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クトゥルフ神話を題材にしてはおりますが、原作において登場しない架空の神性が登場することもございます。

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星を追う僕ら

#5

5話 真相Rush

[中央寄せ]2017年5月 東井紗枝[/中央寄せ]

醜態をさらしてしまった。
紗枝はそう思って顔を上げられない。
身の回りに起こっていたことには実は裏があって、それと同時に自分の作品が何となくヒットしなかった理由が自ずと知れて思わず発狂した、大失態である。大醜態である。
恥ずかしくて仕方がない、生き返ったけれど自害したい。
紗枝は失態をとても気にし続ける性格だった。

「…東井さん、大丈夫ですか」
「死にたい……」
「生きてください、誰しも叫ぶことはあります」

慰められた。
ちょっと心を強く持ち直せたような気がする。
紗枝はとても単純な性格だった。

「では話は戻しますが……今回東井さんがこのような事態に巻き込まれてしまったのは、我々の不手際によるものなんです」
「え、不手際……?」
「えぇ、あの時我々は新宿である存在を追っていました……その存在を私達は『[漢字]夢想家[/漢字][ふりがな]トロイメライ[/ふりがな]』と呼んでいます」
「とろい、めらい……」

もしかして、と紗枝は死ぬ直前までの出来事を思い出していた。
あの無人の新宿、白フードの青年、不気味なマーク、狂気……。
思い出し始めると彼の話していることに心当たりが多く湧き出し、同時にあの時の恐怖も湧き上がってくる。
男性は心配そうな表情で「大丈夫ですか」と尋ねてくれた。
全てを話してくれといったのは自分なのだ、怯えてばかりもいられない。
紗枝は「大丈夫です」と答えてから続きを話すように促すと、彼は説明を続けた。

「夢想家はこの国で度々『ある怪物』を呼び出し、事件を起こしている危険人物なんです。そしてあの時も彼は新宿で事件を起こすために『不定領域』と呼ばれる異空間を作り出していました」

つまり、紗枝はその『不定領域』に迷い込んでしまったということだ。
世界から人が消えたのではなく、紗枝だけが異空間に飛ばされた。
そこで疑問になるのは何故彼女が巻き込まれる羽目になったのか、ということ。

「私、魔法とか使えないのにどうして……」
「そこが私達も分からない点でして……本来不定領域に入ることができるのは、術者の中でもさらに特殊な力を使える人に限るんです」

尚のことどうして、と紗枝の頭には疑問符しか浮かばない。
そもそも特殊な力とは何ぞや、彼女には何も分からない。
終始首を傾げたままの紗枝を見てか、男性は苦笑をしてからホワイトボードを取り出すと何かを書き始めた。
そして書き終わった頃にもう一度顔を上げ、ホワイトボードは見せることなく彼は紗枝にあることを問い掛ける。

「東井さん、貴女はクトゥルフ神話をご存知でしょうか?」

クトゥルフ神話、名状し難い混沌と異形の神を綴った架空の神話だ。
H・P・ラヴクラフトに始まり、そこから多くの作者達がその神話に魅了されその世界を広げ、今となっては世界的にもかなり有名なコズミックホラーとして名高い。
男性の問い掛けに対し、紗枝はブンブンと首を縦に振る。
彼女もまたクトゥルフ神話体系のファン、なんなら昨日も墳丘を読みながら寝落ちしていた。

「勿論知ってます!ナイアルラトホテップが好きです!!」
「……………………」

彼は笑顔で固まった後、目線を斜めしらにそっと逸らした。
小さな声で「そう来たか……」と呟きながら。
どういうことなのだろうか、やはり紗枝には分からない。
それにしても、何故今クトゥルフ神話なのか。

「また紗枝さんを驚かせてしまうようなことを言う事になりますが、どうか聞いてくださいね」
「は、はいっ」
「クトゥルフ神話に登場する邪神達、彼等は実在します」

脳内に銀河が広がった。
もしかするとその銀河でナイアルラトホテップが高笑いをしながら飛んで行ったかもしれない。
アザトースがその鬱陶しさで目を開けそうになってるかもしれない。
とにかく紗枝には衝撃が強すぎた。
しかし、少なくとも僅かには理性が働いていた。

「それってだいぶまずくないですか!?!?」
「かなりまずいです、ぶっちゃけ」
「ですよね!?!?」

まずくないわけが無い。
そりゃそうだと首をぶんぶん縦に振った。

「しかし同じ地球上に存在してるという話ではないんです、彼らは基本『外界』と呼ばれる別の次元に存在しています……とはいえ、その外界は『第二の太陽系』と言われるくらいには近い場所にあるのですがね」
「つまり、邪神達にとってはその外界からこの世界に来ることも簡単、と?」
「理論上は、しかしそれほど簡単でもないようで大群で押し寄せてくるには至ってません……とはいえそれで楽観視はしていられなくてですね」

彼はここで先程書いていたホワイトボードを紗枝に見せた。
そこにはよく分からない単語が書いてある。
魔力という単語に=で結び付けられている『虚霊子』という単語。

「外界にはこの世界で言うところの魔力である『[漢字]虚霊子[/漢字][ふりがな]エーテル[/ふりがな]』という物質が存在しています、この『虚霊子』はこの世界の人間の精神を狂わせ、動物を変異させてしまう作用を持っていてですね」
「SAN値チェックを引き起こすやつですか」
「そう思っていただいて構いません」

クトゥルフ神話の世界を科学的に証明されたような心地で紗枝は微かにワクワクしていた。
邪神達の世界の魔力が人間を狂気に陥らせるのか、世紀の発見を共有して貰えているような心地がして気分が高揚している。
だが、目の前の男性は一気に肝が冷えることを口にした。

「実を言うと、紗枝さんが迷い込んだ不定領域にはその『虚霊子』が蔓延、むしろ『虚霊子』によって構成されているんです」
「…………え、私がさっきから叫んじゃうのはもしかして……」
「いえ、紗枝さんは至って正気です」

要するに紗枝はシラフでおかしいということだ。
ちょっと後頭部を殴られた気分になる紗枝。
しかしよくよく考えると変な話である、本来なら紗枝は何も特別な力は無い。
それなら『虚霊子』に触れて正気を保っていられるはずがないのだ。
そこまで考えて目の前の彼を見ると、彼も深く頷いた。

「東井さんもこの矛盾に気づいていただけましたか」
「何で私、今普通で居られてるんでしょう…?」
「わかりません……ですが解明するために、紗枝さんにご自身のことを教えて頂きたいんです」

自分のこと。
何を話せばいいだろう、紗枝の心臓はぎゅっと掴まれたのかと言うくらい苦しくなった。
話せることなど何も無い、今まで怠惰に過ごしてきた。
そしてそれ以上前のことは……。

「分からないんです…6年よりも前のことが」
「分からない……記憶が無い、ということですか?」
「はい……すっぽり、6年以上前のことはずっとなにもないんです」

いちばん古い記憶は大怪我を負った状態で病院のベッドで目を覚ましたということ。
それ以前のことは何一つ思い出せず、両親の存在も、友達も、何があって何故こうなのかも、何もかも分からなかった。
もしかすると自分が不定領域を耐えられた理由はその空白の記憶にあるのかもしれない。
だが今の紗枝にはそれを思い出す術が何一つないのだ。

「すみません、不躾なことを聞いてしまい…」
「気にしないでください!もう慣れっこなので…」

それに彼は必要なことを聞いたまで、何も悪くない。
しばらくの沈黙の後、彼は話題を変えるように「一先ずこの話はまた別の機会に」と言ったあとで一冊の本を手に取り、テーブルに置いた。
そして、その本を目にして紗枝はフリーズした。

「追い打ちになるかも知れませんが聞かせてください……紗枝さん、こちらを執筆したのは貴女ですか?」
「な、ななな、なんでそそ、それを」
「いえ……その、紗枝さんの持ち物に同じペンネームの原稿がありまして……」

絶望だ。
今彼が持っているのは紗枝の第一作目。
隠し通すつもりでいたのに、いやそりゃバレるか。
ぐるぐると思考が停滞している。

「死にたい…………」
「生きてください……」

作者メッセージ

記念すべき第5話です、祝杯。
とりあえず5話まで書けたということは第一関門は突破。
第二関門は10話かな、頑張ります。
5話ごとに活動報告更新予定ですのでお楽しみに。

2025/04/24 10:30

ぽたもち
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