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クトゥルフ神話を題材にしてはおりますが、原作において登場しない架空の神性が登場することもございます。

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星を追う僕ら

#1

1話 憂鬱OneDay

[中央寄せ]2017年5月 東井紗枝[/中央寄せ]
書けない。
書き損じの原稿用紙が散らばる1DKの床に身を投げ、天井の模様を数えるという意味のない行為を始めてから実に一時間が経過をしていた。
ただでさえ狭い家賃三万円のアパートの部屋は原稿用紙、著者『自分』の小説が詰められた段ボール、脱ぎ散らかしたパジャマ……その他諸々のせいでさらに狭くなっている。

そんな部屋の中心で浜辺に打ち上げられた漂流物のように寝転んでいる彼女は売れない小説家『東井紗枝』。
彼女の肩書を簡潔に言い表すのにこれほど的確な言葉はこれ以外にないだろう。
処女作である第一作が三年前に誉ある賞を与えられ出版されて以来、世間や評論家のお眼鏡にかなうような作品は書けていない。出版をされても全く売れることがなく、次こそは次こそはが三年間続き第一作で入ってきた巨額の印税も底をつきかけていた。
そろそろ身の振り方を考え直す時期だということはわかっている。
わかっているのだが未だに次はヒットするはずだという願望を捨てきれない。
しかし、もはや担当編集は今となっては別の小説家の世話でもちきりになっておりここ数か月はまともに連絡も交わしていない状況。早い話、もう見限られたも同然と言える。

それでも諦めきれず、重い体を無理やり起き上がらせてその辺に投げ捨ててあった一作目を手に取った。
正直な話、紗枝にとってこの一作目は『ただの夢日記』でしかなかった。それがどうして賞を受けるほどにまで評価をされたのか、彼女の中では未だに腑に落ちていない。

六年前から本の執筆を始めた四年前までの間に彼女は[漢字]現実性[/漢字][ふりがな]リアリティ[/ふりがな]と[漢字]幻想性[/漢字][ふりがな]ファンタジー[/ふりがな]が混在した壮大な夢を見続けていた。
最初のうち、ただの妄想癖が夢にまで及んだだけだろう程度の感覚でしかなかったが、それが一週間ずっと続いたころから彼女は夢日記をつけるようになったのが始まりだ。
壮大な夢は二年間見続け、綴った夢日記はキャンパスノート20冊にも及ぶほど。
だがある日を境に夢はぱたりと見なくなった。
そして彼女は夢を見なくなった日から書き綴った夢日記の文章を整え一つの物語に組み替え、小説のコンクールに何気なく応募をした。

それが大賞を付けられるなど、応募したその時の彼女は思ってもみなかったのである。
何気なく書いた物語のほうが命をささげて綴った物語よりも評価されている、まったくもって理解しがたい。
もしかすると世間は評価されたいう紗枝の欲望を見抜いているのだろうか。
仮にそうなのだとすればもう駄目かもしれない。
創作意欲を掻き立てるために初心に戻って作品を見直したのに逆に心を折られてしまった。
これはよくない、他に何か発想の転換になるようなことを考えよう。
そう思って思考を切り替えてからおよそ10分、ようやく思いついた方法は東京に行くことだった。

彼女が住んでいるのは埼玉県。
映画になるほど何もないことに定評のある埼玉だ。
何もない場所から何でもある場所に行き、そこで刺激を受ければなにかしらインスピレーションが沸くかもしれない。
自己否定の悪循環に陥っていた頭が急にクリアになった気がした。
そこからの彼女の行動の速さは先ほどの三倍速ほどで、埃っぽい旅行鞄を引っ張りだしてくると適当に着替えやら財布やらを詰め込み始めた。

待っていろ東京、売れない作家が今行くぞ。
荷造りをしながら彼女は宣言と自虐を心の中でつぶやいた。

2025/04/07 22:33

ぽたもち
ID:≫ 1.YjZXk0F3SBI
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