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闇に堕ちる勇者 ~再現の魔人と喰魂の魔人~

#12

怒に焼かれし漁人の村

〈Side キルン〉
実験した結果、どっちの実験も成功。
まぁ、前者の方の実験は薄々気付いてはいたが。
喰魂の対象がスアーウルフ達にも適用されたのかかなり弱体化しているのを感じる。
だがそんなことより今は…
キルン「腹が減ったな...」
食事が必要なのは...不便なものだ。
記憶を失う前の俺は最上位魔人とやらで、食事の必要が無かった(それでも作ってはいたようだ。)ようだが、今の俺には必要。
そして今の俺は料理を作れない。
どうなってるんだ前の俺は。過去の記憶を覗き見ても、火加減だの調味料の配合だの、魔法の構成式より余程複雑で反吐が出る。前の俺はどうやって生きていたんだ?。
と言うわけで、何処かの村で食糧を調達する必要があるわけだが...ここ2日見つからん。だが、前の俺の記憶ではこの川上に...
キルン「おっ、あったあった。魚人の村。丁度良いし、食っていこう。殺すのは、何時でも出来るし...」

その村は、川の上にあった。川上...という意味ではなく、文字通り川の上にある。
所謂、高床式住居だ。
だが...
村に足を踏み入れただけなのに、なんとなく敵意を感じるな。
いや、敵意というよりは、もっと濁ったものだ。追い詰められた獣が放つ、窮鼠の殺気に近い。高床式の住居が並ぶ通路を歩くたび、足元の板の隙間から、あるいは窓の暗がりから、粘りつくような視線が俺の背中を這い回る。
腹の虫が鳴らなければ皆殺しにするだけなんだが...今は食事が先だ。殺すのは、腹を満たしてからでも遅くはない。
​キルン「おい、そこの。腹が減ってるんだ。この村で一番マシな食事を出せ。金ならある。」
​俺が近くにいた魚人に声をかけると、そいつは「ヒッ」と短い悲鳴を上げて飛び退いた。だが、逃げ出しはしない。それどころか、震える手で奥の広場を指差した。
​魚人「......あ、あちらで、歓迎の宴を......どうぞ、旅のお方。」
​歓迎? 妙だな。この殺気の中で歓迎とは。
だが、差し出されるなら食ってやるのが礼儀というものだろう。前の俺がどう思っていたかは知らんが、今の俺は空腹にだけは誠実だ。
​案内された広場で、俺は川魚の塩焼きと、発酵したような臭いのする酒を胃に流し込んだ。
......不味くはない。皮の焦げた苦味と、白身の淡白な脂。これを火加減だの何だのと苦労して作るのは反吐が出るが、食う専門なら悪くない。

​食後、俺が満足げに息を吐き、長期保存できる料理を買った後、さて誰から殺してやろうかと鎌の柄に手をかけた、その時だった。

​魚人「――死ねぇッ!!」
​背後、床下の水面から弾(はず)みをつけて飛び出してきた影があった。
水飛沫と共に放たれたのは、魚人特有の鋭い槍。狙いは正確に俺の延髄。
​キルン「......やれやれ、教育がなってないな。」
​俺は振り返りもせず、右手の鎌をわずかに斜め後ろへ突き出した。

[太字][大文字]ガキィィンッ![/大文字][/太字]


​火花が散り、槍の先が鎌の硬質な刃に弾かれる。
奇襲した魚人が驚愕に目を見開く。その表情が変わるより早く、俺は立ち上がりざまに左手でその顔面を掴み、​そのまま隣の欄干に思い切り叩きつける。
木材が砕ける乾いた音。俺は抵抗する気力を奪われたその魚人を片手で吊るし上げ、じっくりとその恐怖に歪む顔を観察した。
​キルン「殺気、呼吸、踏み込み。どれも及第点だが……俺を殺すには、絶望的に数と質が足りてない。
...それとも、これがこの村流のもてなしか?」
キルンは吊るし上げた魚人の顔を、まるで壊れかけの玩具でも眺めるような無機質な目で見つめた。左手に伝わる脈動が、恐怖で早鐘を打っている。この命が消える寸前の震えこそが、何よりも食後の口直しに相応しい。
​魚人「......あ、あがっ......が......」
​魚人の口から漏れる苦悶の声。俺は鎌の刃をその喉元にそっと添えた。冷たい金属の感触に、魚人の瞳孔が収縮する。
だが、そこにあるのは単純な恐怖だけではなかった。どこか救いを求めているような、あるいは自暴自棄な、ひどく不快で粘りつく感情だ。
​魚人の村長「ま、待ってください! 殺さないでくれ! 違う、違うんです!」
​広場の隅で固まっていた他の魚人たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げるかと思いきや、逆に俺の足元へ縋り付いてきた。老いさらばえた村長らしき魚人が、板の間に額をこすりつけ、涙を流しながら叫ぶ。
​魚人の村長「我々も、こんなことはしたくない......! だが、あの方の......『あの方』の命令なのです! 殺さなければ、村が、村が消えてしまう!」
​キルン「あの方?」
​俺はわずかに眉を動かした。殺人狂としての嗅覚が、その言葉の裏に潜むナニカを検知する。
俺は吊るし上げていた魚人を、ゴミ箱へ放り込むような無造作さで床に放り出した。バキリと嫌な音がして魚人がのたうち回るが、そんなことはどうでもいい。
​魚人の村長「三つの『掟』があるのです......!」
​村長は震える声で、その呪われた約定を吐き出した。

『俺の存在を口外するな。
観光客を皆殺しにしろ。
三ヶ月に一度、もっとも美しい娘を差し出せ。』

魚人の村長​「守れなければ......村人全員の首を刎ね、この川を赤く染め上げると。あの方は、あの方は本物の悪魔なのです......!」
​村人の一団から、押し殺したような啜り泣きが漏れる。
俺は背中に回した二丁の大鎌の感触を確かめ、薄く笑った。
​キルン(......なるほど。頭の悪い独裁者が、この辺境で王様にでもなったつもりか。)
​その『あの方』とやらが、どれほどの強さを持っているかは知らんが、村人を皆殺しにするという手際に迷いがないあたり、それなりの殺しに慣れている個体だろう。
​キルン「ふうん。その『あの方』とやら、強いのか?」
​俺の問いに、村長は絶望に顔を歪ませて何度も頷いた。

​魚人の村長「勝てるはずがありません......! 槍も、魔法も、あの御方には掠りもしない。逆らう者は皆、肉の塊に変えられてしまった......。お方様、お願いです! あなたほどの腕があれば......どうか、我らをお助けください!」
​助ける。
反吐が出るほど、今の俺には似合わない言葉だ。
前の俺が、この魚人たちのように無力な者を救うようなお人好しの魔人だった可能性はゼロではないが......今の俺は違う。
キルン​(......だが、待てよ。ここでその『あの方』を殺せば、間違いなく極上の魂が楽しめる。そしてその後、希望に満ちたこの魚人共の顔を、再び絶望に染め上げてから一人ずつバラバラにするのは......想像しただけでも、食後のデザートとしては最高だ。)
​計画は決まった。
まずは、その悪魔とやらを屠って、自分の腕を慣らす。

救いを与えて、極限まで安心させてから、一番残酷な形でそれを叩き割る。逃がさないためにも一番
効率的で、実に頭の良いやり方だろう。
​キルン「......いいぜ。その『あの方』とかいうのを殺してやろう。俺は、理不尽を押し付けるようなヤツを刻むのが、何よりも好きでね」
​俺はわざとらしく、慈悲深い英雄のような笑みを浮かべて見せた。
村人たちの顔に、場違いな希望が灯る。
​魚人達「ああ......! おお、救世主様......!」
​キルン「感謝するなよ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ。......で、その娘を可愛がりたがっている変質者は、どこにいる?」
​俺は鎌の刃を指先でなぞり、その切れ味を確かめる。
川のせせらぎに混じって、新しい獲物の悲鳴が聞こえてくる予感に、俺の胸は心地よく躍っていた。

第12話「怒に焼かれし魚人の村」終
次回 第13話「怒に焼かれし魚人の村2」

2026/04/18 22:31

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