ゴロ…
ゴロゴロゴロ…
ピシャアアアン!
「きゃあっ!」
夜の始まりのころ。
昼間ならマーマレードのように快い黄金の陽光に満たされているはずのその部屋は、未だ仄暗い夜闇と、冷たく騒々しい雨の音に包まれていた。
夕方ごろから降り出した弱い雨はいつしか激しくなり、やがて空を割くような雷鳴が轟きはじめた。
「ルウ!ねえ、こっちへ来てっ!」
「はい」
ベッドに身を寄せて、この部屋の主人…
…ルイーズ・シャドーは怯えたように小さく手招きをする。
「ルウ…これって「嵐」よね?[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]こんなの初めてよっ!いきなり部屋が紫色に光ってっ…」
「私も初めてです。ルイーズ様、怖がらないでください」
いつも通りの抑揚のない声で、綺麗な顔にただただ平坦な表情を作り、ルウはネグリジェ姿の主人に寄り添った。
「[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]…大きな音は苦手よっ!ねえルウ、お願いだから今日は一緒に寝てちょうだい」
「ルイーズ様…」
豪華な天蓋付きのベッドの中、羽毛布団に潜り込みながら懇願するルイーズを前に、ルウは初めて少し困惑の色を見せていた。
ルウをはじめとする“生き人形”は、たとえそれが主人の命令であったとしても、時間までに必ず自分の部屋へ戻らなければならない。少しでも時間に遅れてしまえば、部屋には鍵が掛けられてしまうのだ。
「そうよね…ルウが戻らなくちゃいけないってことは分かってるわっ!だけど…[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]…」
表情の分からない真っ黒な顔で訴えられるルウは、しばし途方に暮れていた。
「顔」としては優秀だが、「応用が効かない」自分。
ミアやローズマリーにも呆れたように言われたこの言葉は、主人の為に尽くさなければならない今の自分にとって重大な欠陥だ。
…
…エミリコなら?
顔としては「出来損ない」と言われがちなのに、ルウには思いつかないようなアイデアを出してくる、いつも前向きで明るくて、優しい生き人形。
エミリコなら、どうする…?
ふとポケットに手を遣ると、手があるものに当たった。
黒く曇った夜空に大穴が空いたように、雨の音は強さを増していた。
「ルウ…ごめんなさい、[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]ったらつい!やっぱり大丈夫よっ!…ひとりで、なんとかするわ」
ルウの服の裾を掴んでいたルイーズが、弱々しくその手を放す。
しかしその時、戸惑って俯いていたルウが、顔をあげた。
「なあに、これ?」
ルウがルイーズに渡したのは、上質な布地で作られた、小さなぬいぐるみだった。
「これは…以前ダメになってしまったルイーズ様の衣服を材料に作られた、ぬいぐるみです。生き人形の…エミリコが、作ってくれました」
「エミリコ…ケイトの「顔」ねっ!これ、すっごく可愛いわっ!…でもルウ、これで一体何をすれば良いの?」
「私も、同じぬいぐるみを持っています。私はこのぬいぐるみをルイーズ様だと思っていますから、ルイーズ様もそのぬいぐるみを私だと思ってください。
…一緒に居られなくても、一緒です」
「…!」
ルイーズは、しばらくぬいぐるみを見つめて、やがてそれを抱きしめた。
「わかったわっ!可愛いルウ、いつも[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]と一緒よっ!」
「はい」
「おやすみなさい、ルイーズ様」
「おやすみのキス」をして、ルウは部屋を出た。
その手に、絆の証である小さなぬいぐるみを、しっかりと握りながら。
ゴロゴロゴロ…
ピシャアアアン!
「きゃあっ!」
夜の始まりのころ。
昼間ならマーマレードのように快い黄金の陽光に満たされているはずのその部屋は、未だ仄暗い夜闇と、冷たく騒々しい雨の音に包まれていた。
夕方ごろから降り出した弱い雨はいつしか激しくなり、やがて空を割くような雷鳴が轟きはじめた。
「ルウ!ねえ、こっちへ来てっ!」
「はい」
ベッドに身を寄せて、この部屋の主人…
…ルイーズ・シャドーは怯えたように小さく手招きをする。
「ルウ…これって「嵐」よね?[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]こんなの初めてよっ!いきなり部屋が紫色に光ってっ…」
「私も初めてです。ルイーズ様、怖がらないでください」
いつも通りの抑揚のない声で、綺麗な顔にただただ平坦な表情を作り、ルウはネグリジェ姿の主人に寄り添った。
「[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]…大きな音は苦手よっ!ねえルウ、お願いだから今日は一緒に寝てちょうだい」
「ルイーズ様…」
豪華な天蓋付きのベッドの中、羽毛布団に潜り込みながら懇願するルイーズを前に、ルウは初めて少し困惑の色を見せていた。
ルウをはじめとする“生き人形”は、たとえそれが主人の命令であったとしても、時間までに必ず自分の部屋へ戻らなければならない。少しでも時間に遅れてしまえば、部屋には鍵が掛けられてしまうのだ。
「そうよね…ルウが戻らなくちゃいけないってことは分かってるわっ!だけど…[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]…」
表情の分からない真っ黒な顔で訴えられるルウは、しばし途方に暮れていた。
「顔」としては優秀だが、「応用が効かない」自分。
ミアやローズマリーにも呆れたように言われたこの言葉は、主人の為に尽くさなければならない今の自分にとって重大な欠陥だ。
…
…エミリコなら?
顔としては「出来損ない」と言われがちなのに、ルウには思いつかないようなアイデアを出してくる、いつも前向きで明るくて、優しい生き人形。
エミリコなら、どうする…?
ふとポケットに手を遣ると、手があるものに当たった。
黒く曇った夜空に大穴が空いたように、雨の音は強さを増していた。
「ルウ…ごめんなさい、[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]ったらつい!やっぱり大丈夫よっ!…ひとりで、なんとかするわ」
ルウの服の裾を掴んでいたルイーズが、弱々しくその手を放す。
しかしその時、戸惑って俯いていたルウが、顔をあげた。
「なあに、これ?」
ルウがルイーズに渡したのは、上質な布地で作られた、小さなぬいぐるみだった。
「これは…以前ダメになってしまったルイーズ様の衣服を材料に作られた、ぬいぐるみです。生き人形の…エミリコが、作ってくれました」
「エミリコ…ケイトの「顔」ねっ!これ、すっごく可愛いわっ!…でもルウ、これで一体何をすれば良いの?」
「私も、同じぬいぐるみを持っています。私はこのぬいぐるみをルイーズ様だと思っていますから、ルイーズ様もそのぬいぐるみを私だと思ってください。
…一緒に居られなくても、一緒です」
「…!」
ルイーズは、しばらくぬいぐるみを見つめて、やがてそれを抱きしめた。
「わかったわっ!可愛いルウ、いつも[漢字]私[/漢字][ふりがな]ルイーズ[/ふりがな]と一緒よっ!」
「はい」
「おやすみなさい、ルイーズ様」
「おやすみのキス」をして、ルウは部屋を出た。
その手に、絆の証である小さなぬいぐるみを、しっかりと握りながら。