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食物戦記

#9

リ、諜報

 ある晩。おにぎり国の上空に、人知れず巨大な飛行船が襲来した。だがそれは爆撃や空挺部隊の投入などは行わず、首都ウメボシ都の郊外にたった一つの小さな影を落として、再び誰にも気づかれず、どこかへ消えてしまった……。
 明朝。あるおにぎりは、自分が管理する雑木林の中に、誰かの姿を認めた。
「もしもし、あんた、ここで何してるん。」
「……。ア、オハヨございます!私、不審な者デハございません!」
薄い紙に包まれた誰かが応答する。
「……。」
「……。」
「もっかい訊くが、あんたここで何をしよった。」
「と、唐辛子を探していまシタ!私はスパイスを作って売る商人です!」
「とりあえず、その上着を脱いで姿を見せてくれ。」
「ハイ……。」
包みが剥がれ、そこに立っていたのはハンバーガーだった。ハンバーガーといえば、今まさにおにぎりと敵対関係にある存在だ。しかし、管理人おにぎりはさほど驚いていない様子だ。
「あんた、もしかして移民ね。」
開戦前からおにぎり国にいた難民や移民は、おにぎり国に利さない行動をとる者を除いて、戦時中もおにぎり国に留まることを許されている。完璧とまではいかなくともなかなか堪能なおにぎり語や、商人と名乗る様子を見て、彼はその者を移民と判断したのだろう。
「しかしあんた。ここで食材を採取するなら、事前に私に通告せんと、お巡りさんにしょっぴかれるぞ。この国の法律に慣れていないのはわかるが、次から気をつけるんだな。」
「ハイ、お騒がせしまシタ!お詫びにこれをどうぞ!レモンから作った香辛料です、スッパイでしょう。」
「おう、そんなら頂いとくか。」
「アリガトございます!デハ、私はこれで。ハブアナイスデイ!」
管理人おにぎりと、商人のハンバーガーは別れた。
 しばらくして、おにぎりの姿が見えなくなるとハンバーガーは静かに笑みを浮かべた。
「作戦は成功した……!さすがは私……!」
商人は、いや、商人の設定であるハンバーガーは、本国より送り込まれたスパイだったのだ。彼は早速トランク型の秘密道具で暗号を送信した。
( コウシンリョウ ウリキレ ザイリョウ ヲ チョウタツ スル )
「これより情報収集を始める」と言う意味だ。彼はそびえる木々の間から、遠くに見える今日のウメボシ都の繁栄を目にした。
「身の丈に合わない発展が崩れ落ちる日を見るのが楽しみだ……。」
ハンバーガー商人は雑木林を出て、歩き始めた。香辛料と国家機密を取引するために。
 数日経って。いくつかの工廠を巡って軍機を頂戴してきた彼は、いよいよ本命のおにぎり軍事省に挑むことにした。
「香辛料入りませんかァァァ!」
表で騒ぎ立てるハンバーガーに、正門から出てきたおにぎりの役人が慌てて対応する。
「あなた、事前に連絡をくれなきゃ取り次げないよ。」
それでもハンバーガーは喚くので、次第に役人も力づくで退かそうとするようになった。するとハンバーガーはここぞとばかりに
「ワー!お役人がいじめる!国家の中枢ともあろうお方がっ。哀れな一般庶民にぃ、果たしてこんな乱暴をしても良いのでしょうかぁぁぁ!」
門の前を通りかかる者たちが、役人を白けた目で見始めた。
「……!あなた、一旦こっち来なさい!」
勢いに負けた役人はハンバーガーの手を引いて省内に入って行った。
 それこそがハンバーガーの狙いだった。
「あなた、一体何の用があってここに?!」
息を荒げた役人がハンバーガーに問うが、彼は平然として、「香辛料を売りにきた」と答えた。
「うちは料理屋じゃないよ。気が参ってるのなら休ませたげるから、早く帰ってくれ。」
「私はお役人様にではなく、ここの食堂に用事があるんデスよ!」
「そ、そっか……。」
役人の案内で食堂までやってきたハンバーガーは、巧みな話術と確かな味のサンプルの提供で、香辛料の売買契約を食堂のオカンと取り付けた。食堂には多くの職員が集まるから、今後の情報パイプとするのだ。
「お役人様、本日はお騒がせしまシタ!お詫びにこれをどうぞ。」
半ば追い出されるような形で、ハンバーガーは役人と外に出た。
「これも……。香辛料かい。」
「はい、これはお茶から作ったとっておきです。ご賞味あれ!」
役人がその風味を確かめる。だが。
「あれ、なんだか……気分が……。」
すかさずハンバーガーは人目のつかない場所に役人を移動させ、そして問うた。
「軍事省に、裏口はいくつある。現在進行中の計画はあるか、あるならそれは何だ。それから……。」
「駐車場に一つと、地下連絡通路が隣の建物から二つ伸びている……秘密兵器「ファットマン」の開発と……自由州への本格的な……攻勢が……。」
そこまで言って、役人は深い眠りについた。ハンバーガーが茶っ葉から作った香辛料、改め自白剤のためだ。眠気を誘うお茶の働きを極端に高め、対象者の意識を朦朧とさせるのだ。
「よし、こいつに土産程度にくれてやった自白剤が、まさかここまでの働きをするとは。なかなか面白い話を聞けたよ。私とこの世にさよならをしな。」
証拠隠蔽のために、ハンバーガーは未だ眠っているおにぎりの海苔を剥がし、具のツナマヨの部分をくり抜いて、彼[漢字]の[/漢字][ふりがな]を[/ふりがな][漢字]鮮度を無くし[/漢字][ふりがな]絶命させ[/ふりがな]た。
 全てはハンバーガー国のために……。ハンバーガーは、繕った温和な表情に宿る鋭い眼光で、次の獲物を探した。

作者メッセージ

初めて学タブで書きました。安定の2000文字ボリュームをお楽しみいただけましたか。

2025/03/05 20:26

黒田清兵衛・活動縮小中
ID:≫ 8iKGx3.F3GK8Y
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PG-12 #暴力表現戦争

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