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クトゥルフ神話を題材にしてはおりますが、原作において登場しない架空の神性が登場することもございます。

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星を追う僕ら

#4

4話 困惑Panic

[中央寄せ]2017年5月 東井紗枝[/中央寄せ]

紗枝は一生に一度あるかないかの奇妙な体験をした。
寝て目覚めたら遺体安置所だった。
傍から見ると何を言っているか分からないだろうが、これは実際に起きたことである。
しかもつい先程。

遺体安置所にいたスーツの二人組は当たり前だが大層驚いていたし、紫の髪の男性の後ろにいた男性には叫ばれた。
しかし仕方ないことである。
紗枝は生物学的にいえば死んでいたのだから。
それが突然起き上がったら驚くのは当たり前だ。
ちなみに言うなら、紗枝自身も少し状況が呑み込めて居なかった。
彼女にも死んだという自覚はあったからだ。
それが何故息を吹き返すことが出来たのか、確かに死にたくないとは強く願ったが。
だが思い当たる節があるとするならあの一筋の光もない、真っ暗闇の空間だろうか。

紗枝を睨みおろしていた巨大な異形
そして彼女を飲み込んだ巨大な何か

そこまで考えて紗枝は思考を中断した。
あの空間での出来事を思い出そうとすると酷く頭が痛むのだ。
鋭い痛みが走る頭を抑えていると、紗枝のいる部屋に先程の紫の髪の男がやって来た。

息を吹き返した直後に錯乱したもう一人を遺体安置所から追い出した後、話を聞きたいからと彼女が今いる応接間らしき場所に連れてきたが彼だ。
その後、暫くこの部屋で一人にしてくれたのは紗枝の中にある不安を汲み取ってのことだろう。
よく気の回る優しい人だ、と紗枝は心がじんわり温かくなったのを感じた。
彼は彼女が頭を痛めているのを見ると、彼女の傍に片膝をついて顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?東井さん、なにか不調が?」
「え、あ、だっ、だいじょぶれす……」

紗枝は実際にはやらないような噛み方をした。
だが仕方がない、相手の顔が良すぎて男性免疫のない引きこもりには刺激が強すぎる。
ちなみに限界オタクではないと彼女は否定する。
顔のいい男性に名前を呼ばれて覗き込まれたら誰でも心臓がギュンとなるだろう。
これは紗枝の持論である、今作ったばかりの。

「ご気分が優れないのであれば事情聴取は後日にしましょうか」
「い、いえ!大丈夫です!頭痛くらい!いつもです!」

とてつもなく変なことを口走ったが紗枝は限界オタクではない。
明日なんかに聴取を回してその時の担当がこの優しそうな人ではなく、強面で筋骨隆々のヤクザになったらと思うと今やってもらう選択肢しかないだろう。
決してイケメンが好きだからとかそういう訳では無い。

「ではなるべく手短にするように努めますが……その前に幾つか質問をさせてください」
「はいっ」


「貴女は『[太字]魔法[/太字]』というものの存在を信じますか?」


何かを試されているのだろうか。
紗枝はそう思って暫く考え込んだ。
魔法。科学によって発展したこの現代に魔法。
場を和ませるためのジョークだろうか。
だが彼の表情は真剣そのものである。

「……信じてないですね……」
「そうでしたか……」

男性はしばらく考え込んだ。
これは紗枝の推測でしかないが、彼は紗枝に話を合わせる為に色々考えてくれているのかもしれない。
そしてこれも彼女の推測でしかないが、自身に話を合わせるということは、この身に起きたことの真相が分からなくなるのでは無いだろうか。
そう思った彼女は「あの」と声をかけた。

「その、魔法?を信じるか信じないかはともかく、その……何も包み隠さずに話して欲しいです」
「……東井さん、もし全てを隠さず貴女にお話してしまえば貴女はもう元の日常には戻れません」
「今更、だと思います……こうして生き返ったという有り得ないことを体験したら、もう普通には戻れないと思います」

自分で言って何故だかストンと納得してしまったような気がした。
蘇り。これがもう魔法のようなものでは無いか。
こんなことを体験して死生観に少しの歪みを覚えしまったのは事実。
少なくとも、元の生活に戻ってもこれまで通り過ごすというのは無理だろう。
ならばなおのこと、全ての真実を語ってもらいたかった。
男性は暫く押し黙ってから、決意を固めたように「分かりました」と答えた。

「まず、前提知識としてこの世界のことについて、そして東井さんが置かれていた状況についてお話します」
「は、はい……」
「まず先程『魔法』についてお聞きしましたよね、実はこの世界には一般的に『魔法』という概念が根付いています。ですが東井さんはそれをこれまでに見ることは叶わなかったでしょう」

当然である。
紗枝は今日まで魔法なんて見た事がないからだ。
自分から全て話してくれ、と言っておきながらポカーンと相手の顔を眺めることしか出来なかった。
するとイマイチ分かっていないことを察してか、タブレット端末を開いて、彼はある動画を見せてくれた。

「属性魔法の種類……?」
「魔法を扱う『術者』の子供の教育用に作成された映像です、存在について証明するにはこれを見てもらう方が早いかと」

そう言いながら彼は画面をタップし動画の再生を始めた。
再生された動画を半信半疑の目で見ていたが、直ぐに紗枝は目を見開いた。
何も無いところから炎を出現させ、それを自在に操る動画の人物。
合成と否定してしまえばそれまでだが、それだけでは説明がつくとも思えない映像だった。
その後も、水や風、岩……それらを自在に操る人物を移した動画に彼女は釘付けになっていた。

「……これ、ホントなんですか……?」
「はい、その教材の撮影には私も立ち会いましたので断言します」
「でも、私の周りでこんなことできる人は見たことが……数が少ないとか!?」

彼は首を横に振った。
つまり魔法を扱える『術者』という存在は稀有な存在ではないということだろう。
だが稀有では無いのならどうして自分の身の回りで見たことがなかったのだろうか。

「確かに東井さんの身の回りには居ないことが普通だったと思います……というのも、東井さんがお住まいの地域は[太字]魔法を扱わない人だけを集めた[/太字]計画都市だからなんです」
「え……つまり、意図的にそうされてるってことですか……?」
「そういうことです」

突拍子もない話だったが、今までの疑問が全て晴れたような気がした。
徹底的に街と街の移動について管理されるのも、いちいち県民カードを持ち歩かなければならない理由も、引越し先を選ぶのに苦労したという近所の人の話も。
彼の話を踏まえれば全て腑に落ちる。
計画都市に住んでいたからこそ、魔法を使えない人達だけの街、というコンセプトを崩さないための徹底した管理の為だったということだ。
この真相を知ってしまった以上、男性の言う通り紗枝は元の日常には戻れないだろう。
仕組みを知って、知らないふりをしながら生きていけるほど彼女は器用では無い。

「…………まじかぁ……」

既成概念が崩れ落ちる音がする。
思わず頭を抱えてしまった。
そんな彼女を男性は心配そうに見つめていた。
下手をすれば人生をひっくり返しかねない事実だ、受け入れ難いのも当然だ。
時間を要する問題だろう、彼はそう思って暫くそっとしてあげようと考えた。
だが彼女は突如「そういう事かぁぁぁ」と情けない声を上げたのだ。

「そっかぁ、そうだよ、そりゃそうだぁ……」
「東井さん……?」
「魔法って普通なんだぁ、そりゃ売れないよぉ」
「東井さん?」
「コンセプトからしてダメだったよぉ!!在り来りだよ!!この世界の概念的には当たり前だったんだ!!!」
「東井さん!?」

人目もはばからず紗枝は発狂した。
男性からすれば突然叫び出したものだからショックで気が触れてしまったかと思ったが、そういえばこの人小説家だっけ、と思い出す。
そこまで考えて彼は思わずこんな言葉が出そうになった。

いや、でもハリーポッターはヒットしてますよ。

だがこれをいったら本当に彼女が気が狂うような気がして男性はぐっと飲み込む。
というかまだ話さなければならないことの三分の一も終わっていない。
だがこの調子だと全部話せずに終わりそうだ、と発狂している紗枝を見ながら彼は思う。

「あの、東井さん」
「ふぁいっ」
「そろそろ本題に戻ってもよろしいでしょうか」
「あ、はい」

2025/04/10 10:48

ぽたもち
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