悠久と懐古の魔法
#1
薬局のおばあちゃん
今日も朝が、ベッドルームに眩い光を連れてきたらしい。
こうも歳を重ねて、朝がおっくうでないとは。ありがたい人生だといえるだろう。
曲がりかけの腰を上げて、ベッドから立ち上がる。そのまま、彼女はゆったりクローゼットルームへと歩いていった。
モスグリーンのドレスローブに紫色のガウンを掛け、白髪を結わえる。鏡に映るのは、御年68歳になる自分の姿だ。
「すっかり、おばあちゃんになっちゃったわね。ほら、顔にもシワがこんなに」
笑みをこぼしながら、誰に話しかけるでもなく独り言を呟く。
こんな私にも、昔が…小さかった少女の時代があったなんて、孫たちや近所の子どもたちには想像もつかないでしょうね。
瞬きの一瞬だけ、鏡に、遠い昔の小さな三つ編みの女の子が映った。
彼女の名前はツファル。この小さな村で、医局兼薬局を営む婦人である。
今日も訪れる穏やかな一日を、近所のこどもたちの駆けてくる元気な声で迎える。
「ツファおばーちゃーん!」
はいはいどうしたの、とにこやかにたずねる彼女は、いつものような愛すべき、予定調和な一日が始まるものとしか思っていなかった。
ひだまりの村を取り囲む、山を一つ越えた峠。
この時、白髪を結わえた魔法使いが、トランクを持って歩いていた。
少し立ち止まり、木陰で古びた地図を広げる。
「この先の村で、少し物資の調達をするか…」
今日が、ほんの少しだけ予定にない一日になることを、
薬草の並ぶ棚に囲まれたツファルはまだ、知らない。
こうも歳を重ねて、朝がおっくうでないとは。ありがたい人生だといえるだろう。
曲がりかけの腰を上げて、ベッドから立ち上がる。そのまま、彼女はゆったりクローゼットルームへと歩いていった。
モスグリーンのドレスローブに紫色のガウンを掛け、白髪を結わえる。鏡に映るのは、御年68歳になる自分の姿だ。
「すっかり、おばあちゃんになっちゃったわね。ほら、顔にもシワがこんなに」
笑みをこぼしながら、誰に話しかけるでもなく独り言を呟く。
こんな私にも、昔が…小さかった少女の時代があったなんて、孫たちや近所の子どもたちには想像もつかないでしょうね。
瞬きの一瞬だけ、鏡に、遠い昔の小さな三つ編みの女の子が映った。
彼女の名前はツファル。この小さな村で、医局兼薬局を営む婦人である。
今日も訪れる穏やかな一日を、近所のこどもたちの駆けてくる元気な声で迎える。
「ツファおばーちゃーん!」
はいはいどうしたの、とにこやかにたずねる彼女は、いつものような愛すべき、予定調和な一日が始まるものとしか思っていなかった。
ひだまりの村を取り囲む、山を一つ越えた峠。
この時、白髪を結わえた魔法使いが、トランクを持って歩いていた。
少し立ち止まり、木陰で古びた地図を広げる。
「この先の村で、少し物資の調達をするか…」
今日が、ほんの少しだけ予定にない一日になることを、
薬草の並ぶ棚に囲まれたツファルはまだ、知らない。