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蝉時雨が降り注ぐ午後。
縁側で風鈴が涼やかな音を立てていた。
磨き上げられた廊下は、庭の木々の緑を映し出し、まるで小さな森の中を歩いているようだ。
祖母の家は、この時期になるといつも穏やかな時間が流れていた。
私は小さな座卓に向かい、宿題のドリルを広げている。
しかし、鉛筆はなかなか進まない。
時折、庭から聞こえる風鈴の音に誘われて、ぼんやりと外を眺めてしまう。
木陰には、祖父が大事に育てている朝顔が、鮮やかな青や紫の花を咲かせている。
「おや、もうそんな時間かね」
台所から、祖母の声が聞こえてきた。
その手には、冷たい麦茶と、ガラスの器に盛られたところてん。
ぷつりと切れた寒天に、甘酸っぱい黒蜜をかけてくれる。
つるりと喉を通る涼しげな感触に、体の熱が少しずつ引いていくのを感じた。
「あのね、おばあちゃん。夏って、どうしてこんなに時間がゆっくり流れるのかな」
私が問いかけると、祖母はにこやかに笑い、私の頭をそっと撫でた。
「さあね。でも、きっとそれは、この暑さの中に、一瞬の涼しさを見つけるための、神様からの贈り物なんじゃろうね」
その言葉に、私はなんだか納得した。
夏は、ただ暑いだけじゃない。
風鈴の音、麦茶の冷たさ、朝顔の鮮やかさ。
一つ一つの風物詩が、過ぎゆく時間を愛おしく感じさせてくれるのだ。
宿題の続きを始めようと、再び鉛筆を握る。
今度は、さっきよりもずっと、集中できそうな気がした。
窓の外では、まだ蝉が力いっぱい鳴いている。
その声が、夏の終わりを遠くに感じさせながら、私に静かに寄り添っていた。