「パトロールお疲れ様っス、棗ちゃん。それにしても、棗ちゃんは凄いっスね。1日中歩き回ったのに、まだ体力に余裕ありそうじゃないっスか。こんなにちっちゃいのになあ」
「そんなことないよ! 強いて言うなら、普段から鍛えてるからかな?」
時は夕暮れ時。
あたしと棗ちゃんは1日のパトロールを終え、警備隊本部への帰路についていた。
そのとき、背後から声がした。
「ねぇ君、もしかして警備隊員??」
あたしと棗ちゃんは、慌てて振り返った。
そこには、小さな女の子が立っていた。
肩まで伸びた鈍く光る銀髪に、薄暗くも鮮やかな群青の瞳が輝いている。
一瞬見惚れたが、すぐに気を取り直す。
この子、あたしと棗ちゃんの背後を取りやがった。
それも、いとも容易く。
あたしは警備隊の中でも筋金入りの鈍感だから仕方ないにしても、入隊テストの実技試験でかなりの高得点を叩き出したらしい棗ちゃんの感知を掻い潜るとは。
顔から体へと視線を移すと、その女の子が空色と白色で染まった騎士服を着ていることが分かった。
腰には、豪奢な飾りのついたサーベルが差さっている。
あたしは、その騎士服の意匠に見覚えがあった。
無意識に顔を顰める。
「そうですけど……あんたこそ、もしかしてパラミシア教団の人っスか? それも、かの聖騎士団の」
「ご名答だね♡ その通り。僕はパラミシア教団の、聖騎士団の者だよ〜。警備隊に用があるんだけど、ちょっと案内してくれないかな♡?」
「……棗ちゃん?」
ふと隣を見遣ると、棗ちゃんがパラミシア教団の少女を睨みつけていた。
どうしたんだろうか。
まさか、パラミシア教団に何か恨みがあるのだろうか?
あってもおかしくはない。何を隠そう、パラミシア教団は犯罪スレスレの行為を繰り返している要警戒組織なのだから。
「大丈夫っスか?」
「っあ、何でもないよ! 大丈夫!」
「ふーん。そこの女の子、なかなか可愛いじゃん♡ 僕には及ばないにしても、僕以外の奴と比べればまあまあ良い方なんじゃない? ねえ君、名前は?」
「……お前に名乗る名前なんてない」
「へぇ〜。随分と強気だね?」
「えぇっと……うちの後輩にちょっかいかけるのはちょっと勘弁してくれません?」
「あっはは、ゴメンゴメン。この子せっかく顔は可愛いのに、僕のこと睨んでくるからさあ〜♡ どうしたのかなって思って、ちょっと意地悪しちゃった♡」
「……それと、あたしもまだ新入りの身なんで、上の許可なしに客人を案内することはできないんっスよ。すみませんけど、他の人をあたってくれやしませんかね?」
「あちゃー、そりゃ残念。分かったよ、他の警備隊員を探してみるね♡ ありがとう!」
女の子はパチリとウインクをし、その場を去った。
歩くときの足の動かし方、身のこなし、そしてフレンドリーな態度を取りつつも、僅かに感じられる警戒の網。
言うまでもなく、かなりの手練れだ。
パラミシアの聖騎士団の実力はよく分からないが、もし警備隊に入隊したら一瞬で幹部にまで上り詰められそうである。
見た目だけで言えば、棗ちゃんと同じくらいの年齢に見えるんだけどな。
なんでこうも世の中には、あたしよりちっちゃくてあたしより強い子が多いのか。
まあ、あたしは別に強くなりたくて警備隊に入ってわけじゃないからいいんだけど。やっぱ、ちょっとは悔しいかな。
「アイラさん、ぼくもうちょっとパトロールしたいかも」
「え、マジっスか? あんだけ歩いたのに?」
「うん。だから、本部に戻るのはもうちょっと後にしよ?」
「まあ、いいっスけど……あんま無理しないでくださいね?」
「もちろん!」
可愛い。
どうしてこうも、私より強くてちっちゃい子はみんな可愛いのか。
強さと可愛さは比例するのだろうか。
そんなくだらないことで脳の容量を食いながら、あたしは棗ちゃんを連れて歩き出した。
[水平線]
朱雀悠希は、隊長室で事務作業をしていた。
政府から延々と送られ続ける、意味のない事務的な書類に、ポタポタとハンコを押すだけ。
正直、もうなんかハンコ押し機みたいな機械を作ってそれで消化した方が良いような気もするが、立場上自分が押さなければ書類としての効力が無くなってしまうのだから、これほど厄介なことはない。
厄介で、しかも面倒臭い。
ハンコを持つ手が若干痺れてきたところで、隊長室の扉が控えめに叩かれた。
「どうぞ。何か用?」
「えっと、あの、隊長……お客様がお見えです……」
ボソボソと女性の声がする。
悠希は書類から目を離さず、作業を続けながら言った。
「僕今忙しいんだ。鳴海に任せてくれない?」
「いや、しかし……」
「何か問題が?」
「どうやらそのお客様、パラミシア教団の関係者様のようで」
「ああ……」
警備隊副隊長の鳴海雄斗。
なかなか仕事熱心でデキる男だが、どうやら家族をパラミシア教団に殺されたことがあるらしく、たまに精神的に不安定な時期が来る。
そんな男にパラミシア教団関係者の相手を任すのは、流石に酷だろう。
「分かったよ。その客人、応接室に案内しといて」
「は。了解です」
しかし、パラミシア教団か。
これはなかなか厄介なことになりそうだ。
厄介な仕事をしていたら、厄介な客人が来た。
悠希は内心、頭を抱えずにはいられなかった。
[水平線]
悠希が苦労人ムーヴをかました、次の日の朝。
エイレネ第1区の端に聳える、パラミシア教団本部の建物。
太古の宮殿のような雄麗さを持つ、城のような形の建造物に、人影があった。
色とりどりの美しいステンドグラスから朝日が差し込む、本部の会議室にて、バァァンという美しい建物に似合わぬ物騒な音が響いた。
会議室の木製机を勢いよく叩いた、長身の男——[漢字]朱鳥[/漢字][ふりがな]あすか[/ふりがな][漢字]零[/漢字][ふりがな]れい[/ふりがな]は、刃こぼれの酷くなった刀身のような荒削りな声を張り上げた。
「人外を発見したと言うのに、殺さなかったばかりか、攻撃のひとつもしなかっただと!?!? ふざけるな!!」
「まーまー、零くん。ちょっと落ち着きなよ〜♡」
「お前に言ってんだよ、このオカマが!!」
「ひっどいなぁ……仮にも誇り高き聖騎士団の副団長ともあろう者が、こんな汚い言葉遣いをするなんて。団員に知れたらどうなるだろうね♡」
「話を逸らすなクソ野郎。“人道を外れ、欲に身を任せし人外は、世にとって害なるものなり。根元から滅するべきである”——教典の157行目に書いてあるだろうが!」
「ページを覚えてるってのならまだ分かるけど、行を覚えてるのはもはや変態的だね……僕、ドン引きだよ」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
零は盛大に溜息を吐くと、ぼそりと呟いた。
「しかし、警備隊に人外が紛れ込んでいるなんて……朱雀の野郎は一体何をやっているんだ?」
「やー、その点に関しては隊長さんに言ったんだけど、どうやら気付いてはいるっぽい」
「気付いてるのに、放ってあるってことかよ!?!?」
「なーんで人外の話になるとそんなバカでかい声が出るんだろうね♡ 少しは落ち着きなよ、零くん」
「……とっとと朱雀の真意を教えろ。訊いてきたんだろ?」
「それがね、上手いことはぐらかされちゃった。あの朱雀? さんって隊長さん、なかなかやるね。隊長じゃなくて、詐欺師としても生計立てれるんじゃない♡?」
「クソ……」
零は、ギリギリと苛立たしげに歯軋りをした。
何か思考を巡らせるように、瞳を宙に向ける。
「おーい、零くん? どうしたの♡?」
「……俺が始末する」
「……え?」
「俺がその、警備隊に紛れ込んでる人外を殺ってくる。教祖様も、きっと許可して下さるだろうからな」
「……ふーん♡ 勝手にすれば?」
「ああ、勝手にさせて貰うとしよう」
零は机に置いてあったナイフと拳銃を掴み、指でクルクルと回してから腰のホルダーに差した。
反動をつけて椅子から立ち上がり、くるりと振り返る。
「[漢字]胡桃[/漢字][ふりがな]くるみ[/ふりがな]、お前はフォーミュラの対応に回れ」
「いや、なんで副隊長の零くんが隊長の僕に指図s
ガチャン。
会議室の扉をくぐった零が、ドアを思い切り閉めた。
残された胡桃はしばらくぼーっとした後、髪を耳にかけながら椅子から立った。
「まあ……フォーミュラの相手するのも、悪くないか」
「そんなことないよ! 強いて言うなら、普段から鍛えてるからかな?」
時は夕暮れ時。
あたしと棗ちゃんは1日のパトロールを終え、警備隊本部への帰路についていた。
そのとき、背後から声がした。
「ねぇ君、もしかして警備隊員??」
あたしと棗ちゃんは、慌てて振り返った。
そこには、小さな女の子が立っていた。
肩まで伸びた鈍く光る銀髪に、薄暗くも鮮やかな群青の瞳が輝いている。
一瞬見惚れたが、すぐに気を取り直す。
この子、あたしと棗ちゃんの背後を取りやがった。
それも、いとも容易く。
あたしは警備隊の中でも筋金入りの鈍感だから仕方ないにしても、入隊テストの実技試験でかなりの高得点を叩き出したらしい棗ちゃんの感知を掻い潜るとは。
顔から体へと視線を移すと、その女の子が空色と白色で染まった騎士服を着ていることが分かった。
腰には、豪奢な飾りのついたサーベルが差さっている。
あたしは、その騎士服の意匠に見覚えがあった。
無意識に顔を顰める。
「そうですけど……あんたこそ、もしかしてパラミシア教団の人っスか? それも、かの聖騎士団の」
「ご名答だね♡ その通り。僕はパラミシア教団の、聖騎士団の者だよ〜。警備隊に用があるんだけど、ちょっと案内してくれないかな♡?」
「……棗ちゃん?」
ふと隣を見遣ると、棗ちゃんがパラミシア教団の少女を睨みつけていた。
どうしたんだろうか。
まさか、パラミシア教団に何か恨みがあるのだろうか?
あってもおかしくはない。何を隠そう、パラミシア教団は犯罪スレスレの行為を繰り返している要警戒組織なのだから。
「大丈夫っスか?」
「っあ、何でもないよ! 大丈夫!」
「ふーん。そこの女の子、なかなか可愛いじゃん♡ 僕には及ばないにしても、僕以外の奴と比べればまあまあ良い方なんじゃない? ねえ君、名前は?」
「……お前に名乗る名前なんてない」
「へぇ〜。随分と強気だね?」
「えぇっと……うちの後輩にちょっかいかけるのはちょっと勘弁してくれません?」
「あっはは、ゴメンゴメン。この子せっかく顔は可愛いのに、僕のこと睨んでくるからさあ〜♡ どうしたのかなって思って、ちょっと意地悪しちゃった♡」
「……それと、あたしもまだ新入りの身なんで、上の許可なしに客人を案内することはできないんっスよ。すみませんけど、他の人をあたってくれやしませんかね?」
「あちゃー、そりゃ残念。分かったよ、他の警備隊員を探してみるね♡ ありがとう!」
女の子はパチリとウインクをし、その場を去った。
歩くときの足の動かし方、身のこなし、そしてフレンドリーな態度を取りつつも、僅かに感じられる警戒の網。
言うまでもなく、かなりの手練れだ。
パラミシアの聖騎士団の実力はよく分からないが、もし警備隊に入隊したら一瞬で幹部にまで上り詰められそうである。
見た目だけで言えば、棗ちゃんと同じくらいの年齢に見えるんだけどな。
なんでこうも世の中には、あたしよりちっちゃくてあたしより強い子が多いのか。
まあ、あたしは別に強くなりたくて警備隊に入ってわけじゃないからいいんだけど。やっぱ、ちょっとは悔しいかな。
「アイラさん、ぼくもうちょっとパトロールしたいかも」
「え、マジっスか? あんだけ歩いたのに?」
「うん。だから、本部に戻るのはもうちょっと後にしよ?」
「まあ、いいっスけど……あんま無理しないでくださいね?」
「もちろん!」
可愛い。
どうしてこうも、私より強くてちっちゃい子はみんな可愛いのか。
強さと可愛さは比例するのだろうか。
そんなくだらないことで脳の容量を食いながら、あたしは棗ちゃんを連れて歩き出した。
[水平線]
朱雀悠希は、隊長室で事務作業をしていた。
政府から延々と送られ続ける、意味のない事務的な書類に、ポタポタとハンコを押すだけ。
正直、もうなんかハンコ押し機みたいな機械を作ってそれで消化した方が良いような気もするが、立場上自分が押さなければ書類としての効力が無くなってしまうのだから、これほど厄介なことはない。
厄介で、しかも面倒臭い。
ハンコを持つ手が若干痺れてきたところで、隊長室の扉が控えめに叩かれた。
「どうぞ。何か用?」
「えっと、あの、隊長……お客様がお見えです……」
ボソボソと女性の声がする。
悠希は書類から目を離さず、作業を続けながら言った。
「僕今忙しいんだ。鳴海に任せてくれない?」
「いや、しかし……」
「何か問題が?」
「どうやらそのお客様、パラミシア教団の関係者様のようで」
「ああ……」
警備隊副隊長の鳴海雄斗。
なかなか仕事熱心でデキる男だが、どうやら家族をパラミシア教団に殺されたことがあるらしく、たまに精神的に不安定な時期が来る。
そんな男にパラミシア教団関係者の相手を任すのは、流石に酷だろう。
「分かったよ。その客人、応接室に案内しといて」
「は。了解です」
しかし、パラミシア教団か。
これはなかなか厄介なことになりそうだ。
厄介な仕事をしていたら、厄介な客人が来た。
悠希は内心、頭を抱えずにはいられなかった。
[水平線]
悠希が苦労人ムーヴをかました、次の日の朝。
エイレネ第1区の端に聳える、パラミシア教団本部の建物。
太古の宮殿のような雄麗さを持つ、城のような形の建造物に、人影があった。
色とりどりの美しいステンドグラスから朝日が差し込む、本部の会議室にて、バァァンという美しい建物に似合わぬ物騒な音が響いた。
会議室の木製机を勢いよく叩いた、長身の男——[漢字]朱鳥[/漢字][ふりがな]あすか[/ふりがな][漢字]零[/漢字][ふりがな]れい[/ふりがな]は、刃こぼれの酷くなった刀身のような荒削りな声を張り上げた。
「人外を発見したと言うのに、殺さなかったばかりか、攻撃のひとつもしなかっただと!?!? ふざけるな!!」
「まーまー、零くん。ちょっと落ち着きなよ〜♡」
「お前に言ってんだよ、このオカマが!!」
「ひっどいなぁ……仮にも誇り高き聖騎士団の副団長ともあろう者が、こんな汚い言葉遣いをするなんて。団員に知れたらどうなるだろうね♡」
「話を逸らすなクソ野郎。“人道を外れ、欲に身を任せし人外は、世にとって害なるものなり。根元から滅するべきである”——教典の157行目に書いてあるだろうが!」
「ページを覚えてるってのならまだ分かるけど、行を覚えてるのはもはや変態的だね……僕、ドン引きだよ」
「はぁぁぁぁぁぁ……」
零は盛大に溜息を吐くと、ぼそりと呟いた。
「しかし、警備隊に人外が紛れ込んでいるなんて……朱雀の野郎は一体何をやっているんだ?」
「やー、その点に関しては隊長さんに言ったんだけど、どうやら気付いてはいるっぽい」
「気付いてるのに、放ってあるってことかよ!?!?」
「なーんで人外の話になるとそんなバカでかい声が出るんだろうね♡ 少しは落ち着きなよ、零くん」
「……とっとと朱雀の真意を教えろ。訊いてきたんだろ?」
「それがね、上手いことはぐらかされちゃった。あの朱雀? さんって隊長さん、なかなかやるね。隊長じゃなくて、詐欺師としても生計立てれるんじゃない♡?」
「クソ……」
零は、ギリギリと苛立たしげに歯軋りをした。
何か思考を巡らせるように、瞳を宙に向ける。
「おーい、零くん? どうしたの♡?」
「……俺が始末する」
「……え?」
「俺がその、警備隊に紛れ込んでる人外を殺ってくる。教祖様も、きっと許可して下さるだろうからな」
「……ふーん♡ 勝手にすれば?」
「ああ、勝手にさせて貰うとしよう」
零は机に置いてあったナイフと拳銃を掴み、指でクルクルと回してから腰のホルダーに差した。
反動をつけて椅子から立ち上がり、くるりと振り返る。
「[漢字]胡桃[/漢字][ふりがな]くるみ[/ふりがな]、お前はフォーミュラの対応に回れ」
「いや、なんで副隊長の零くんが隊長の僕に指図s
ガチャン。
会議室の扉をくぐった零が、ドアを思い切り閉めた。
残された胡桃はしばらくぼーっとした後、髪を耳にかけながら椅子から立った。
「まあ……フォーミュラの相手するのも、悪くないか」