ぼくの名前は柚木夏目。
人外組織「フォーミュラ」の一員で、音響欲求持ちの人外だ。
そんなぼくは今、リーダーの亜衣さんに言われて、警備隊に潜入している。
偽の戸籍を作るのは、初めてやったけれど案外簡単だった。
今のぼくは、棗柚木。孤児院出身で、ちょっと戦うのが得意なだけの、ただの少女だ。
今ぼくの目の前にいるこの女は、アイラというらしい。
人工的な光沢を放つ金髪に、派手なオレンジのインナーカラー。
眩しいほどの褐色肌の顔に、多分カラコンを入れているのだろう、これまた人工的で大きなヘーゼル色の瞳が光っている。
目の周りを覆う煌びやかなメイクは、ぼくには不気味にも思えた。
まあ、普段すっぴんの亜衣さんと美咲さんを見ているから、見慣れていないだけかもしれないけどね。
アイラが屈んで、ぼくの顔を覗き込んだ。
屈託のない輝かしい笑顔で見つめられて、ぼくは思わずじりじり後ずさってしまった。
眩しい。あまりにも眩しすぎる。
「まあ、あたしらの業務内容は、大体こんな感じっス。分かりました?」
「はい!」
ぼくはアイラの真似をして、屈託のない笑みを浮かべてみせた。
やってみると意外と簡単だ。
「うん! 良い返事っスね!」
満足げに笑うアイラを見ながら、ぼくは内心ほくそ笑んだ。
[水平線]
休み時間、ぼくはエイレネ6区のとある路地裏にやって来ていた。
先ほどこっそり警備隊の警備状況を見て、一番警備が手薄なところを選んだのだ。
ぼくが路地裏の壁にもたれかかって待っていると、路地裏に差し込む僅かな光に影が差した。
「よーっ! こんちは!」
「ハウディ、イサナさん。そっちはどんな感じ?」
「そりゃあもう、バッチシよ」
「それは良かった」
この人は、白瀬イサナさん。
フォーミュラに所属する人外だ。
異形部分が隠せやすい人外として、今回ぼくと一緒に警備隊に潜入している。
今日ここに訪れたのは、イサナさんと連絡を取るためだった。
「オレって、触手ないとただのヒョロい男やからさあ、入隊試験でもあんましええ成績残せんくて……警備隊のヤツに「お前ここから半年はずっと雑用な」とか言われてしもた。半年もおらんのにな、オレら」
「ほんとにね!」
そう言って、二人でクスクス笑う。
ぼくらが警備隊に潜入している一番の理由は、およそ1ヶ月後に訪れるであろうフォーミュラと警備隊との戦いに向けて、情報を集めるためだ。
警備隊の動向を観察して、亜衣さんに報告するのがぼくらの主な仕事。
イサナさんと別れたあと、ぼくは頬をパチンと叩いて気を引き締めた。
[水平線]
《三人称視点》
ここは、警備隊本部の最上階にある隊長室。
隊長である朱雀悠希は、中のソファーに腰掛けて書類を読んでいた。
「隊長。もう休憩時間すよ」
「……鳴海、ちょっとこれ見て」
「いや人の話聞いてくださいよ……まあいいですけど。どうしました?」
警備隊副隊長・鳴海雄斗が朱雀の横に立った。
そのまま、朱雀の読んでいる書類を覗き込む。
しばらく目を細めて読んだ後、鳴海は口を開いた。
「ああ……これ、3年前に起こった、人外が犯人の連続殺人事件の書類すか? なぜこんなものを?」
「3年前の連続殺人事件……僕はまだ警備隊に入隊してなかったけど、鳴海は実際に体験したんだよね?」
「ええ、まあ、まだ新入りの身でしたが」
「その時、確か犯人の人外は留置所から逃亡したんだっけ?」
「そうでしたね」
「犯人の容姿を覚えてる?」
「えーっと……確かちっちゃなガキで……この辺りでは珍しい銀髪でしたね。目は……緑だったか、青だったか。赤だったかも」
3年前の事件なんてもう忘れましたよ、と鳴海が口を尖らせた。
そんな鳴海が見えていないのか、はたまた無視しているのか、朱雀は言った。
「その犯人の名前は?」
「[漢字]柚[/漢字][ふりがな]ゆ[/ふりがな][漢字]木[/漢字][ふりがな]ぎ[/ふりがな]、[漢字]夏[/漢字][ふりがな]なつ[/ふりがな][漢字]目[/漢字][ふりがな]め[/ふりがな]……ですね。多分」
「いや、夏実だったか? 夏子かもしれない……」と鳴海がボソボソ言う。
「人外的身体特徴は?」
「俺は実際には見てませんけど、書類上は“口内に大きな眼球のような器官有“でした。実際に見たらしい当時の先輩が、めちゃくちゃ気色悪かったって言ったような気がしますよ」
朱雀は、鳴海が言ったことを噛み砕くようにうんうんと頷いた。
「で、それがどうかしたんですか!? 良い加減教えて下さいよ。俺だって今休憩時間なんですからね」
「鳴海、今日から入った新人の、女性の方の名前と容姿の特徴を言える?」
「[漢字]棗[/漢字][ふりがな]なつめ[/ふりがな][漢字]柚木[/漢字][ふりがな]ゆずき[/ふりがな]。銀髪に青い目の、黒マスクをしたちっちゃな女の子……まさか」
鳴海は言っている途中で、ハッと口をつぐんだ。
「いや、でもそんなことがありえるんすか? 採用担当の人間は毎回きちんと新入りの素性を調べ上げますし……俺もよく、個人的に調べるんですが、あまり怪しいところはない、普通の孤児の女の子でしたよ?」
「どうだろうね。今どき素性ってのは、作れるから」
「……」
「まあ、まだ縛り上げて確認する必要はないかな。とりあえず、要警戒ってことで……その新人がいる部署のトップに言っといて」
「……了解です」
鳴海は重い雰囲気のまま答え、隊長室を出ていった。
人外組織「フォーミュラ」の一員で、音響欲求持ちの人外だ。
そんなぼくは今、リーダーの亜衣さんに言われて、警備隊に潜入している。
偽の戸籍を作るのは、初めてやったけれど案外簡単だった。
今のぼくは、棗柚木。孤児院出身で、ちょっと戦うのが得意なだけの、ただの少女だ。
今ぼくの目の前にいるこの女は、アイラというらしい。
人工的な光沢を放つ金髪に、派手なオレンジのインナーカラー。
眩しいほどの褐色肌の顔に、多分カラコンを入れているのだろう、これまた人工的で大きなヘーゼル色の瞳が光っている。
目の周りを覆う煌びやかなメイクは、ぼくには不気味にも思えた。
まあ、普段すっぴんの亜衣さんと美咲さんを見ているから、見慣れていないだけかもしれないけどね。
アイラが屈んで、ぼくの顔を覗き込んだ。
屈託のない輝かしい笑顔で見つめられて、ぼくは思わずじりじり後ずさってしまった。
眩しい。あまりにも眩しすぎる。
「まあ、あたしらの業務内容は、大体こんな感じっス。分かりました?」
「はい!」
ぼくはアイラの真似をして、屈託のない笑みを浮かべてみせた。
やってみると意外と簡単だ。
「うん! 良い返事っスね!」
満足げに笑うアイラを見ながら、ぼくは内心ほくそ笑んだ。
[水平線]
休み時間、ぼくはエイレネ6区のとある路地裏にやって来ていた。
先ほどこっそり警備隊の警備状況を見て、一番警備が手薄なところを選んだのだ。
ぼくが路地裏の壁にもたれかかって待っていると、路地裏に差し込む僅かな光に影が差した。
「よーっ! こんちは!」
「ハウディ、イサナさん。そっちはどんな感じ?」
「そりゃあもう、バッチシよ」
「それは良かった」
この人は、白瀬イサナさん。
フォーミュラに所属する人外だ。
異形部分が隠せやすい人外として、今回ぼくと一緒に警備隊に潜入している。
今日ここに訪れたのは、イサナさんと連絡を取るためだった。
「オレって、触手ないとただのヒョロい男やからさあ、入隊試験でもあんましええ成績残せんくて……警備隊のヤツに「お前ここから半年はずっと雑用な」とか言われてしもた。半年もおらんのにな、オレら」
「ほんとにね!」
そう言って、二人でクスクス笑う。
ぼくらが警備隊に潜入している一番の理由は、およそ1ヶ月後に訪れるであろうフォーミュラと警備隊との戦いに向けて、情報を集めるためだ。
警備隊の動向を観察して、亜衣さんに報告するのがぼくらの主な仕事。
イサナさんと別れたあと、ぼくは頬をパチンと叩いて気を引き締めた。
[水平線]
《三人称視点》
ここは、警備隊本部の最上階にある隊長室。
隊長である朱雀悠希は、中のソファーに腰掛けて書類を読んでいた。
「隊長。もう休憩時間すよ」
「……鳴海、ちょっとこれ見て」
「いや人の話聞いてくださいよ……まあいいですけど。どうしました?」
警備隊副隊長・鳴海雄斗が朱雀の横に立った。
そのまま、朱雀の読んでいる書類を覗き込む。
しばらく目を細めて読んだ後、鳴海は口を開いた。
「ああ……これ、3年前に起こった、人外が犯人の連続殺人事件の書類すか? なぜこんなものを?」
「3年前の連続殺人事件……僕はまだ警備隊に入隊してなかったけど、鳴海は実際に体験したんだよね?」
「ええ、まあ、まだ新入りの身でしたが」
「その時、確か犯人の人外は留置所から逃亡したんだっけ?」
「そうでしたね」
「犯人の容姿を覚えてる?」
「えーっと……確かちっちゃなガキで……この辺りでは珍しい銀髪でしたね。目は……緑だったか、青だったか。赤だったかも」
3年前の事件なんてもう忘れましたよ、と鳴海が口を尖らせた。
そんな鳴海が見えていないのか、はたまた無視しているのか、朱雀は言った。
「その犯人の名前は?」
「[漢字]柚[/漢字][ふりがな]ゆ[/ふりがな][漢字]木[/漢字][ふりがな]ぎ[/ふりがな]、[漢字]夏[/漢字][ふりがな]なつ[/ふりがな][漢字]目[/漢字][ふりがな]め[/ふりがな]……ですね。多分」
「いや、夏実だったか? 夏子かもしれない……」と鳴海がボソボソ言う。
「人外的身体特徴は?」
「俺は実際には見てませんけど、書類上は“口内に大きな眼球のような器官有“でした。実際に見たらしい当時の先輩が、めちゃくちゃ気色悪かったって言ったような気がしますよ」
朱雀は、鳴海が言ったことを噛み砕くようにうんうんと頷いた。
「で、それがどうかしたんですか!? 良い加減教えて下さいよ。俺だって今休憩時間なんですからね」
「鳴海、今日から入った新人の、女性の方の名前と容姿の特徴を言える?」
「[漢字]棗[/漢字][ふりがな]なつめ[/ふりがな][漢字]柚木[/漢字][ふりがな]ゆずき[/ふりがな]。銀髪に青い目の、黒マスクをしたちっちゃな女の子……まさか」
鳴海は言っている途中で、ハッと口をつぐんだ。
「いや、でもそんなことがありえるんすか? 採用担当の人間は毎回きちんと新入りの素性を調べ上げますし……俺もよく、個人的に調べるんですが、あまり怪しいところはない、普通の孤児の女の子でしたよ?」
「どうだろうね。今どき素性ってのは、作れるから」
「……」
「まあ、まだ縛り上げて確認する必要はないかな。とりあえず、要警戒ってことで……その新人がいる部署のトップに言っといて」
「……了解です」
鳴海は重い雰囲気のまま答え、隊長室を出ていった。