学園祭の準備期間は、
いつもより少しだけ、
学校が騒がしくなる。
廊下には色紙。
教室には段ボール。
普段は静かな放課後も、
どこか落ち着かない。
何でも屋の活動場所―
図書室の奥にも、
学園祭用の掲示が貼られていた。
[太字][大文字]「相談所」
[/大文字][/太字]そう書かれた、
控えめな紙。
派手さはない。
でも、
風白先生はそれを見て、
小さく頷いた。
「いいですね」
いつも通りの、穏やかな声。
「目立ちすぎない」
「でも、必要な人には届く」
…何でも屋らしい。
◇
その日、
私は実行委員に呼ばれていた。
「神谷さん、
何でも屋も学園祭、参加でいいよね?」
「はい」
断る理由はない。
でも。
「ただし」
実行委員の先輩が、
少しだけ言いにくそうに言う。
「夜食系は…なしで」
…ですよね。
「大丈夫です」
私は即答した。
その話を、
活動時間に報告すると。
雷は、
「英断」
とだけ言った。
◇
「神谷さん」
風白先生が、
ノートを覗き込みながら言う。
「学園祭当日は、
人の流れが複雑になります」
複雑。
「迷子や、
相談事も増えるでしょう」
…迷子。
その単語に、
一瞬だけ、
雷とオゾンさんが反応した。
風白先生は、
気づかないふりをして続ける。
「ですから、
私は全体の導線を
事前に確認しておきます」
黒板に、
学校の簡易マップが描かれる。
正確すぎる。
「この時間帯は、
こちらの廊下が混みます」
「階段は、
右側通行が多いですね」
…細かい。
でも、
それが風白先生。
◇
「先生、
学園祭、忙しくないですか?」
ふと、
私が聞くと。
先生は、
少しだけ考えてから答えた。
「忙しいですね」
即答。
「ですが、
行事のときほど、
生徒は普段と違う動きをします。
その“違い”を、
見ておく必要があります」
…見る。
でも、
“見えているはずのもの”は、
見ない。
雷が、
ぼそっと言う。
「相変わらず、
選択的盲目だな」
◇
その夜。
校内で、
小さな噂が流れ始めた。
「階段の数、
合わなくなかった?」
「同じ廊下、
ぐるぐる回った気がする」
偶然。
疲れ。
準備のせい。
そうやって、
全部片づけられていく。
風白先生は、
その話を聞いても、
驚かなかった。
「準備期間は、
混乱しやすいですから」
それだけ。
◇
放課後、
誰もいない廊下。
風白先生は、
一度だけ立ち止まり、
床を見た。
―ほんの一瞬。
何もない、
普通の床。
でも、
雷は見ていた。
床の模様が、
“一瞬だけ”違ったことを。
風白先生は、
何も言わず、
歩き出す。
見ていない。
でも、
気づいていないわけじゃない。
私は、
その背中を見ながら思った。
この人は、
きっと―
学園祭が、
無事に終わるかどうかより。
“何が起きるか”を、
もう分かっている。
それでも、
止めない。
止めるより、
支える方を選ぶ人だから。
準備期間は、
まだ始まったばかり。
でも、
何かが動き出している。
静かに。
確実に。
―学園祭の、
裏側で。
いつもより少しだけ、
学校が騒がしくなる。
廊下には色紙。
教室には段ボール。
普段は静かな放課後も、
どこか落ち着かない。
何でも屋の活動場所―
図書室の奥にも、
学園祭用の掲示が貼られていた。
[太字][大文字]「相談所」
[/大文字][/太字]そう書かれた、
控えめな紙。
派手さはない。
でも、
風白先生はそれを見て、
小さく頷いた。
「いいですね」
いつも通りの、穏やかな声。
「目立ちすぎない」
「でも、必要な人には届く」
…何でも屋らしい。
◇
その日、
私は実行委員に呼ばれていた。
「神谷さん、
何でも屋も学園祭、参加でいいよね?」
「はい」
断る理由はない。
でも。
「ただし」
実行委員の先輩が、
少しだけ言いにくそうに言う。
「夜食系は…なしで」
…ですよね。
「大丈夫です」
私は即答した。
その話を、
活動時間に報告すると。
雷は、
「英断」
とだけ言った。
◇
「神谷さん」
風白先生が、
ノートを覗き込みながら言う。
「学園祭当日は、
人の流れが複雑になります」
複雑。
「迷子や、
相談事も増えるでしょう」
…迷子。
その単語に、
一瞬だけ、
雷とオゾンさんが反応した。
風白先生は、
気づかないふりをして続ける。
「ですから、
私は全体の導線を
事前に確認しておきます」
黒板に、
学校の簡易マップが描かれる。
正確すぎる。
「この時間帯は、
こちらの廊下が混みます」
「階段は、
右側通行が多いですね」
…細かい。
でも、
それが風白先生。
◇
「先生、
学園祭、忙しくないですか?」
ふと、
私が聞くと。
先生は、
少しだけ考えてから答えた。
「忙しいですね」
即答。
「ですが、
行事のときほど、
生徒は普段と違う動きをします。
その“違い”を、
見ておく必要があります」
…見る。
でも、
“見えているはずのもの”は、
見ない。
雷が、
ぼそっと言う。
「相変わらず、
選択的盲目だな」
◇
その夜。
校内で、
小さな噂が流れ始めた。
「階段の数、
合わなくなかった?」
「同じ廊下、
ぐるぐる回った気がする」
偶然。
疲れ。
準備のせい。
そうやって、
全部片づけられていく。
風白先生は、
その話を聞いても、
驚かなかった。
「準備期間は、
混乱しやすいですから」
それだけ。
◇
放課後、
誰もいない廊下。
風白先生は、
一度だけ立ち止まり、
床を見た。
―ほんの一瞬。
何もない、
普通の床。
でも、
雷は見ていた。
床の模様が、
“一瞬だけ”違ったことを。
風白先生は、
何も言わず、
歩き出す。
見ていない。
でも、
気づいていないわけじゃない。
私は、
その背中を見ながら思った。
この人は、
きっと―
学園祭が、
無事に終わるかどうかより。
“何が起きるか”を、
もう分かっている。
それでも、
止めない。
止めるより、
支える方を選ぶ人だから。
準備期間は、
まだ始まったばかり。
でも、
何かが動き出している。
静かに。
確実に。
―学園祭の、
裏側で。