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復讐の狂い人

#14

白狐の仲間入り

散らばる肉片。鼻を突くような焦げた肉の臭いと、鼻腔の奥にこびりつく鉄錆のような血の臭い。それらによりソウマは興奮していたが、少しずつ醒めていく。
ソウマ(流石にやり過ぎた...燃やすか...)
火を起こして豚人之王を燃やす。
5分で燃やし尽くす。グチャグチャのミンチになってたから楽に灰に出来た。
​ヨツユ「……ぅ……ん……」
ヨツユが意識を取り戻すと、辺りは異様な熱気に包まれていた。
目の前では、巨大な火が上がっている。
​​ヨツユ「……ソウマ、君……? なに、をして……」
​ヨツユが呆然と呟くと、火を眺めていたソウマがひょいと振り返った。
その手には、どこから持ってきたのか大きな木の枝がある。それで焚き火を弄るように、何かを火の奥へと押し込んでいた。
​ソウマ「あ、起きました? 大丈夫ですか」
​ヨツユ「大丈夫、だけど……オークキングは……?」
​ソウマ「ああ、アイツなら死にましたよ。ほら、そこ」
​ソウマが顎で示した先には、巨大な骨の残骸が火に包まれている。
あまりにもあっけらかんとした言い方に、ヨツユは思考が追いつかない。
​ヨツユ「死んだって……ソウマ君が倒したの? あの化け物を……ひとりで……?」
​ソウマ「まぁ、運良く。アイツ、ヨツユさんとの戦いで疲れてたみたいですし、隙だらけだったんで。……というかヨツユさん、それより...」
​ソウマは、鼻を指でつまんで露骨に嫌そうな顔をした。
ソウマ​​「これ、すっごく臭いんですよ。血と肉の臭いっていうか、生ゴミの酷いやつみたいな。人を喰った魔物って、こんなに臭いんですね。放置して村に臭いが行くのも胸糞悪いし、衛生的にも良くないと思って、全部まとめて燃やしときました。酷い臭いでしたよ。あはは、鼻が曲がるかと思いました」
​ソウマはいつもの「モブ顔」で、近所の落ち葉でも焼いているかのような気軽さで笑った。
​だが、ヨツユは見た。
オークキングの死骸がくべてある炎は、通常の赤ではなく、どこか禍々しい色を孕んでいるように見えた。これは、近くの[漢字]死黒[/漢字][ふりがな]シコク[/ふりがな]の森(ソウマが女神に飛ばされた森)と同色。そして、「自分を殺しかけた最強の魔物」を、単なる「悪臭の源」として処理してのける少年の、異常さ。
明らかにおかしい。
​燃え盛る火柱を背に、ヨツユは静かにソウマへ向き直った。
その佇まいは、先ほどまでの「戦う少女」のそれとはどこか違い、周囲の空気がピンと張り詰めるような神聖さを帯び始める。
​ヨツユ「ソウマ君、本当にありがとう。君がいなかったら、私は今頃消えていたかもしれない。村も……守れなかった」
​ヨツユは深く頭を下げ、そして顔を上げた。その銀色の瞳が、夜の闇の中で微かに発光している。
​ヨツユ「隠していても仕方ないし、君には伝えておきたいんだ。……私はね、ただの獣人じゃない。この森と神社を護る役目を持つ神。人々からは白狐の神と言われています。」
​告げられた言葉に、ソウマは眼鏡の位置を指で少し直しただけで、驚く風でもなく淡々と応じた。
​ソウマ「……神、ですか。道理で術のキレが人間離れしてると思った」
​ヨツユ「……驚かないんだね。普通はもっと、こう……腰を抜かしたりするものだと思ってたんだけど」
​ソウマ「女神に捨てられてここに来た身ですからね。神様がその辺にいても、今更驚きませんよ。それに……」
​ソウマは足元の、かつてオークキングだった「灰」を一度だけ見下ろす。
​ソウマ「神でも死ぬ時は死ぬ。なら、僕にとっては人間とそんなに変わりません」
​ソウマ「……さあ、戻りましょう。神様がこんなところで油の臭いにまみれてるのも、あんまり格好良くないですし」
​ソウマがいつものように淡々と歩き出した時、背後からヨツユがタタッと駆け寄ってきた。
​ソウマ「……? ヨツユさん、神社はあっちですよ」
​ヨツユ「うん、わかってる。でも……決めた。私、これからソウマ君について行くことにするよ」
​ソウマ「……は?」
​思わず、ソウマの声が裏返った。
​ヨツユ「だって、君みたいに正体不明で、危なっかしくて、でも強い人間……放っておけないもん。それに、私の正体を知っても『死ぬ時は死ぬ』なんて言ったのは君が初めてだしね。」
​ソウマ「いや、迷惑なんですけど。僕は静かに過ごしたいし、目立ちたくないし……」
​ヨツユ「大丈夫! 神としての気配は消せるし、普段はただの狐の女の子として振る舞うから。それにほら、この世界の地理のことなら私、何でも知ってるよ? 案内役として便利だと思わない?()」
​ソウマ「…………(舌打ちしそうになるのを堪える)。勝手にしてください。邪魔だけはしないでくださいよ」
​ヨツユ「了解! よろしくね、ソウマ君」
ソウマ「...神社の仕事は良いんですか?」
ヨツユ「それは代理がいるから。...丁度来たみたいだし。」
??「……ちょっと、お姉ちゃん! 急に呼び出しておいて、この惨状は何!? それに、なんなのよその人間は……私たちのこと見えてるみたいだけど。」
​空間を裂いて現れたのは、ヨツユと瓜二つの白髪の狐耳を持つ少女――**白雪 朝涸(チョウカ)**だった。
彼女は鼻をつく焦げ臭さと、原型を留めない地面の抉れに顔を引き攣らせ、隣に立つソウマを忌々しげに睨みつける。
​ヨツユ「あ、チョウカ。ごめんごめん! 実はね、私、これからこのソウマ君について行くことに決めたから。あとの仕事、全部よろしくね!」
​チョウカ「はああぁ!? 何言ってるの!? 神社の結界はどうするのよ! そもそも、どこにでもいるような人間と一緒にいて何になるっていうのよ!」
​チョウカにとって、ソウマは「ただの無力な人間」にしか見えていない。
今のソウマは、徹底的に気配を消し、平凡な「モブ」としての皮を被っているからだ。
​だが、チョウカは無意識に、指先を小さく震わせていた。
理由は分からない。目の前の少年からは何の力も感じない。それなのに、彼が歩くたびに、この場の空気が「彼を避けている」ような、言語化できない薄気味悪さを感じていた。
​ヨツユ「あはは、いいからいいから。……じゃあチョウカ、あとはよろしく!」
​チョウカ「待ちなさいよお姉ちゃん! 説明しなさいよ! 戻ってきなさい、この大馬鹿お姉ちゃん!!」
​チョウカの怒号は、普通の人間の耳には「風の唸り」にしか聞こえない。
ソウマは、自分に向けられた神様の罵倒など聞こえていないかのように、無表情のまま神社の方向へと歩き出した。
​ヨツユ「あ、待ってよソウマ君! 置いてかないでー!」
​激怒する朝涸を置き去りにして、人には見えない「神」と、正体不明の「少年」は、夜の森へと消えていった。
後に残された朝涸は、ただ一人、消えない「嫌な予感」を抱えたまま、姉の消えた闇を睨み続けていた。

2026/01/22 11:13

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