翌週。
学園は、
驚くほど平穏だった。
迷子は出ない。
廊下はまっすぐ。
夜になっても、
校舎は眠ったまま。
まるで、
あの夜が嘘だったみたいに。
◇
「ねえ、ゆめ」
昼休み。
雷が机に寝転びながら言う。
「先生さ、
何も言わないよね」
「…うん」
学園祭の夜のこと。
迷路のこと。
夜食を作らなかった判断のこと。
一切、
話題にしない。
「普通ならさ」
雷は、
天井を見ながら続ける。
「『危険だからやめなさい』とか。
『理由を説明しなさい』とか。
言うじゃん」
「…うん」
でも、
風白先生は言わない。
◇
数学の授業。
黒板に、
丁寧な字で数式を書く背中。
「この問題は、
途中まで合っています」
「大事なのは、
考え方です」
いつも通り。
でも。
―見ている。
雷は、
そう言った。
◇
授業中。
labyrinthとglitchは、
天井近くで小さく漂っている。
人間には、
見えない。
でも、
確実にそこにいる。
glitchが、
小声で言う。
「なあ、
この人間さ、
視線、
合ってない?」
labyrinthは、
びくっとした。
「え…?」
黒板に向いているはずの
風白先生の“意識”が、
確かにこちらを掠めた。
見ていない。
でも、
“位置”を把握している。
◇
放課後。
何でも屋の部屋―
図書室奥。
オゾンさんが、
楽しそうにノートを広げている。
「ねえねえ、
この学校、
夜の構造変化、
完全に制御されてるよ!
普通、
こうはならない」
「…先生のせい?」
私が聞くと、
オゾンさんは笑った。
「さあ?
でもさ、
“見えてる人”って、
大抵、
触りたがるんだよ」
「壊したり」
「調べたり」
「でも―」
そこで、
言葉を切った。
「風白先生は、
触らない」
◇
その日の夕方。
職員室。
風白先生は、
一人残っていた。
「…今日も、
異常なし」
小さく、
そう呟く。
誰に聞かせるでもなく。
その背後。
半透明の影が、
一瞬だけ揺れた。
glitchだ。
「…なあ」
小さな声。
「人間」
風白先生は、
振り向かない。
「話しかけていませんよ」
ぴたり。
glitchは、
固まった。
「…聞こえてる?」
「いいえ」
即答。
「私は、
独り言が多いだけです」
完璧な、
距離。
◇
glitchが、
labyrinthのもとに戻る。
「…やばい」
「この人」
labyrinthは、
小さく震えた。
「怒ってる…?」
「違う」
glitchは、
珍しく真顔だった。
「怒ってない」
「“管理してる”」
◇
その夜。
校舎は、
静かだった。
迷宮は、
起動しない。
labyrinthは、
能力を抑えていた。
理由は、
誰にも言わない。
ただ、
分かってしまったから。
この学校には―
“見ないことで、
守る存在”がいる。
◇
翌朝。
私は、
風白先生に呼び止められた。
「神谷さん―
最近、
少し疲れていませんか」
心臓が跳ねる。
「い、いえ…」
「そうですか」
深追いしない。
でも、
一言だけ付け加える。
「無理は、
しないでください」
それだけ。
◇
雷が、
後ろで呟いた。
「ね。
先生さ、
悪魔より、
よっぽど厄介」
私は、
小さく笑った。
たぶん。
この学校は、
これからも―
大きな事件は起きない。
でも。
起きないようにしている人が、
確実にいる。
それが、
風白先生。
誰にも気づかれないまま。
学園は、
驚くほど平穏だった。
迷子は出ない。
廊下はまっすぐ。
夜になっても、
校舎は眠ったまま。
まるで、
あの夜が嘘だったみたいに。
◇
「ねえ、ゆめ」
昼休み。
雷が机に寝転びながら言う。
「先生さ、
何も言わないよね」
「…うん」
学園祭の夜のこと。
迷路のこと。
夜食を作らなかった判断のこと。
一切、
話題にしない。
「普通ならさ」
雷は、
天井を見ながら続ける。
「『危険だからやめなさい』とか。
『理由を説明しなさい』とか。
言うじゃん」
「…うん」
でも、
風白先生は言わない。
◇
数学の授業。
黒板に、
丁寧な字で数式を書く背中。
「この問題は、
途中まで合っています」
「大事なのは、
考え方です」
いつも通り。
でも。
―見ている。
雷は、
そう言った。
◇
授業中。
labyrinthとglitchは、
天井近くで小さく漂っている。
人間には、
見えない。
でも、
確実にそこにいる。
glitchが、
小声で言う。
「なあ、
この人間さ、
視線、
合ってない?」
labyrinthは、
びくっとした。
「え…?」
黒板に向いているはずの
風白先生の“意識”が、
確かにこちらを掠めた。
見ていない。
でも、
“位置”を把握している。
◇
放課後。
何でも屋の部屋―
図書室奥。
オゾンさんが、
楽しそうにノートを広げている。
「ねえねえ、
この学校、
夜の構造変化、
完全に制御されてるよ!
普通、
こうはならない」
「…先生のせい?」
私が聞くと、
オゾンさんは笑った。
「さあ?
でもさ、
“見えてる人”って、
大抵、
触りたがるんだよ」
「壊したり」
「調べたり」
「でも―」
そこで、
言葉を切った。
「風白先生は、
触らない」
◇
その日の夕方。
職員室。
風白先生は、
一人残っていた。
「…今日も、
異常なし」
小さく、
そう呟く。
誰に聞かせるでもなく。
その背後。
半透明の影が、
一瞬だけ揺れた。
glitchだ。
「…なあ」
小さな声。
「人間」
風白先生は、
振り向かない。
「話しかけていませんよ」
ぴたり。
glitchは、
固まった。
「…聞こえてる?」
「いいえ」
即答。
「私は、
独り言が多いだけです」
完璧な、
距離。
◇
glitchが、
labyrinthのもとに戻る。
「…やばい」
「この人」
labyrinthは、
小さく震えた。
「怒ってる…?」
「違う」
glitchは、
珍しく真顔だった。
「怒ってない」
「“管理してる”」
◇
その夜。
校舎は、
静かだった。
迷宮は、
起動しない。
labyrinthは、
能力を抑えていた。
理由は、
誰にも言わない。
ただ、
分かってしまったから。
この学校には―
“見ないことで、
守る存在”がいる。
◇
翌朝。
私は、
風白先生に呼び止められた。
「神谷さん―
最近、
少し疲れていませんか」
心臓が跳ねる。
「い、いえ…」
「そうですか」
深追いしない。
でも、
一言だけ付け加える。
「無理は、
しないでください」
それだけ。
◇
雷が、
後ろで呟いた。
「ね。
先生さ、
悪魔より、
よっぽど厄介」
私は、
小さく笑った。
たぶん。
この学校は、
これからも―
大きな事件は起きない。
でも。
起きないようにしている人が、
確実にいる。
それが、
風白先生。
誰にも気づかれないまま。
- 1.先生が声を出して。
- 2.契約シマセンカ?
- 3.優シイ先生ノ協力デ活動開始シマス
- 4.契約ナキ悪魔タチ
- 5.新しい歯車が、静かに噛み合い始める
- 6.試験と、噂の始まり。 ―それは、助ける覚悟があるかを見る試験
- 7.―星が軽くするもの
- 8.風が変わる前に悪魔、夏休みへ帰る
- 9.魔界の夏日記
- 10.タクサン人ガ増エマシタ。
- 11.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 前編
- 12.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 後編
- 13.部員、増エマシタ
- 14.準備トイウ名ノ、予兆―
- 15.迷子ガ増エル日
- 16.昼ノ、普通
- 17.夜ハ、静カニ壊レル
- 18.先生ハ、気ヅカセナイ―
- 19.点数の裏側
- 20.冬になる前に
- 21.零点ノ居場所