フォーミュラのアジトは、エイレネの地下に張り巡らされた地下トンネルにある。この中で、フォーミュラの構成員である総勢数百名の人外たちが生活を営んでいる。
人外たちは皆、めいめい勝手に捨てられた家具類を拾ってきて、トンネルの道中に勝手に設置し、勝手に暮らしてるっぽい。
巷では「フォーミュラのアジトは3区にある」と言われているようだけれど、それは正しくもあり間違いでもある。
3区にあるのは、フォーミュラのアジトの沢山ある出入り口の一つに過ぎない。というか、出入り口なら各区に最低ひとつは設けてあるのに。なんで3区の出入り口ばっかりフォーカスされるのかな。
私が自分の住んでいる場所に戻るためトンネルを歩いていると、トンネルの道中に住んでいる人外たちが慌てて敬礼した。
こういう扱いをされるのは正直今でも慣れない。
多分、これからも慣れることはない。
こんなのそう簡単に慣れてたまるか。
私はビシッと敬礼をする人外たちに向かって曖昧に笑いかけたあと、スタスタと足早にその場を去った。
[水平線]
「ただいま……」
トンネルの最深部にある扉。
それを開けると、そこは私の居住地だ。
リーダーという地位に就いてはいるけれども、暮らしぶりは他の人外とそこまで変わらない。
拾ってきたそこそこ綺麗な家具を適当に置いて、まあまあいい感じの部屋風にしてあるだけだ。
そんな薄暗い部屋の中から、一人の少女が出てきた。
「あ、亜衣さん! おかえりなさい」
「なちゅめぇぇぇぇ……ただいまぁ……」
この子は柚木夏目。
一人で街を放浪していたところを、私が保護した人外だ。
保護した理由の半分は、見た感じ戦闘能力が高そうだったから。
そしてもう半分は、見た目がどタイプだったからである。
私は夏目に正面から抱きついた。
どうしてロリというものはこんなにも良い香りがするんだ。
生命の神秘だね。
抱きつきながら上を見上げると、夏目の瞳がこちらを覗き込んでいた。
この世の青い物を全て注ぎ込んだみたいな、真っ青な瞳だ。きゅるっとしていて非常にきゃわである。
小さな顔の周りを飾っているのは、どこか小動物を思わせる、ふわふわとサラサラの中間ぐらいの銀髪だ。非常にウトゥくしい。そしてやはりきゃわである。
「うえ、亜衣さん血生臭いよ? お水浴びてきたらどう?」
「いーのいーの。なちゅめの香りで相殺するから」
「ぼく水浴び用のお水汲んでくるね!」
完全にスルーされた。しかしそこが可愛い。
私の腕をふりほどいた夏目に向かって、私は言った。
「みーちゃんは?」
「美咲さんなら奥で寝てるよ」
「了解」
バケツを抱えた夏目と入れ違いに、私は部屋の中へ入った。
角を隠すために被っていたフードを脱ぎ、部屋の奥へと進んでいく。
部屋の奥に置かれた薄汚れたソファーには、夏目とは別の少女——美咲が眠っていた。
この子は夏目とは違い、自分からフォーミュラに加入してきたのだが、夏目とは別系統のかわゆいロリだ。
「おーい、みーちゃーん。起きろぅい」
「んう……」
「んう……」って何だ「んう……」って。
可愛すぎるだろ。なんてけしからん。
「さっき外行って、クッキー買ってきたよー」
「食べる」
美咲がすくっと起き上がり、ソファーに座った。
さっきまでのおねむ感は一体どこに行ったんだ。
「ちょーっと待っててね」
美咲は私がクッキーの箱を開けるところを、真剣に見ている。
猫じゃらしを見る猫みたいで可愛い。
頭を動かすたびに揺れるサラッサラな黒髪が、なんとも愛らしい。
「みーちゃん頭嗅がせて……」
「いやキモ」
罵倒された。可愛い。
私は可愛い罵倒をものともせず美咲に歩み寄り、髪に顔を埋めた。
香水をつけているのだろう。
フローラルな良い香りがする。
「うわ、血生臭」
「ごめんって」
美咲に顔を顰められた。可愛い。
しかし、血生臭いまま匂いを嗅いでいたら本格的に嫌われるかもしれない。
ロリに嫌われるというシチュエーション。
妄想の中だったら大いに需要があるが、現実ではできる限り回避したいものだ。
ここは大人しく水を浴びてこよう。
そう思ったとき、ちょうど水バケツを抱えた夏目が戻ってきた。
「わ、クッキーだ! 美味しそう……」
「なちゅめも食べていいよー。私はちょっと水浴びてくるから、その間二人で食べてて」
「え? ぼくも食べていいの?」
「え? 逆になんでダメなの?」
「いやだって……これは美咲さんの“甘味欲求”を抑えるためのものじゃないの?」
「まあそれもあるけど……異常欲求なんかなくたって、甘いものは誰でも食べたいでしょ。なちゅめの分も買ってあるから、食べな?」
「あ、ありがと!!! いただきます!!!」
可愛い。
どうしよう、可愛い。
ニヤつく顔を必死に抑えているところに、美咲が冷たい眼差しを向けてきた。
よし、とっとと水浴びてこよ。
[水平線]
水を浴びた後、クッキーを齧りながら、私は言った。
「実はここに帰ってくる途中、誰かに追われたんだよね」
「「え!?」」
夏目と美咲の声が揃った。
二人で顔を見合わせた後、美咲が恐る恐る口を開く。
「なんで終われるようなハメに?」
「いやあ、さっきの返り血見たら分かると思うんだけど、まあなんというか……人、殺しちゃった」
「それがバレて追いかけられたの?」
今度は夏目だ。
私はコクコクと頷いて、続けて言う。
「でも、ちゃんと撒いてきたから大丈夫。だけど、ここがバレるのも時間の問題だろうね。まあ、アジトの出入り口は結構ちゃんと隠してあるから、警備隊が本気で探しても少なくとも2ヶ月はかかると思うけど」
辺りに重い空気が満ちる。
私は口の中に残ったクッキーの欠片をガリ、と噛み砕いた。
「ま、わざわざこっちから攻撃しに行く必要はないかな。これから2ヶ月間は警備隊の動向を探りつつ、戦いの準備をして過ごそう」
「そうだね。私はそれがいいと思う」
「ぼくも!」
「よし、じゃあそれで決定! とりあえず今日は、ゆっくり休も!」
人外たちは皆、めいめい勝手に捨てられた家具類を拾ってきて、トンネルの道中に勝手に設置し、勝手に暮らしてるっぽい。
巷では「フォーミュラのアジトは3区にある」と言われているようだけれど、それは正しくもあり間違いでもある。
3区にあるのは、フォーミュラのアジトの沢山ある出入り口の一つに過ぎない。というか、出入り口なら各区に最低ひとつは設けてあるのに。なんで3区の出入り口ばっかりフォーカスされるのかな。
私が自分の住んでいる場所に戻るためトンネルを歩いていると、トンネルの道中に住んでいる人外たちが慌てて敬礼した。
こういう扱いをされるのは正直今でも慣れない。
多分、これからも慣れることはない。
こんなのそう簡単に慣れてたまるか。
私はビシッと敬礼をする人外たちに向かって曖昧に笑いかけたあと、スタスタと足早にその場を去った。
[水平線]
「ただいま……」
トンネルの最深部にある扉。
それを開けると、そこは私の居住地だ。
リーダーという地位に就いてはいるけれども、暮らしぶりは他の人外とそこまで変わらない。
拾ってきたそこそこ綺麗な家具を適当に置いて、まあまあいい感じの部屋風にしてあるだけだ。
そんな薄暗い部屋の中から、一人の少女が出てきた。
「あ、亜衣さん! おかえりなさい」
「なちゅめぇぇぇぇ……ただいまぁ……」
この子は柚木夏目。
一人で街を放浪していたところを、私が保護した人外だ。
保護した理由の半分は、見た感じ戦闘能力が高そうだったから。
そしてもう半分は、見た目がどタイプだったからである。
私は夏目に正面から抱きついた。
どうしてロリというものはこんなにも良い香りがするんだ。
生命の神秘だね。
抱きつきながら上を見上げると、夏目の瞳がこちらを覗き込んでいた。
この世の青い物を全て注ぎ込んだみたいな、真っ青な瞳だ。きゅるっとしていて非常にきゃわである。
小さな顔の周りを飾っているのは、どこか小動物を思わせる、ふわふわとサラサラの中間ぐらいの銀髪だ。非常にウトゥくしい。そしてやはりきゃわである。
「うえ、亜衣さん血生臭いよ? お水浴びてきたらどう?」
「いーのいーの。なちゅめの香りで相殺するから」
「ぼく水浴び用のお水汲んでくるね!」
完全にスルーされた。しかしそこが可愛い。
私の腕をふりほどいた夏目に向かって、私は言った。
「みーちゃんは?」
「美咲さんなら奥で寝てるよ」
「了解」
バケツを抱えた夏目と入れ違いに、私は部屋の中へ入った。
角を隠すために被っていたフードを脱ぎ、部屋の奥へと進んでいく。
部屋の奥に置かれた薄汚れたソファーには、夏目とは別の少女——美咲が眠っていた。
この子は夏目とは違い、自分からフォーミュラに加入してきたのだが、夏目とは別系統のかわゆいロリだ。
「おーい、みーちゃーん。起きろぅい」
「んう……」
「んう……」って何だ「んう……」って。
可愛すぎるだろ。なんてけしからん。
「さっき外行って、クッキー買ってきたよー」
「食べる」
美咲がすくっと起き上がり、ソファーに座った。
さっきまでのおねむ感は一体どこに行ったんだ。
「ちょーっと待っててね」
美咲は私がクッキーの箱を開けるところを、真剣に見ている。
猫じゃらしを見る猫みたいで可愛い。
頭を動かすたびに揺れるサラッサラな黒髪が、なんとも愛らしい。
「みーちゃん頭嗅がせて……」
「いやキモ」
罵倒された。可愛い。
私は可愛い罵倒をものともせず美咲に歩み寄り、髪に顔を埋めた。
香水をつけているのだろう。
フローラルな良い香りがする。
「うわ、血生臭」
「ごめんって」
美咲に顔を顰められた。可愛い。
しかし、血生臭いまま匂いを嗅いでいたら本格的に嫌われるかもしれない。
ロリに嫌われるというシチュエーション。
妄想の中だったら大いに需要があるが、現実ではできる限り回避したいものだ。
ここは大人しく水を浴びてこよう。
そう思ったとき、ちょうど水バケツを抱えた夏目が戻ってきた。
「わ、クッキーだ! 美味しそう……」
「なちゅめも食べていいよー。私はちょっと水浴びてくるから、その間二人で食べてて」
「え? ぼくも食べていいの?」
「え? 逆になんでダメなの?」
「いやだって……これは美咲さんの“甘味欲求”を抑えるためのものじゃないの?」
「まあそれもあるけど……異常欲求なんかなくたって、甘いものは誰でも食べたいでしょ。なちゅめの分も買ってあるから、食べな?」
「あ、ありがと!!! いただきます!!!」
可愛い。
どうしよう、可愛い。
ニヤつく顔を必死に抑えているところに、美咲が冷たい眼差しを向けてきた。
よし、とっとと水浴びてこよ。
[水平線]
水を浴びた後、クッキーを齧りながら、私は言った。
「実はここに帰ってくる途中、誰かに追われたんだよね」
「「え!?」」
夏目と美咲の声が揃った。
二人で顔を見合わせた後、美咲が恐る恐る口を開く。
「なんで終われるようなハメに?」
「いやあ、さっきの返り血見たら分かると思うんだけど、まあなんというか……人、殺しちゃった」
「それがバレて追いかけられたの?」
今度は夏目だ。
私はコクコクと頷いて、続けて言う。
「でも、ちゃんと撒いてきたから大丈夫。だけど、ここがバレるのも時間の問題だろうね。まあ、アジトの出入り口は結構ちゃんと隠してあるから、警備隊が本気で探しても少なくとも2ヶ月はかかると思うけど」
辺りに重い空気が満ちる。
私は口の中に残ったクッキーの欠片をガリ、と噛み砕いた。
「ま、わざわざこっちから攻撃しに行く必要はないかな。これから2ヶ月間は警備隊の動向を探りつつ、戦いの準備をして過ごそう」
「そうだね。私はそれがいいと思う」
「ぼくも!」
「よし、じゃあそれで決定! とりあえず今日は、ゆっくり休も!」