学園祭まで、
あと一週間。
校内の空気は、
完全に「準備モード」だった。
段ボールの山。
ペンキの匂い。
普段は使われない教室の扉が、
次々と開いていく。
―はず、だった。
◇
「…あれ?」
図書室の前で、
見知らぬ生徒が立ち止まっていた。
白衣姿。
腰のベルトには、
ビーカーがいくつも下がっている。
完全に、
理科室の人。
オゾンさんだ。
「ここ、
理科準備室じゃないよね?」
首を傾げながら、
こちらを見る。
「えっと…図書室です」
私が答えると、
彼はぱちりと目を瞬かせた。
「そっか。
じゃあ迷ったな」
さらっと言った。
…名乗った?
雷が、
私の後ろで小さく言う。
「この人、
“見えてる”側だね」
◇
風白先生は、
そのやり取りを、
少し離れた場所で見ていた。
見ている。
でも、
“見えている”ものには触れない。
「神谷さん」
穏やかな声。
「その方も、
相談でしょうか」
オゾンさんは、
一瞬だけ、
先生をじっと見た。
―ほんの一瞬。
「…うん」
それから、
少しだけ笑う。
「相談、かな」
◇
その日の放課後。
「迷子が多いですね」
風白先生は、
何でも屋の机に
簡単なメモを広げた。
「同じ場所を、
何度も通ったという報告」
「階段が、
増えたように感じたという証言」
全部、
“気のせい”で処理できる程度。
でも、
数が多すぎる。
雷が、
机の上で足をぶらぶらさせながら言う。
「ねー、
これさ。
夜に、
学校が動いてない?」
…動いてる。
私も、
うすうす感じていた。
◇
その夜。
校舎の奥。
使われていない棟。
半透明の少女が、
ぽつりと呟く。
「ちょっとやりすぎた?」
labyrinth。
「まあいいや」
その隣で、
少年が腕を組む。
「やりすぎだな」
glitch。
二人は、
校舎を“遊び場”みたいに見ていた。
迷路。
抜け道。
ショートカット。
夜の学校は、
少しずつ、
組み替えられていく。
◇
翌日。
風白先生は、
いつもより少しだけ
早く学校に来ていた。
誰もいない廊下。
「…」
一歩。
二歩。
歩幅を測るように、
床を踏む。
昨日と、
同じ距離。
―でも。
「…なるほど」
それだけ言って、
何も記さない。
止めない。
壊さない。
ただ、
“起きている”ことを
把握する。
それが、
この人のやり方。
◇
放課後。
「先生」
私が声をかけると、
風白先生は振り向いた。
「何か、
おかしいですよね」
直球だった。
先生は、
少しだけ困ったように笑う。
「学園祭前は、
だいたいこんなものです」
嘘。
でも、
優しい嘘。
「不安になりますか?」
「…少し」
正直に答える。
風白先生は、
小さく頷いた。
「それでいいです。
不安になる、
ということは、
ちゃんと、
周りを見ている証拠ですから」
雷が、
小さく呟く。
「…ほんと、
ズルい大人」
◇
その日の終わり。
オゾンさんが、
図書室の入口で言った。
「君たち、
面白い場所にいるね」
「ここ」
「迷路の“外側”だ」
私は、
その意味をまだ理解できなかった。
でも。
風白先生だけは、
一瞬だけ、
目を伏せた。
知っている。
全部。
それでも、
何も言わない。
学園祭は、
もうすぐ。
迷路は、
完成に近づいている。
そして―
何でも屋は、
その中心に、
立ってしまった。
あと一週間。
校内の空気は、
完全に「準備モード」だった。
段ボールの山。
ペンキの匂い。
普段は使われない教室の扉が、
次々と開いていく。
―はず、だった。
◇
「…あれ?」
図書室の前で、
見知らぬ生徒が立ち止まっていた。
白衣姿。
腰のベルトには、
ビーカーがいくつも下がっている。
完全に、
理科室の人。
オゾンさんだ。
「ここ、
理科準備室じゃないよね?」
首を傾げながら、
こちらを見る。
「えっと…図書室です」
私が答えると、
彼はぱちりと目を瞬かせた。
「そっか。
じゃあ迷ったな」
さらっと言った。
…名乗った?
雷が、
私の後ろで小さく言う。
「この人、
“見えてる”側だね」
◇
風白先生は、
そのやり取りを、
少し離れた場所で見ていた。
見ている。
でも、
“見えている”ものには触れない。
「神谷さん」
穏やかな声。
「その方も、
相談でしょうか」
オゾンさんは、
一瞬だけ、
先生をじっと見た。
―ほんの一瞬。
「…うん」
それから、
少しだけ笑う。
「相談、かな」
◇
その日の放課後。
「迷子が多いですね」
風白先生は、
何でも屋の机に
簡単なメモを広げた。
「同じ場所を、
何度も通ったという報告」
「階段が、
増えたように感じたという証言」
全部、
“気のせい”で処理できる程度。
でも、
数が多すぎる。
雷が、
机の上で足をぶらぶらさせながら言う。
「ねー、
これさ。
夜に、
学校が動いてない?」
…動いてる。
私も、
うすうす感じていた。
◇
その夜。
校舎の奥。
使われていない棟。
半透明の少女が、
ぽつりと呟く。
「ちょっとやりすぎた?」
labyrinth。
「まあいいや」
その隣で、
少年が腕を組む。
「やりすぎだな」
glitch。
二人は、
校舎を“遊び場”みたいに見ていた。
迷路。
抜け道。
ショートカット。
夜の学校は、
少しずつ、
組み替えられていく。
◇
翌日。
風白先生は、
いつもより少しだけ
早く学校に来ていた。
誰もいない廊下。
「…」
一歩。
二歩。
歩幅を測るように、
床を踏む。
昨日と、
同じ距離。
―でも。
「…なるほど」
それだけ言って、
何も記さない。
止めない。
壊さない。
ただ、
“起きている”ことを
把握する。
それが、
この人のやり方。
◇
放課後。
「先生」
私が声をかけると、
風白先生は振り向いた。
「何か、
おかしいですよね」
直球だった。
先生は、
少しだけ困ったように笑う。
「学園祭前は、
だいたいこんなものです」
嘘。
でも、
優しい嘘。
「不安になりますか?」
「…少し」
正直に答える。
風白先生は、
小さく頷いた。
「それでいいです。
不安になる、
ということは、
ちゃんと、
周りを見ている証拠ですから」
雷が、
小さく呟く。
「…ほんと、
ズルい大人」
◇
その日の終わり。
オゾンさんが、
図書室の入口で言った。
「君たち、
面白い場所にいるね」
「ここ」
「迷路の“外側”だ」
私は、
その意味をまだ理解できなかった。
でも。
風白先生だけは、
一瞬だけ、
目を伏せた。
知っている。
全部。
それでも、
何も言わない。
学園祭は、
もうすぐ。
迷路は、
完成に近づいている。
そして―
何でも屋は、
その中心に、
立ってしまった。
- 1.先生が声を出して。
- 2.契約シマセンカ?
- 3.優シイ先生ノ協力デ活動開始シマス
- 4.契約ナキ悪魔タチ
- 5.新しい歯車が、静かに噛み合い始める
- 6.試験と、噂の始まり。 ―それは、助ける覚悟があるかを見る試験
- 7.―星が軽くするもの
- 8.風が変わる前に悪魔、夏休みへ帰る
- 9.魔界の夏日記
- 10.タクサン人ガ増エマシタ。
- 11.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 前編
- 12.絶対(?)爆笑回 先生ハ料理ヲ出来ナイ。 後編
- 13.部員、増エマシタ
- 14.準備トイウ名ノ、予兆―
- 15.迷子ガ増エル日
- 16.昼ノ、普通
- 17.夜ハ、静カニ壊レル
- 18.先生ハ、気ヅカセナイ―
- 19.点数の裏側
- 20.冬になる前に
- 21.零点ノ居場所