも、その密度の面攻撃を無視してガトスを突き刺すことは不可能と判断。グーラは突き出しかけたナイフを強引に引き戻すと、まるで重力を無視したかのような、驚異的な速度の連続バックステップでその場を飛び退いた。
ドスドスドスドスドスッ!!!
グーラが数瞬前までいた床、そしてその周囲のリング一面に、突き刺さった風の矢が凄まじい音を立てて爆散し、白い煙を巻き上げる。
「げほっ、ごほっ......! 一体、何が......」
死の淵から引き戻されたガトスが、激しく咳き込みながら視線を上空へと向けた。
リングの縁、会場の天井近くにある巨大な梁の上に、その男は立っていた。
美しい髪をなびかせ、魔力で編まれた弓を構えたまま、鋭い眼光をグーラへと向けている男。
ガトス(!!ルエルフか!幸い命拾いした。感謝しないとな。)
ガトスは長剣を杖代わりにし、激しく上下する肩を落ち着かせながらルエルフを見上げた。
ガトス「ルエルフ、助かった......! 悪い、完全にやらかした!」
ルエルフ「謝るのは後だ。あいつ、ただの選手じゃない。禍々しい魔力が膨れ上がり続けている......明らかに異質だ。」
エルダーエルフとしての高い魔力感知能力が、グーラの異常性を捉えたのだろう。梁から音もなくリングへ飛び降りてきたルエルフは、ガトスの前に立ち、再び魔力の弓を引き絞った。
一方、数メートル後方へ退避したグーラは、完全に煙が晴れたリングの中で、ひどく不機嫌そうに首を傾げていた。
口元から垂れる涎を手の甲で乱暴に拭い、青い髪の間から覗く瞳が、冷酷な光を増していく。
グーラ「......お邪魔虫が入っちゃったなァ。ボク、いま最高に良いところで、最高のメインディッシュを食べようとしてたのに......」
グーラは手元のナイフをクルリと回すと、ルエルフをじっと睨み据えた。
グーラ「君......エルダーエルフだね? 凄く、凄く高密度で綺麗な魔力だ。......うん、前菜としては文句なし。二人まとめてボクの胃袋に収まりなよ!」
その言葉に、ルエルフの美貌が微かに険しくなる。
ルエルフ「......なるほどな。会場の『敗退者』たちが妙に少なかった理由が分かった。アイツ、彼らを......」
ガトス「ああ、ルエルフ、俺の推測が正しけりゃあいつ、負けた奴らを全員喰って強くなってる。能力の詳細は分からないが、さっきの筋力もスピードも、全部奪った他人の力だ!」
ルエルフ「人体の摂食による強化......最悪の禁忌だな。やはり魔人か」
アナウンサー「な、なんとここでAブロック勝者のルエルフ選手が乱入ー!? これは完全なルール違反ですが......しかし、グーラ選手の放つプレッシャーも尋常ではありません! 審判、これはどう処理すれば――」
会場が騒然とする中、運営や審判はすでに動けずにいた。グーラが放つ、数百人を喰らい尽くした暴食の魔人としての圧倒的な殺気が、観客はおろかスタッフの身体をも恐怖で縛り付けていたからだ。
ガトス「おい、ルエルフ。ルール違反で失格になっても知らないぞ」
ルエルフ「フッ、あんな化け物を放置して優勝しても寝覚めが悪い。それに、ここでガトスを見殺しにしたら、それこそキルンに何を言われるか分かったもんじゃない。」
キルンの名前が出た瞬間、ガトスの口元にわずかな笑みが戻った。
そうだ、こんなところで、正体不明の化け物の餌になってたまるか。
ガトス「......よし。あいつのナイフのリーチは短い。だけど、喰った奴らの技術のせいで、受ける技術と踏み込みの速度がバグってる。一瞬でも捕まったら終わりだ」
ルエルフ「ならば、俺が距離を潰させない。ガトスは奴の死角を突け」
グーラ「お喋りは終わり? ......じゃあ、いただきます!!」
グーラの姿が、リングの床を爆沈させるほどの踏み込みと共に、一瞬で掻き消えた。
第18話「Side ガトス7」終
次回 第19話「Sideガトス8」
激しい後悔がガトスの胸を灼く。あの不気味な静寂、あの異質な咀嚼音の時点で、最悪の事態はすでに進行していたのだ。自分が違和感を振り払い、背を向けてしまったあの数分の間に、どれだけの敗者たちがこの男の胃袋に収まったというのか。
グーラ「あははっ! 良い顔、本当に良い顔だ! 恐怖、嫌悪、後悔......五味が複雑に混ざり合って、最高のスパイスになってる!」
キィィィィン!!!
グーラは刃渡り14cmのナイフを、まるでガトスの95cmの長剣に吸い付くように滑らせる。ただの小刀のはずが、そこから伝わる重量感はすでに城門を破る破城槌のそれだった。
ガトス「ぐ、おおっ......!」
ガトスは力比べを拒絶するように急制動をかけ、神速のステップで真後ろへ跳んだ。
だが、グーラの踏み込みはそれを上回る。
グーラ「逃がさないよ、メインディッシュ!」
地を這うような前傾姿勢のまま、グーラが爆発的な加速で肉薄する。その速度は、明らかに予選の時点を遥かに凌駕していた。喰らった戦士たちの俊敏性すら、グーラすでに自分のものにしている。
ガトス「(背後を取った!)これで終わ....」
グーラ「いただきまぁす!」
限界を超えた速度で挑んだはずだった。
だが、際限なく他者の力を上乗せし続ける魔人の前では、その「絶対的な一撃」すら、すでに読み切られていた。
ガトス「……あ。」
完全に、出足を潰された。
踏み込んだ右足。そこから剣へと繋がる体重移動のほんの一瞬の歪みを、グーラは逃さなかった。
ガトスの95cmの長剣が空を切る。その懐、完全にがら空きになったガトスの胸元へと、グーラが地を這うような踏み込みで滑り込んできた。
(ヤバい。隙を突かれた……!)
気づいた時には、すでに体勢を立て直す猶予は残されていなかった。
周囲の歓声が消え、視界が奇妙なほどスローモーションに切り替わる。
眼前に迫るのは、じっとりと涎を滴らせ、三日月のように目を細めたグーラの狂顔。そして、その手にある刃渡り14cmのナイフの切っ先が、冷酷な光を放ちながらガトスの心臓目掛けてまっすぐに突き出されていた。
(……死ぬ。)
あまりにもあっけない終わりが、すぐ目の前まで迫っている。
(……こんなところで?)
(……キルンを助けることすら出来ずに?)
悔恨と絶望が脳裏をよぎり、ガトスが無意識に目を閉じた、その刹那だった。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンッ!!!
空気を鋭く引き裂く無数の風切り音が、突如としてリング上に吹き荒れた。
それは、一発や二発ではない。数百にも及ぶ、風の魔力を帯びた矢。それらが、ガトスを突き刺そうとしていたグーラの全身目掛けて、容赦なく降り注いだのだ。
グーラ「――チッ!」
食欲に狂っていたグーラの目が、初めて不快そうに歪む。
流石のグーラも、その密度の面攻撃を無視してガトスを突き刺すことは不可能と判断。グーラは突き出しかけたナイフを強引に引き戻すと、まるで重力を無視したかのような、驚異的な速度の連続バックステップでその場を飛び退いた。
ドスドスドスドスドスッ!!!
グーラが数瞬前までいた床、そしてその周囲のリング一面に、突き刺さった風の矢が凄まじい音を立てて爆散し、白い煙を巻き上げる。
「げほっ、ごほっ......! 一体、何が......」
死の淵から引き戻されたガトスが、激しく咳き込みながら視線を上空へと向けた。
リングの縁、会場の天井近くにある巨大な梁の上に、その男は立っていた。
美しい髪をなびかせ、魔力で編まれた弓を構えたまま、鋭い眼光をグーラへと向けている男。
ガトス(!!ルエルフか!幸い命拾いした。感謝しないとな。)
ガトスは長剣を杖代わりにし、激しく上下する肩を落ち着かせながらルエルフを見上げた。
ガトス「ルエルフ、助かった......! 悪い、完全にやらかした!」
ルエルフ「謝るのは後だ。あいつ、ただの選手じゃない。禍々しい魔力が膨れ上がり続けている......明らかに異質だ。」
エルダーエルフとしての高い魔力感知能力が、グーラの異常性を捉えたのだろう。梁から音もなくリングへ飛び降りてきたルエルフは、ガトスの前に立ち、再び魔力の弓を引き絞った。
一方、数メートル後方へ退避したグーラは、完全に煙が晴れたリングの中で、ひどく不機嫌そうに首を傾げていた。
口元から垂れる涎を手の甲で乱暴に拭い、青い髪の間から覗く瞳が、冷酷な光を増していく。
グーラ「......お邪魔虫が入っちゃったなァ。ボク、いま最高に良いところで、最高のメインディッシュを食べようとしてたのに......」
グーラは手元のナイフをクルリと回すと、ルエルフをじっと睨み据えた。
グーラ「君......エルダーエルフだね? 凄く、凄く高密度で綺麗な魔力だ。......うん、前菜としては文句なし。二人まとめてボクの胃袋に収まりなよ!」
その言葉に、ルエルフの美貌が微かに険しくなる。
ルエルフ「......なるほどな。会場の『敗退者』たちが妙に少なかった理由が分かった。アイツ、彼らを......」
ガトス「ああ、ルエルフ、俺の推測が正しけりゃあいつ、負けた奴らを全員喰って強くなってる。能力の詳細は分からないが、さっきの筋力もスピードも、全部奪った他人の力だ!」
ルエルフ「人体の摂食による強化......最悪の禁忌だな。やはり魔人か」
アナウンサー「な、なんとここでAブロック勝者のルエルフ選手が乱入ー!? これは完全なルール違反ですが......しかし、グーラ選手の放つプレッシャーも尋常ではありません! 審判、これはどう処理すれば――」
会場が騒然とする中、運営や審判はすでに動けずにいた。グーラが放つ、数百人を喰らい尽くした暴食の魔人としての圧倒的な殺気が、観客はおろかスタッフの身体をも恐怖で縛り付けていたからだ。
ガトス「おい、ルエルフ。ルール違反で失格になっても知らないぞ」
ルエルフ「フッ、あんな化け物を放置して優勝しても寝覚めが悪い。それに、ここでガトスを見殺しにしたら、それこそキルンに何を言われるか分かったもんじゃない。」
キルンの名前が出た瞬間、ガトスの口元にわずかな笑みが戻った。
そうだ、こんなところで、正体不明の化け物の餌になってたまるか。
ガトス「......よし。あいつのナイフのリーチは短い。だけど、喰った奴らの技術のせいで、受ける技術と踏み込みの速度がバグってる。一瞬でも捕まったら終わりだ」
ルエルフ「ならば、俺が距離を潰させない。ガトスは奴の死角を突け」
グーラ「お喋りは終わり? ......じゃあ、いただきます!!」
グーラの姿が、リングの床を爆沈させるほどの踏み込みと共に、一瞬で掻き消えた。
第18話「Side ガトス7」終
次回 第19話「Sideガトス8」