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紅い執事の紅魔館生活

#8

博麗神社

博麗神社の長い石段を登りきったキルン。
辺りを見渡すと、そこには静謐(せいひつ)な境内と、お世辞にも繁盛しているとは言い難い古びた社がある。
キルン「(ここが博麗神社か......。手紙にはここに来いとあったが、肝心の紫の姿が見当たらないな。)」
​キルンが周囲をキョロキョロと見回しながら、待ち合わせの相手を探していると、縁側の方から不機嫌そうな、しかし鈴を転がすような声が響く。
​???「ちょっと。さっきからキョロキョロして、うちの境内に何か珍しいものでもあるわけ?」
​振り返ると、そこには紅白の巫女服に身を包んだ少女[打消し]――[/打消し]博麗霊夢が、箒を手に怪訝そうな顔で立っていた。
​霊夢「......あんた、見ない顔ね。里の人間でもなさそうだし、かと言ってそこらにいる妖怪とも雰囲気が違う。誰?」
​キルン「......博麗の巫女、か。10日程前から紅魔館でレミリアお嬢様に仕えている。キルン=フィアビュレジだ。キルンと呼んでくれ。八雲紫という人物に呼ばれて来た。この場所に来いと手紙で伺ったんだが。」
​霊夢「あいつ? ......はぁ、またあいつの仕業なわけ。あいつ、最近忙しいとか言って全然姿を見せないくせに、勝手に人を呼びつけたりするんだから。こっちは何も聞いてないわよ。」
霊夢はキルンの言葉を聞き流しながら、彼を頭の先からつま先までじろじろと観察する。その瞳には、単なる好奇心以上の、鋭い「選別」の光が宿る。
​霊夢「手紙には、ただ『来なさい』ねぇ......。あの食えない妖怪が、わざわざ呼び出すなんて、ただの挨拶で済むはずがないわ。あんた、自分がどれだけ目を付けられてるか分かってる?」
​霊夢は手に持っていた箒を傍らの柱に立てかけると、ゆっくりとキルンとの距離を詰めた。
​霊夢「紫が動くってことは、あんたにそれなりの『利用価値』があるってことよ。......ねえ。さっきから見てるけど、あんた、ただの家事手伝いって雰囲気じゃないわね。その立ち振る舞い、相当やり合ってきた口でしょう?」
​キルン「......。私はただの執事ですよ。レミリアお嬢様の身の回りのお世話をするのが仕事です。」
​霊夢「へぇ、あくまでしらを切るわけ。いいわよ、口で言わないなら身体で聞くのが一番手っ取り早いわ」
​霊夢がスッと指をかざすと、その周囲に数枚の御札が浮かび上がり、微かな魔力が大気を震わせました。
​霊夢「紫が来るまで暇だし、あんたがどれだけ『使い物』になるのか、私が直々にテストしてあげる。......安心しなさい、死なない程度に手加減してあげるから。.まあ、避けきれればの話だけどね!」
​霊夢の瞳が好戦的に細まり、境内の空気が一変する。
霊夢が放った無数の御札と光の弾。それは不規則な軌道を描き、逃げ場を奪うようにキルンへと収束していく
霊夢「......なっ!?」
​霊夢の目が見開かれる。
キルンは目を閉じて一歩、また一歩と、まるで鏡張りの床を滑るように動いていた。弾幕の荒嵐の中、彼の体は微かな無駄もなく、最小限の動きで紙一重の隙間をすり抜けていく。その動きは、回避というより、完成された舞踏。
​弾幕が空気を引き裂く鋭い音、わずかな大気の揺らぎ、そして発生する風圧。キルンはそのすべてを感じ取り、あたかも全方位が見えているかのように、燕尾服の袖を翻して舞うように避ける。
​霊夢(嘘でしょ......。私の弾幕を、目も開けずに? それもこんなに......優雅に!?)
​霊夢は焦燥に駆られ、弾幕の密度を上げる。しかし、どれほど隙間を埋めても、キルンはまるでそこにある風の流れに乗るかのように、スッとその道を通ってしまう。
キルン「博麗の巫女...その攻撃はもっと苛烈で、もっと自由なものだと聞いていた。俺のような新参者を試すには、この程度で十分という判断か?なら少し悲しいな。」
霊夢「......っ! 言うじゃない。......あんた、本当にただの執事なわけ?」
​霊夢は一度攻撃を止め、浮かんでいた御札を指に挟んで身構え直した。彼女の顔からは余裕が消え、目の前の男が「ただ者ではない」ことを本能で理解し始めていた。
キルン「ええ。ただの執事ですよ。ただの...ね。」
​霊夢「......『ただの』、ね。その割には、目が回るような動きじゃない。あの吸血鬼も、とんでもないのを拾ってきたものね。」
霊夢が次の札に指をかけ、本気でスペルカードを繰り出そうとしたその時。
二人の間に、空間が裂けるようにして「境界」が口を開く。
​無数の目が覗く不気味な隙間から、ひらひらと扇子を揺らしながら現れたのは、日傘を差した金髪の妖怪――八雲紫。
​紫「あらあら、ずいぶんと賑やかだこと。霊夢、あまり私のお客さんをいじめないであげてくれないかしら?」
​霊夢「......チッ、ようやく現れたわね。いじめるも何も、この執事、私の弾幕をまともに見もしないで避けたわよ。あんた、一体どこからこんな化け物を連れてきたのよ」
​紫はフフッ、と意味深な笑みを浮かべ、閉じた扇子を顎に当ててキルンをじっくりと眺めます。
​紫「化け物だなんて失礼ね。彼はレミリアが大切にしている、とても『優秀な』執事。......それにしてもキルン、期待以上の動きだわ。外の世界の理(ことわり)とは違うこの幻想郷の弾幕を、初見でそこまで見切るなんて。あなたの『過去』が少しだけ透けて見えるようだわ?」
​紫の視線は、まるですべてを見透かしているかのように鋭く、それでいてどこか芝居がかっています。
​キルン「......過分なお褒めにあずかり光栄だな。だが、紫。手紙の件をお伺いしても? 散策を勧めてくれた主をあまり長く待たせるわけにもいかないんでな。」
​紫「ええ、分かっているわ。本題に入りましょうか。霊夢、お茶の準備をしてくれる? 客人と、それから......『今後について』の話があるの。」
​霊夢「はあ? なんで私が......。まあいいわよ、ちょうど喉も乾いたし。キルンだっけ、あんたも縁側に座りなさい。ただし、畳を汚したら容赦しないわよ」
​霊夢が淹れた、少し渋みの強い緑茶から湯気が立ち上る。

紫は優雅に茶碗を傾け、キルンの落ち着き払った様子を観察するように目を細めた。
​紫「さて。キルン......改めて、幻想郷へようこそ。あなたがここに来てから十日。この世界には馴染めたかしら?」
​キルン「おかげさまで。主の気まぐれ、地下室の住人、沢山の魔法書にそれから門番の居眠り......刺激には事欠かない。執事としては、少しばかり賑やかすぎる気もするが。」
​紫「ふふ、紅魔館らしいわね。でも、私があなたを呼んだのは、単なる生存確認ではないの。......キルン。あなた、自分が『この世界の異物』であることを、どれほど自覚しているかしら?」
​紫は扇子を閉じ、コツンと縁側の板を叩く。その瞬間、周囲の空間に微かな歪みが生じた。
​紫「ここは幻想郷。あらゆる『忘れ去られたもの』が行き着く場所。けれど、あなたの根底にある力……そしてその再生能力。それは、私たちが知る既存のどの理(ことわり)とも微妙にズレている。まるで、世界そのものに拒絶されながら、同時に受け入れられている……そんな奇妙な均衡を感じるのよ」
​霊夢「(茶を啜りながら)......要するに、紫はあんたが『危ない爆弾』か『使える道具』か、ハッキリさせたいわけよ。私からすれば、あんたのその弾幕の見切り方だけで、十分警戒対象だけどね」
​キルン「......俺は、ここで平穏に主へ仕えたいだけなんだが。この世界を壊すつもりも、変えるつもりも今のところはない。」
​紫「ええ、今のところはね。でも、運命というのは残酷だわ。特にあの吸血鬼......レミリアがあなたを拾ったという事実。彼女は運命を操る。あなたが彼女の執事になったことも、ひょっとすると彼女が手繰り寄せた『必然』かもしれないわね。」
​紫は意味深に微笑むと、懐から一通の封書を取り出した。
​紫「これは、今後あなたが困った時に開きなさい。中には、幻想郷で『執事』として生き抜くための、ちょっとしたコツを記しておいたわ。......あ、そうそう。レミリアには、私からよろしく伝えておいて。『新しい玩具を壊さないように』ってね」
​キルンはそれを受け取り、懐へと仕舞う。
​キルン「......伝言、確かに預かった。さて、お茶も頂いたことだし、そろそろ失礼する。レミリアお嬢様から『珍しい食材』の調達を命じられているしな。」
​霊夢「食材? ......ああ、それなら裏山に珍しい山菜がいくつか生えてるわよ。あんたほどの腕なら、妖怪の縄張りくらい屁でもないでしょ」
​キルン「助かる。......博麗の巫女、良い手合わせだった」
​キルンが石段へと向かう背中を見送りながら、紫は静かに扇子を広げた。
​紫「......ふふ。さて、あの『異物』が紅い館でどんな波紋を起こすのか。楽しみだわ......」

キルンは霊夢に教わった通り、裏山で妖怪の妨害を軽く退けながら、瑞々しい山菜や不思議なキノコを確保し、紅魔館へと戻る。口調を執事口調に戻しながら。
​紅魔館・エントランス
​美鈴「あ、キルンさん! お帰りなさい......って、その籠の中身は何ですか? 凄く美味しそうな匂いがしますけど......」
​キルン「博麗神社への道中で見つけた食材です。......美鈴さん、寝てませんでしたよね?」
​美鈴「えっ!? ......え、ええ! 起きてましたよ! ずっと! 完璧に!」
​キルンの鋭い視線に冷や汗を流す美鈴を横目に、彼は厨房へと向かう。今夜の夕食は、レミリアの期待に応える「新しい味」になりそうだ。

2026/01/11 12:21

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