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紅い執事の紅魔館生活

#2

勧誘

キルンはゆっくりと目を開けた。
見慣れない豪華な室内、柔らかな暖炉の光。身体は布団に包まれ、どこか安全な場所にいることは分かるが、状況の理解にはまだ時間がかかる。

キルン「……ここは……?」
頭の中で整理しようとする間もなく、扉が静かに開き、従者の少女が顔を覗かせた。

美鈴「お目覚めですか、外来の方。お嬢様がお呼びです」

キルンは、一瞬、状況を把握しようと視線を向ける。
少女――紅美鈴は丁寧に一礼し、言葉を続ける。

美鈴「どうぞ、王の間へお進みください」

キルンは布団からゆっくりと起き上がり、まだ警戒心を緩めずに立ち上がる。
部屋を出ると、廊下を通り、やがて豪華な王の間に辿り着く。

そこには、優雅に座る紅いドレスの少女――レミリア・スカーレットが待っていた。

レミリアは軽く微笑む。
レミリア「やっと目を覚ましたのね、外来人。随分と面白い存在を見つけたわ」

キルンは一瞬、周囲を観察する。
豪華な装飾、紅魔館ならではの気品――そして、この部屋の中心に座る少女の存在感。
紫や森での戦いとはまるで異なる空気が、彼を包む。

レミリアはその反応を楽しむように微笑んだまま、挑発するように告げる。

レミリアは豪奢な椅子に腰掛け、足を組んだまま楽しげにキルンを見つめる。
対するキルンは警戒を解かず、短く問いを投げた。

キルン「……ここはどんな世界だ?」

その声音は静かだが、含まれるのは真剣な探求心。
ただ「場所」ではなく「世界そのもの」を問う姿勢に、美鈴がわずかに息を呑む。

レミリアは目を細め、くすりと笑った。
レミリア「ふふ……まず世界の全貌から知りたがるなんて、随分な物言いね。
普通なら、自分の身の安全や私の名前から聞くはずなのに」

キルン「安全かどうかは自分で判断する。
……それより、ここがどういう場所か理解しなければ動けない。」

レミリア「なるほど。……いいわ、教えてあげる。
ここは幻想郷。外の世界から忘れられたもの、捨てられたもの、居場所を失った人間や妖怪が集まる境界の箱庭。
この紅魔館も、その幻想郷に根を張った城のひとつにすぎない」

キルンは黙って聞き、わずかに眉を寄せた。
キルン「幻想郷……捨てられた者の楽園、か」

レミリア「楽園と言えるかどうかは、あなた次第ね」
レミリアは愉快そうに微笑む。
「人も妖怪も、互いに食い合う世界よ。
弱い者は淘汰され、強い者が支配する。
私が貴方を連れてきたのも――そういう理由」

キルンはじっとその言葉を噛みしめる。
やがて、低く静かに呟いた。

キルン「……なるほど、俺が知る世界とは随分違う。
ここでは、強さがすべてか」

レミリアは満足そうに頷いた。
レミリア「ええ、だからこそ――あなたのような存在がどんな力を見せてくれるのか、とても楽しみよ」

キルンは周囲の空気を確かめるように鼻を利かせ、鋭い視線をレミリアに向けた。
キルン「……そういえば。お前、吸血鬼か?微かだが血の匂いを感じる。」

王の間に、一瞬の静寂が走る。
美鈴が「ひっ」と小さく声を漏らし、隣で冷や汗を流す。
普通なら絶対に口にしない“核心”を、あまりに直截に言い放ったからだ。

レミリアは数秒間、じっとキルンを見つめ――やがて、口元をくいっと歪めて笑った。

レミリア「……あはは! 本当に面白いわね、あなた。
普通の人間なら、恐怖で震えて自分を誤魔化すのに。
堂々と『吸血鬼か』だなんて」

椅子から立ち上がり、ゆっくりとキルンに近づくレミリア。
紅い瞳が月光のように妖しく輝き、牙がちらりと覗く。

レミリア「ええ、その通りよ。私は吸血鬼――紅い悪魔、レミリア・スカーレット。
血の匂いに気付いた人間なんて、久しくいなかったわ」

キルンは目を細め、揺らがぬ声音で返す。
キルン「やっぱりな。……俺が知る吸血鬼の気配とは違うが、根っこは似ている。」

レミリア「ふふ……そちらの世界にも吸血鬼がいるのね。」
レミリアはその言葉に興味を引かれた様子で、さらに距離を詰める。

キルンがレミリアをじっと見て、わずかに苦笑しながら言う。

キルン「血を吸われるのはごめん被りたいな。……今まで吸血鬼に血を吸われて、良いことがあった試しがない」

王の間に沈黙が落ちる。
美鈴が「そ、それは……」と困惑するが、レミリアは逆に口元を吊り上げ、面白そうに笑った。

レミリア「ふふ……なるほど。
あなた、吸血鬼と関わったことがあるのね?
で、全部悪い思い出……と」

紅い瞳が、試すようにキルンを射抜く。

レミリア「だったら、私が“最初の例外”になってあげようかしら?」


キルンは肩をすくめ、真顔のまま答える。

キルン「いや、本当に止めた方が良い。
お互いに……黒歴史にしかなりそうにない。」

一瞬、空気が凍る。
美鈴は「く、黒歴史……?」と絶句。

だがレミリアはむしろその返しを気に入ったようで、唇を吊り上げて笑い出す。

レミリア「ふふっ……言うじゃない。
面白いわ、キルン。あなた、気に入った。
紅魔館の執事にならない?」

キルン「...?」

レミリアは椅子から立ち上がり、まるで獲物を射止めた捕食者のようにゆっくりとキルンへ歩み寄る。
紅い瞳が月明かりのように妖しく輝き、微笑は挑発にも似ていた。

レミリア「どう? 悪い話じゃないでしょう? この館に仕えれば、あなたは守られる。外来人としてこの世界を彷徨うよりもずっと“安全”にね」

キルンは黙ってその言葉を噛みしめる。
助けられた事実、この世界を知らない現実――そして、彼女の言葉の裏に潜む“選択肢は他にない”という圧。

数秒の沈黙のあと、キルンはゆっくりと瞼を伏せ、低く答えた。

キルン「……分かった。」

王の間に、静寂が走る。

美鈴が安堵の吐息を漏らす中、レミリアは満足そうに口元を吊り上げた。
レミリア「ふふ……賢明な判断ね。ようこそ、紅魔館へ――私の執事、キルン。」

紅魔館の空気が一層濃く重くなり、彼の新たな日々が幕を開けた。

2026/01/11 12:20

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