丘を越えた先、
空の色が少し深くなってきた頃だった。
風が、
ひとつ跳ねる。
その向こうに、
ひとりの少女がいた。
ラフな服装。
空色と黒。
足元の石を蹴りながら、
携帯ゲーム機を操作している。
「…あ、ミスった」
小さく舌打ちして、
顔を上げる。
その目は、
驚くほど澄んだ青だった。
「君、旅人?」
声は低めで、
でも軽い。
距離の取り方が自然で、
壁がない。
魔女は歩みを止める。
「ええ」
「そっか。じゃあ、ちょっとだけ休んでく?」
少女はそう言って、
勝手に隣に座る場所を指差した。
「おれ、仰凪 聖。君は?」
「魔女よ」
「へえ。分かりやすくていいな」
聖は笑った。
作っていない、
けれど媚びてもいない笑顔。
手元のゲーム機が、
ふっと青い光を反射する。
サファイアだった。
「それ、君の宝石?」
「ん。そう」
軽く答えるけれど、
指先は一瞬だけ、
宝石を隠すみたいに動いた。
魔女は気づく。
この子は、
見抜くのが早い。
でも、
自分を見せるのは遅い。
「君、強い目をしてるわね」
その言葉に、
聖は一瞬だけ黙る。
「…よく言われる」
「褒め言葉?」
「さあ」
肩をすくめる。
「でもさ、それ言われるたびにさ。
“女の子なんだから、もっと可愛くしなさい”って、続くんだよ」
空を見る。
夕方の色に近づいてきていた。
「おれ、可愛いの、向いてないんだよな」
そう言って、
ポケットから丸眼鏡を取り出す。
かけると、
雰囲気が少し変わる。
確かに、
可愛い。
けれどそれ以上に、
安心した顔になる。
「これつけるとさ、
“ほら、可愛いでしょ”って言われなくなるんだ」
魔女は何も言わない。
ただ、
サファイアを見る。
深い青。
曇りのない、
意志の色。
「おれさ」
聖はゲーム機を膝に置いた。
「可愛くなれなかったんじゃない。
可愛く“なりたくなかった”んだと思う」
少しだけ、
怖そうに笑う。
「それって、ダメかな」
魔女は首を振る。
「サファイアはね、誠実さの宝石よ」
聖は目を瞬かせる。
「嘘をつかない強さ。
折れないけど、濁らない」
風が吹く。
宝石が、
夕暮れの光を受けて、
深く輝く。
「…じゃあさ」
聖は、
少し照れたように言った。
「おれ、このままでいい?」
魔女は、
静かに微笑む。
「ええ。君はもう、十分まっすぐよ」
一拍置いて、付け加える。
[太字]「可愛くなくても、君はちゃんと愛される」
[/太字]
聖の目が、少し揺れる。
「…それ、ずるい」
でも、笑った。
「おれは、おれのまま強くなる。それでいいだろ」
夕方の空が、
完全に青へ沈む。
魔女は立ち上がる。
「もう行くの?」
「ええ」
「そっか」
聖は立たない。
見送らない。
ただ、ゲーム機を手に取って、
言う。
「またどっかで会えたらさ。
今度は一緒に対戦しよ」
「ええ。負けないわよ」
「おれも」
その声は、
迷っていなかった。
魔女が去ったあと、
サファイアは静かに、
でも確かに光る。
可愛さじゃない。
飾りでもない。
澄んだ青は、
強さそのものだった。
物語は続く。
次の宝石が、どんな色で待っているかは—
まだ、風だけが知っている。
空の色が少し深くなってきた頃だった。
風が、
ひとつ跳ねる。
その向こうに、
ひとりの少女がいた。
ラフな服装。
空色と黒。
足元の石を蹴りながら、
携帯ゲーム機を操作している。
「…あ、ミスった」
小さく舌打ちして、
顔を上げる。
その目は、
驚くほど澄んだ青だった。
「君、旅人?」
声は低めで、
でも軽い。
距離の取り方が自然で、
壁がない。
魔女は歩みを止める。
「ええ」
「そっか。じゃあ、ちょっとだけ休んでく?」
少女はそう言って、
勝手に隣に座る場所を指差した。
「おれ、仰凪 聖。君は?」
「魔女よ」
「へえ。分かりやすくていいな」
聖は笑った。
作っていない、
けれど媚びてもいない笑顔。
手元のゲーム機が、
ふっと青い光を反射する。
サファイアだった。
「それ、君の宝石?」
「ん。そう」
軽く答えるけれど、
指先は一瞬だけ、
宝石を隠すみたいに動いた。
魔女は気づく。
この子は、
見抜くのが早い。
でも、
自分を見せるのは遅い。
「君、強い目をしてるわね」
その言葉に、
聖は一瞬だけ黙る。
「…よく言われる」
「褒め言葉?」
「さあ」
肩をすくめる。
「でもさ、それ言われるたびにさ。
“女の子なんだから、もっと可愛くしなさい”って、続くんだよ」
空を見る。
夕方の色に近づいてきていた。
「おれ、可愛いの、向いてないんだよな」
そう言って、
ポケットから丸眼鏡を取り出す。
かけると、
雰囲気が少し変わる。
確かに、
可愛い。
けれどそれ以上に、
安心した顔になる。
「これつけるとさ、
“ほら、可愛いでしょ”って言われなくなるんだ」
魔女は何も言わない。
ただ、
サファイアを見る。
深い青。
曇りのない、
意志の色。
「おれさ」
聖はゲーム機を膝に置いた。
「可愛くなれなかったんじゃない。
可愛く“なりたくなかった”んだと思う」
少しだけ、
怖そうに笑う。
「それって、ダメかな」
魔女は首を振る。
「サファイアはね、誠実さの宝石よ」
聖は目を瞬かせる。
「嘘をつかない強さ。
折れないけど、濁らない」
風が吹く。
宝石が、
夕暮れの光を受けて、
深く輝く。
「…じゃあさ」
聖は、
少し照れたように言った。
「おれ、このままでいい?」
魔女は、
静かに微笑む。
「ええ。君はもう、十分まっすぐよ」
一拍置いて、付け加える。
[太字]「可愛くなくても、君はちゃんと愛される」
[/太字]
聖の目が、少し揺れる。
「…それ、ずるい」
でも、笑った。
「おれは、おれのまま強くなる。それでいいだろ」
夕方の空が、
完全に青へ沈む。
魔女は立ち上がる。
「もう行くの?」
「ええ」
「そっか」
聖は立たない。
見送らない。
ただ、ゲーム機を手に取って、
言う。
「またどっかで会えたらさ。
今度は一緒に対戦しよ」
「ええ。負けないわよ」
「おれも」
その声は、
迷っていなかった。
魔女が去ったあと、
サファイアは静かに、
でも確かに光る。
可愛さじゃない。
飾りでもない。
澄んだ青は、
強さそのものだった。
物語は続く。
次の宝石が、どんな色で待っているかは—
まだ、風だけが知っている。