アナウンサー「さあ、お待たせいたしました! 準決勝第二試合! 予選45位から神速の一撃でここまで駆け上がった『奇跡の男』ガトス選手! 対するは、圧倒的な蹂躙劇で対戦相手を絶望させてきた青髪の怪物、グーラ選手だぁーー!!」
地鳴りのような歓声が会場を包む。
だが、リング中央に対峙した二人の空気は、およそ華やかな舞台とはかけ離れていた。
ガトス(……なんだ? あいつ、さっきから妙に様子が変だな)
ガトスは剣を抜き、自然体に構えた。
対するグーラが懐から取り出したのは、刃渡りわずか14cmほどの、およそ大武闘大会には不釣り合いな小ぶりのナイフ。
だが、ガトスが本当に違和感を覚えたのはその武器ではない。
グーラの顔だ。
グーラは口元を歪め、喉を激しく鳴らしながら、我慢しきれないといった様子でじっとりと涎を垂らしているのだ。その目はガトスを「対戦相手」としてではなく、まるで極上の馳走を見るかのようにねめつけている。
ガトス(......腹でも減ってんのか? 緊張で口が乾くのは分かるけど、涎って......。まあ、精神統一の一種か何かだろ。変な奴だけど、ここまで勝ち上がってきたんだ。油断はできない)
ガトスはそこまで勘が鋭いわけではない。不気味だとは思いつつも、それ以上深く勘繰ることはせず、ただ目の前の敵を倒すことだけに意識を集中させた。
審判「――始め!!」
「オォォッ!!」
獣のような咆哮と共に、先に地を蹴ったのはグーラだった。
刃渡り14cmのナイフという圧倒的なリーチの不利を覆すべく、低く鋭い踏み込みでガトスの懐を狙う。
ガトス(甘い! リーチの差を考えてないのか!?)
ガトスは自慢の俊敏性を活かし、半歩退がりながら剣を鋭く突き出した。鋭利な切っ先がグーラの眉間を捉える――はずだった。
キンッ!!!
高い金属音が響く。
グーラは最小限の動きでナイフの腹を合わせ、ガトスの刺突を弾いたのだ。ただ弾いただけではない。そのままナイフをガトスの剣の峰に滑らせ、火花を散らしながら一気に距離を詰めてくる。
ガトス(チッ、受ける技術は本物か!)
ガトスは即座に剣を引き戻し、今度は横一線の薙ぎ払いを放つ。
ガリガリガリッ! と、長剣の刃と短刀の刃が激しく噛み合い、互いの腕に強烈な衝撃が伝わる。
グーラ「ハァ、ハァ......いい、いいぞ......! その速度、そのバネ......美味そうだ......!」
グーラはナイフでガトスの猛攻を受け止めながら、狂気的な笑みを浮かべる。
ガトスのスピードは、グーラがこれまで戦ってきた戦士たちとは次元が違った。
一歩踏み込むごとに残像を残し、グーラの死角から長剣が襲いかかる。
シュウッ! と風を切り、上段からの唐竹割り。
グーラはナイフを逆手に持ち替え、頭上でクロスするようにして刃を受け止める!
ガキィィィン!!!
金属と金属が激しく擦れ合い、凄まじい火花が二人の顔を照らす。
至近距離。グーラの口から溢れた涎が、リングの床にポタポタと落ちるのが見えた。
ガトス「くっ、この力......! その細いナイフ一本で、俺の長剣の重みを受け止める力があるってのか!?」
ガトスは力比べを嫌い、すぐに剣を引いてバックステップ。間髪入れずに、今度は目にも留まらぬ連撃を繰り出した。
突き、払い、斬りつけ。
ガトスの95cmのリーチから繰り出される怒涛の剣撃を、グーラは14cmのナイフを神がかった速度で振り回し、全て叩き落としていく。武器同士がぶつかり合うたびに、閃光がリング上に弾けた。
ガトス(......おかしい。あいつ、俺のスピードに完全に付いてきてる。いや、それだけじゃない。剣がぶつかるたびに、あいつのナイフの重さが増してるような......?)
グーラ「ァァ、足りない......! まだ、まだ足りないぞガトス......! お前を喰えば、俺はもっと――」
ナイフを強く握り直し、目を血走らせたグーラが、再び飢えた獣のように地を這う姿勢で突進してくる。
「喰えば」「美味そうだ」「足りない」
狂気染みた男の戯言と、極上の馳走を見るような目。しかし、その目と言葉が、試合前にあの不気味な敗退者控え室から聞こえた「ガリ......ボリ......」という硬いものを噛み砕く音、それら三つの点が一瞬で脳内で一本の線へと繋がってしまった。
さらに、試合を重ねるごとに増していく、グーラの異常なまでの身体能力の跳ね上がり方。
その言葉、試合前のまるで極上の馳走を見るような目、そして敗者用控え室から聞こえた異様な音...そこから、ガトスは恐ろしい推測を導きだした。
ガトス「...あり得ない...あり得る筈が...だが...そんな力があるとしたらグーラの強さと異常な行動にも説明がついてしまう...!」
驚愕のあまり、ガトスの剣振りに一瞬の動揺が混じる。
その隙を逃さず、グーラは14cmのナイフをガトスの長剣の刃に激しく擦り付け、火花を散らしながら至近距離へと滑り込んできた。
ガキィィィン!!!
至近距離で噛み合う刃と刃。
グーラは顔を歪め、ボタボタと涎を床にこぼしながら、歓喜に震える声を上げた。
ガトスの推測。
それは、人体の摂食。
文字通り、グーラは敗者の肉を控え室で喰らい、力を増した。
グーラ「よく分かったね...
ボクはWDSF、G部隊幹部『暴食の魔人』グーラ!抵抗して...抵抗して...その末に絶望の中でボクに食べられてくれると嬉しいなァ...」
第17話「Side ガトス6」終
次回 第18話「Side ガトス7」
地鳴りのような歓声が会場を包む。
だが、リング中央に対峙した二人の空気は、およそ華やかな舞台とはかけ離れていた。
ガトス(……なんだ? あいつ、さっきから妙に様子が変だな)
ガトスは剣を抜き、自然体に構えた。
対するグーラが懐から取り出したのは、刃渡りわずか14cmほどの、およそ大武闘大会には不釣り合いな小ぶりのナイフ。
だが、ガトスが本当に違和感を覚えたのはその武器ではない。
グーラの顔だ。
グーラは口元を歪め、喉を激しく鳴らしながら、我慢しきれないといった様子でじっとりと涎を垂らしているのだ。その目はガトスを「対戦相手」としてではなく、まるで極上の馳走を見るかのようにねめつけている。
ガトス(......腹でも減ってんのか? 緊張で口が乾くのは分かるけど、涎って......。まあ、精神統一の一種か何かだろ。変な奴だけど、ここまで勝ち上がってきたんだ。油断はできない)
ガトスはそこまで勘が鋭いわけではない。不気味だとは思いつつも、それ以上深く勘繰ることはせず、ただ目の前の敵を倒すことだけに意識を集中させた。
審判「――始め!!」
「オォォッ!!」
獣のような咆哮と共に、先に地を蹴ったのはグーラだった。
刃渡り14cmのナイフという圧倒的なリーチの不利を覆すべく、低く鋭い踏み込みでガトスの懐を狙う。
ガトス(甘い! リーチの差を考えてないのか!?)
ガトスは自慢の俊敏性を活かし、半歩退がりながら剣を鋭く突き出した。鋭利な切っ先がグーラの眉間を捉える――はずだった。
キンッ!!!
高い金属音が響く。
グーラは最小限の動きでナイフの腹を合わせ、ガトスの刺突を弾いたのだ。ただ弾いただけではない。そのままナイフをガトスの剣の峰に滑らせ、火花を散らしながら一気に距離を詰めてくる。
ガトス(チッ、受ける技術は本物か!)
ガトスは即座に剣を引き戻し、今度は横一線の薙ぎ払いを放つ。
ガリガリガリッ! と、長剣の刃と短刀の刃が激しく噛み合い、互いの腕に強烈な衝撃が伝わる。
グーラ「ハァ、ハァ......いい、いいぞ......! その速度、そのバネ......美味そうだ......!」
グーラはナイフでガトスの猛攻を受け止めながら、狂気的な笑みを浮かべる。
ガトスのスピードは、グーラがこれまで戦ってきた戦士たちとは次元が違った。
一歩踏み込むごとに残像を残し、グーラの死角から長剣が襲いかかる。
シュウッ! と風を切り、上段からの唐竹割り。
グーラはナイフを逆手に持ち替え、頭上でクロスするようにして刃を受け止める!
ガキィィィン!!!
金属と金属が激しく擦れ合い、凄まじい火花が二人の顔を照らす。
至近距離。グーラの口から溢れた涎が、リングの床にポタポタと落ちるのが見えた。
ガトス「くっ、この力......! その細いナイフ一本で、俺の長剣の重みを受け止める力があるってのか!?」
ガトスは力比べを嫌い、すぐに剣を引いてバックステップ。間髪入れずに、今度は目にも留まらぬ連撃を繰り出した。
突き、払い、斬りつけ。
ガトスの95cmのリーチから繰り出される怒涛の剣撃を、グーラは14cmのナイフを神がかった速度で振り回し、全て叩き落としていく。武器同士がぶつかり合うたびに、閃光がリング上に弾けた。
ガトス(......おかしい。あいつ、俺のスピードに完全に付いてきてる。いや、それだけじゃない。剣がぶつかるたびに、あいつのナイフの重さが増してるような......?)
グーラ「ァァ、足りない......! まだ、まだ足りないぞガトス......! お前を喰えば、俺はもっと――」
ナイフを強く握り直し、目を血走らせたグーラが、再び飢えた獣のように地を這う姿勢で突進してくる。
「喰えば」「美味そうだ」「足りない」
狂気染みた男の戯言と、極上の馳走を見るような目。しかし、その目と言葉が、試合前にあの不気味な敗退者控え室から聞こえた「ガリ......ボリ......」という硬いものを噛み砕く音、それら三つの点が一瞬で脳内で一本の線へと繋がってしまった。
さらに、試合を重ねるごとに増していく、グーラの異常なまでの身体能力の跳ね上がり方。
その言葉、試合前のまるで極上の馳走を見るような目、そして敗者用控え室から聞こえた異様な音...そこから、ガトスは恐ろしい推測を導きだした。
ガトス「...あり得ない...あり得る筈が...だが...そんな力があるとしたらグーラの強さと異常な行動にも説明がついてしまう...!」
驚愕のあまり、ガトスの剣振りに一瞬の動揺が混じる。
その隙を逃さず、グーラは14cmのナイフをガトスの長剣の刃に激しく擦り付け、火花を散らしながら至近距離へと滑り込んできた。
ガキィィィン!!!
至近距離で噛み合う刃と刃。
グーラは顔を歪め、ボタボタと涎を床にこぼしながら、歓喜に震える声を上げた。
ガトスの推測。
それは、人体の摂食。
文字通り、グーラは敗者の肉を控え室で喰らい、力を増した。
グーラ「よく分かったね...
ボクはWDSF、G部隊幹部『暴食の魔人』グーラ!抵抗して...抵抗して...その末に絶望の中でボクに食べられてくれると嬉しいなァ...」
第17話「Side ガトス6」終
次回 第18話「Side ガトス7」