エイレネ有数の大工場が広がる、第4区。
入り組んだパイプの中に巧妙に隠された、フォーミュラのアジトの出入り口に、二人の男女が佇んでいた。
両者とも服はボロボロ、体もボロボロだ。
しかし、その目には鋭い光が宿っていた。
女側——フォーミュラリーダー・祖霊亜衣が、荒く息を吐いて言った。
「っふー。……君たちってさ、なんでそんな、私らを執拗に殺そうとするの? 前からっ……思ってたん、だけど、さ」
「うーん……僕にも分かんないなあ……教祖の考えてることは」
一見女のように見える男、聖騎士団長・胡桃真帆が言う。
声色は余裕を装っているが、体のあちこちに銃弾が掠った痕があった。
こちらも、息が荒い。
「ねえっ、そろそろ死んでくんない……?
君、もうボロボロじゃん。
僕の剣、毒が塗ってあるんだけど……
そろそろ毒が回って動けなくなるよ?
毒はね、苦しいよ?
何せ僕お手製の神経毒だから。
毒で死ぬより、剣で胸を一突きの方が、苦しまず逝けるんじゃない♡?」
「あはは……ボロボロはお互い様でしょうよ。どっちが先に死ぬか、我慢比べしよっか?」
亜衣が緩く挑発の笑みを浮かべると、ギリリと唇を噛み、真帆が剣を構えて向かってきた。
速い。
速いが、最初に比べれば圧倒的に遅い。
対応し切れないほどではない……
相手が疲れてきている証拠だ。
(……まあ、私も正直だいぶヤバいけどね)
剣に毒が塗ってあるというのは、本当なのだろう。
既に、手足に若干痺れを感じている。
引き金に掛けた指が震える。
足が固まって、動かしにくい。
でも、
(でも、私がコイツを倒さないと、みーちゃんが)
美咲だけじゃない。
生き残ったフォーミュラのみんなが。
多分、あと数日で人生を終えることになってしまう。
そんなの絶対ダメだ。
フォーミュラのリーダーとか、そういう肩書き云々関係なく、私の個人的な思いで、みんなには死んでほしくない。
亜衣は真帆の攻撃を間一髪で交わし、振り向き様に銃弾を放とうとした。
しかし、引き金に掛けた指に力を込めたところで、視界がぐわんぐわんと渦巻き出した。
「っ、かは……」
脳髄を引っ掻き回されるような、激しい不快感が襲う。
亜衣は地面にガクリと膝をついた。
「あ、毒が効いたかな……? 残念だったね♡」
動けなくなり、膝をついたまま頭を抱えて痙攣する亜衣の側に、真帆が立った。
剣の切先を向け、ニッと笑みを浮かべる。
「我慢比べ、僕の勝ちだね……
あ、マズい。人が来た」
戦闘の騒がしさを不審に思った工場のスタッフが、ザワザワとこちらに向かってきていた。
血まみれになって地面に膝をつく亜衣と、剣を持っている真帆を見て、スタッフが悲鳴をあげる。
「う、うわぁぁぁあああぁぁ!!!
ひ、人が、人が……」
「っね、ねえ、あの倒れてるの、人外じゃない? ほら、頭にツノが生えてる」
「ほ、本当だ……早く、誰か!! 警備隊に通報を!!!」
「あ、見て。あの立ってるの、もしかしてパラミシア教団の騎士様?」
「本当だ! ああ、良かった。きっと人外を討伐しに来たんだな。おい、お前ら! 警備隊に通報する必要ないぞ。騎士様がいらっしゃるからな」
真帆は、混乱する工場のスタッフたちに向かって、人懐っこく笑って手を振った。
「こんにちは! 僕もうすぐ討伐し終えますから、心配入りませんよ」
「ありがとうございます!! いやー良かった。騎士様がいなかったら、俺らとっくの前に殺されてましたよー! 助かりました!!」
スタッフたちの取りまとめ役と思しき中年男性が、豪快に笑ってお辞儀をする。
(……あー、いっつもこんな感じだな。私の人生)
私のことを親娘という名の鎖で縛り、徹底的に壊そうとしてくる親。
見て見ぬふりをして、冷ややかな態度を取る親戚。
周りの人は、誰も助けてくれない。
手を差し伸べられたことなんて、一度もない。
最初は優しくても、みんな、私の頭のツノを見たら態度を急変する。
誰からも愛されず、忌み嫌われるだけの人生。
私だって。
(私だって、普通に食べて寝て、普通に愛されて、普通に愛して死にたかった……)
真帆の剣が、目の前まで迫ってくる。
亜衣は目を閉じた。
……その時だった。
パアン、と、生々しい打撃音が響いた。
「亜衣さん、大丈夫!?」
「……なつ、め?」
入り組んだパイプの中に巧妙に隠された、フォーミュラのアジトの出入り口に、二人の男女が佇んでいた。
両者とも服はボロボロ、体もボロボロだ。
しかし、その目には鋭い光が宿っていた。
女側——フォーミュラリーダー・祖霊亜衣が、荒く息を吐いて言った。
「っふー。……君たちってさ、なんでそんな、私らを執拗に殺そうとするの? 前からっ……思ってたん、だけど、さ」
「うーん……僕にも分かんないなあ……教祖の考えてることは」
一見女のように見える男、聖騎士団長・胡桃真帆が言う。
声色は余裕を装っているが、体のあちこちに銃弾が掠った痕があった。
こちらも、息が荒い。
「ねえっ、そろそろ死んでくんない……?
君、もうボロボロじゃん。
僕の剣、毒が塗ってあるんだけど……
そろそろ毒が回って動けなくなるよ?
毒はね、苦しいよ?
何せ僕お手製の神経毒だから。
毒で死ぬより、剣で胸を一突きの方が、苦しまず逝けるんじゃない♡?」
「あはは……ボロボロはお互い様でしょうよ。どっちが先に死ぬか、我慢比べしよっか?」
亜衣が緩く挑発の笑みを浮かべると、ギリリと唇を噛み、真帆が剣を構えて向かってきた。
速い。
速いが、最初に比べれば圧倒的に遅い。
対応し切れないほどではない……
相手が疲れてきている証拠だ。
(……まあ、私も正直だいぶヤバいけどね)
剣に毒が塗ってあるというのは、本当なのだろう。
既に、手足に若干痺れを感じている。
引き金に掛けた指が震える。
足が固まって、動かしにくい。
でも、
(でも、私がコイツを倒さないと、みーちゃんが)
美咲だけじゃない。
生き残ったフォーミュラのみんなが。
多分、あと数日で人生を終えることになってしまう。
そんなの絶対ダメだ。
フォーミュラのリーダーとか、そういう肩書き云々関係なく、私の個人的な思いで、みんなには死んでほしくない。
亜衣は真帆の攻撃を間一髪で交わし、振り向き様に銃弾を放とうとした。
しかし、引き金に掛けた指に力を込めたところで、視界がぐわんぐわんと渦巻き出した。
「っ、かは……」
脳髄を引っ掻き回されるような、激しい不快感が襲う。
亜衣は地面にガクリと膝をついた。
「あ、毒が効いたかな……? 残念だったね♡」
動けなくなり、膝をついたまま頭を抱えて痙攣する亜衣の側に、真帆が立った。
剣の切先を向け、ニッと笑みを浮かべる。
「我慢比べ、僕の勝ちだね……
あ、マズい。人が来た」
戦闘の騒がしさを不審に思った工場のスタッフが、ザワザワとこちらに向かってきていた。
血まみれになって地面に膝をつく亜衣と、剣を持っている真帆を見て、スタッフが悲鳴をあげる。
「う、うわぁぁぁあああぁぁ!!!
ひ、人が、人が……」
「っね、ねえ、あの倒れてるの、人外じゃない? ほら、頭にツノが生えてる」
「ほ、本当だ……早く、誰か!! 警備隊に通報を!!!」
「あ、見て。あの立ってるの、もしかしてパラミシア教団の騎士様?」
「本当だ! ああ、良かった。きっと人外を討伐しに来たんだな。おい、お前ら! 警備隊に通報する必要ないぞ。騎士様がいらっしゃるからな」
真帆は、混乱する工場のスタッフたちに向かって、人懐っこく笑って手を振った。
「こんにちは! 僕もうすぐ討伐し終えますから、心配入りませんよ」
「ありがとうございます!! いやー良かった。騎士様がいなかったら、俺らとっくの前に殺されてましたよー! 助かりました!!」
スタッフたちの取りまとめ役と思しき中年男性が、豪快に笑ってお辞儀をする。
(……あー、いっつもこんな感じだな。私の人生)
私のことを親娘という名の鎖で縛り、徹底的に壊そうとしてくる親。
見て見ぬふりをして、冷ややかな態度を取る親戚。
周りの人は、誰も助けてくれない。
手を差し伸べられたことなんて、一度もない。
最初は優しくても、みんな、私の頭のツノを見たら態度を急変する。
誰からも愛されず、忌み嫌われるだけの人生。
私だって。
(私だって、普通に食べて寝て、普通に愛されて、普通に愛して死にたかった……)
真帆の剣が、目の前まで迫ってくる。
亜衣は目を閉じた。
……その時だった。
パアン、と、生々しい打撃音が響いた。
「亜衣さん、大丈夫!?」
「……なつ、め?」