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350閲覧!?第二期始動! 募集内容は星の人にお店のメニュー!? 残り2人と4メニュー募集中!【参加型】星を紡ぐティータイム

#17

金星 一行の本音は、金星に預けて

夜は
、相変わらず名前を持たなかった。

看板のない喫茶店。
気づく人だけが辿り着けて、
気づかなかった人の記憶には、
最初から存在しない場所。

カウンターの奥で、マスターは静かにカップを磨いていた。

「…いらっしゃいませ」

声は低く、
柔らかい。
歓迎というより、確認に近い。

如月は、少しだけ肩をすくめてから、うなずいた。

「…こんばんは」

黄色のワンピースが、店の灯りを反射する。
幼い横顔。
それでも、どこかに「夜を越えてきた重さ」を抱えている目。

マスターは、何も聞かない。
名前も、事情も。

ただ、ひとつのグラスを差し出した。

透明なカクテルグラス。
底から縁に向かって、黄色が深くなる飲み物。
淡いピンクの粒が、星屑みたいに散っている。

「…これは?」

如月の声は、小さい。

「金星(ヴィーナス)の慈愛の瞳です」

マスターは、それ以上説明しなかった。

「私…何味か、分からなくて…」

「それでいいのです」

マスターは、視線を逸らしたまま言う。

「これは、飲む人が“決めなくていい”飲み物なのですから」

如月は、少し驚いたように瞬きをする。

ストローに口をつける。
ひと口。

甘い。
けれど、押しつけがましくない。

「…やさしい」

ぽつり、とこぼれた言葉。

「だが、慰めるための味じゃないんです」

マスターは、カウンターに肘をつき、
初めて、如月を見た。

「背中を押すための味なんです」

如月の指が、きゅっと握られる。

「…私、いつも…」

言葉が、途中で止まる。

「いいのです」

マスターは、遮らなかった。
でも、急かしもしない。

沈黙が、店に落ちる。

やがて、如月は小さく息を吸った。

「…私、みんなと違ってて…
だから、嫌われないように、
何も言わないようにしてて…」

声が、震える。

「本当は…
本当は、自分で決めたかったです」

その瞬間、
マスターの手が、ほんの一瞬だけ止まった。

カップを磨く手。
長い夜の中で、何度も繰り返してきた動作。

「…そうですか」

それだけ言って、
マスターは棚の奥から、古いノートを取り出した。

ページは黄ばんでいる。

「これは、私の日記なんです」

如月の目が、見開かれる。

「…見ても、いいんですか?」

「読まなくていいです」

マスターは、ノートを胸に当てた。

「ただ、知っておいてほしい」

静かな声。

「私は昔、
“代わりに決める側”だったということを」

如月は、黙って聞いている。

「傷ついた人の前で、
正しい言葉を選び、
安全な道を用意し、
間違えない未来を提示した」

マスターは、少しだけ笑った。

それは、後悔の混じった笑み。

「でも…
それで救われた人は、
自分の足で立てなくなった」

店の灯りが、わずかに揺れる。

「奪っていたんですよ。
“選ぶ権利”を」

如月の胸が、ぎゅっと締めつけられる。

「だから、ここでは癒さない。
答えも出さない」

マスターは、グラスに残った
黄色の光を見つめる。

「ただ、
背中を押すだけ」

如月は、飲み干していたグラスを見下ろす。

胸の奥が、あたたかくて、
でも、少し痛い。

「…マスター」

声が、いつもよりはっきりしていた。

「私、まだ…怖いです」

「それでいいと思います」

即答だった。

「怖くない選択など、
最初から“選択”じゃない」

沈黙。

やがて、如月は
胸元から小さな日記を取り出した。

「…これ、私……」

差し出してから、
はっとして、引っ込めかける。

マスターは、首を横に振った。

「読まないです」

それから、
はっきりと言った。

「でも、
書き続けてください」

「…え?」

「声にできない夜は、
文字が代わりになる」

マスターは、静かに続ける。

「だけど、いつか…
一行でいい。
誰かに向けて、声にしてください」

如月の目に、
涙が溜まる。

落ちない。
まだ、落ちない。

それでも、確かに揺れている。

「…はい」

その一言は、
今までで一番、
彼女自身の声だった。

夜が、店を包む。

金星は、
自らは光らない。

だが、
誰かの光を受けて、
確かに輝く。

マスターは、
その光を“所有しない”ことを選んだ人だった。

如月は、立ち上がる。

「…また、来てもいいですか」

マスターは、少しだけ目を細める。

「ここは、
“帰りたい夜”にだけ、開くお店です」

それで十分だった。

扉を出る前、
如月は振り返る。

「…ありがとうございました」

マスターは、答えない。

ただ、
磨き終えたカップを棚に戻した。

夜の外で、
黄色のワンピースが小さく揺れる。

彼女は、まだ弱い。
まだ迷う。

それでも―
もう、誰かに人生を渡さない。

その背中を、
マスターは、最後まで見送った。

癒さないまま。
信じたままで。

作者メッセージ

今回少々手抜きになってしまいました、すみません…。

他作品が時間がないので、今日はこのあたりで!

2026/01/25 00:00

KanonLOVE
ID:≫ n00YEDEqgv6kY
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